深層地理学

地政学的リスクの中で存在感を高める、ASEANの選択

ASEANの動きは十分速いのでしょうか。神田眞人アジア開発銀行(ADB)総裁、ダボスにおける2026年世界経済フォーラム年次総会アジア太平洋セッションにて。

ASEANの動きは十分速いのでしょうか。神田眞人アジア開発銀行(ADB)総裁、ダボスにおける2026年世界経済フォーラム年次総会アジア太平洋セッションにて。 Image: World Economic Forum

Elizabeth Mills
本稿は、以下会合の一部です。世界経済フォーラム年次総会2026
  • 地政学的な緊張と貿易上の緊張状態が高まる中、東南アジア諸国連合(ASEAN)は自らの強みを活かし、課題に取り組もうとしています。
  • その目標は、投資家やパートナーに対し、ビジネスや貿易を行うためのダイナミック、安全かつ中立的な場を提供することです。
  • 統合の深化、レジリエンスの強化、教育や包摂性といった課題への取り組みに重点を置きながら、その移行におけるスピードと質の両方が検討されています。

現在進行中の地政学的な大変革期は、世界各国に巨大な機会とリスクをもたらしていますが、おそらく東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国ほどその影響を強く受ける国々はないでしょう。

11カ国から成る同連合は、世界第4位の経済圏となることを目指しており、中立的かつ緩やかに調和された、開放的、ダイナミックかつ起業家精神にあふれたパートナーを排出しています。チューリッヒ保険グループのアジア太平洋地域最高経営責任者であるタルシ・ナイドゥ氏は、これを「極めて魅力的な成長機会」と評しています。

「貿易主導型」と評される同地域は、ここ数カ月、加盟国が10%から48%に及ぶ米国の関税に直面する厳しい貿易環境の中でも、驚くべレジリエンスを見せています。

連携による強さの発見

アジア開発銀行(ADB)の神田眞人総裁が指摘するように、さらなる「地域的な連携と産業・貿易の多様化が外部ショックに対する最善の防御策」であり、リーダーたちがこれを認識する中、ASEANはより迅速な変革に向けて懸命に取り組んでいます。

多くの貿易ブロックと同様に、ASEANも現在、地政学的、経済的出来事への最善の対処法を模索しています。タイのエクニティ・ニティタンプラパス副首相は、ASEAN加盟国が連携を継続することが極めて重要だと述べています。地域ブロックが多国間体制や多国間組織に取って代わる中、投資家は当然ながら安全性を求めるでしょう。ASEAN諸国の長年にわたる中立性と比較的安定した平和が魅力として評価されると予想されます。さらに、同連合は「他地域へ成長するための跳躍台」としての地位を確立することで、その恩恵を享受する機会を得ています。

すでに中国やインドを含む少なくとも7カ国と貿易協定を結び、カナダとのFTA交渉も進めています。

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着目される変革のスピードと質

変革のスピードと質は、両方とも重要です。ASEAN諸国にはすでに運輸、エネルギー分野で拡大するインフラネットワークが存在しており、AIなどの技術をより効果的に活用するためのデジタルインフラ整備が進行中です。

今年中に署名予定のデジタル経済枠組み協定(DEFA)を踏まえ、同地域のリーダーたちは相互運用性が不可欠であることを認識。デジタルIDの基盤、フレームワーク、インターフェース、ガバナンス、そして最終的にはこれらのシステムのサービス共有が必要であると理解しています。

これにより、ASEAN諸国は貿易、医療、物流、電子商取引などの分野で大きな進展を遂げると同時に、中小零細企業(SMSE)の大半をデジタル市場に参入させ、新たな成長機会を創出する可能性があります。

課題に対する自己認識と振り返り

ASEANのリーダーたちは、特に地域が直面する課題に関して、強い自己認識を示しています。同地域は、その6億8,000万人の人口のうち、2億1,300万人が15歳から34歳という潜在的な人口ボーナスを有しています。しかし、インドネシアのムティア・ハフィド通信デジタル大臣が指摘したように、これは単なる優位性に過ぎません。 質の高い雇用が確保され、労働力がスキルアップしなければ、社会不安のリスクが生じるでしょう。

こうした認識を踏まえ、教育の質向上、包摂性の強化、開発促進に向けた取り組みが域内全体で進められています。年次総会において、インドネシアのプラボウォ・スビアント大統領は、学生や脆弱なコミュニティに焦点を当て、教育、保健、重要インフラを強化するため、同政権が推進する大規模な国家プログラムの概要を説明しました。

過去1年間で、同国政府は子どもやその他の脆弱なグループを対象に、全国的な無料給食制度を導入。2026年末までに、1日あたり約8,300万食の提供を目指しています。これは差し迫ったニーズへの対応であると同時に、将来世代への投資でもあります。これにより、対象者への栄養補給だけでなく、GDPの成長が促進され、これらのサービスを通じて雇用が創出され、最終的にはより健康的な国民が育成されると見込まれています。

レジリエンス強化に向けた取り組み

多くの関係者が懸念する主要課題は、気候変動の影響に対する地域の脆弱性です。特に、ここ数カ月の大規模な洪水被害が示すように、異常気象の発生が深刻な課題となっています。

域内各国首脳は、より強固なレジリエンス構築の必要性を認識しています。調達から公正なサプライチェーンに至るまで、あらゆる面で準備と予防が不可欠であるという基本的な理解が共有されています。これに加え、複数のリーダーたちが年次総会を、気候目標と合意へのコミットメントを再確認する機会としています。

たとえば、環境への懸念を反映し、年次総会の「ブルー・ダボス」海洋プログラムの一環として、インドネシアは6月にバリで開催される初の「海洋インパクト・サミット」への協力を発表。同会合は、持続可能な成長、気候変動対策、食料安全保障、沿岸地域コミュニティの生活基盤に不可欠な戦略的優先事項として、健全な海洋環境の推進を目指します。

より広範な視点では、同地域ブロックにおいて包括的な変革が進行中であるとの認識が広がっています。世界知的所有権機関(WIPO)のダレン・タン事務局長は、ASEANが「新興国の中で最も多くのユニコーン企業を擁する地域の一つ」であり、その数は45~50社に達すると指摘。同地域の研究開発費は600億ドルに達し、イノベーションへの強いコミットメントを示すと同時に、特許や意匠などの分野での出願件数は急速に増加しています。同事務局長は、ASEANが知的財産の消費者から「創造し、発明し、アイデアを市場に届ける」存在へと変容しつつあると示唆し、「今や観光や天然資源だけでなく、創造性と起業家精神も注目されている」と付け加えました。

ASEANのリーダーたちは、現在の環境下では、ニティタンプラパス大臣が示唆したように「より一層の協力が必要であり、そうしなければ我々は苦しむことになる」と懸念しています。これに対抗する形で、この地域は平和と安定が貴重な資産であるという認識を保持しています。これは、この不確実な時代において最も魅力的な提案となり得るでしょう。

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