マニュファクチャリングとバリューチェーン

アジア太平洋地域の産業競争力を再構築する、6つの変化

自動車組立工場で働く2人の男性。アジア太平洋地域は、グローバルな工業生産の基盤であり、その仕組みは変化しつつあります。

アジア太平洋地域は、グローバルな工業生産の基盤であり、その仕組みは変化しつつあります。 Image: REUTERS/Thanh Hue

Julia Franchi Scarselli
Regional Decarbonization Lead, World Economic Forum
Jeet Kar
Lead, Policy and Sustainable Trade, World Economic Forum
本稿は、以下センター (部門)の一部です。 自然と気候
  • 産業競争力は、個別の技術よりも、協調的な低炭素産業システムの導入に対する依存を強めています。
  • 需要の創出、地域の産業エコシステム、協調的な資金調達が、アジア太平洋地域全体の産業変革の基盤となりつつあります。
  • サーキュラリティ(循環性)が中核的な産業戦略へと進化しており、競争力、資源の安定確保、地域バリューチェーンのレジリエンスを強化しています。

アジア太平洋全域に、産業変革の新たな段階が到来しつつあります。過去10年間の大半において、注目は画期的な技術の開発、コスト削減、そして産業の脱炭素化が技術的に可能であるという実証に集中していました。現在の重点は、スケールアップです。

イノベーションは依然として不可欠ですが、重工業全体で排出量を削減するために必要な技術の多くは、すでに存在しています。

これらの技術を拡大するには、技術革新以上のものが必要です。需要、資金、インフラ、基準、政策を整合させ、投資を加速し、リスクを低減し、競争力を強化することのできる、協調的な産業システムを構築することが、その鍵を握っているのです。

この転換を適切に実現することは、アジア太平洋地域において特に重要です。同地域は、グローバルな製造業付加価値の半分以上、そして世界の温室効果ガス排出量の半分以上を占めているからです。また、世界の製造能力の多く、急速に拡大する需要、豊富な再生可能資源、高度化に向かう産業能力を兼ね備えています。

その結果、アジア太平洋地域は、この転換を適切に実現できるかどうかを問う、真のグローバルな試金石となっているのです。同地域が成功すれば、他の経済圏や地域もそれに続くでしょう。

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アジア太平洋地域の産業競争力は、以下の6つの点ですでに進化しつつあります。

1. 産業競争力が、コンプライアンスに代わって組織化の原則となりつつある

長年にわたり、気候政策と産業政策は多くの場合、並行して進展してきました。一方は排出削減に焦点を当て、もう一方は、生産性、輸出、経済成長に焦点を当てていました。

こうした区別は一層曖昧なものとなっています。

カーボンパフォーマンスは、調達決定、投資戦略、国際貿易に組み込まれるようになり、産業の脱炭素化は産業競争力と一層切り離せなくなっています。各国政府や企業は、脱炭素化を単なる規制上の義務と見なすのではなく、輸出競争力、産業のレジリエンス、長期的な経済成長の原動力として位置付ける傾向が強まっています。今、課題となっているのは、各国が脱炭素化を進めつつ、いかにして競争力を強化できるかということです。

現在、韓国全土において、気候政策と産業政策の区別が薄れつつあります。

チャン・ホン・リー、韓国大統領直属気候委員会 共同委員長

2. 地域的な産業エコシステムが、好ましい実施モデルとなる

産業の変革は、ますます地域的なものになりつつあります。

鉄鋼、重要鉱物、化学製品、クリーン燃料のサプライチェーンは、すでに複数の国にまたがっており、その結果、競争上の優位性は、国境を越えて生産者、製造業者、物流事業者、金融業者、買い手を結び付ける地域的な産業エコシステムへの依存の度合を高めています。

「オーストラリア・東アジア鉄鉱石グリーン回廊」や「ASEAN循環経済枠組み」といった新たな取り組みは、この進化を如実に示しています。各国政府は、個々のプロジェクトを調整するのではなく、地域的なバリューチェーン全体でインフラ、基準、認証、需要を整合させ、より大規模で投資しやすい産業システムを構築しようと努めています。

グリーン水素を含むグリーン分子などの分野では、認証、基準、支援政策の整合を図ることにより、市場の分断を軽減し、投資家の信頼を築き、導入を加速させることができます。同様に、リサイクル含有率の要件や循環型設計の原則を調和させることで、二次材料における信頼性の高い国境を越えた取引を促進し、地域の循環性を強化することができるでしょう。

地域バリューチェーンは、産業変革における好ましい実施モデルとなりつつあり、各国が国境を越えて投資、インフラ、規格、需要を調整すると同時に、より競争力があり、レジリエンスの高い産業エコシステムを構築することを可能にしています。

低炭素社会への道は、アジア太平洋地域を通っています。この地域が大規模に循環型の取り組みを導入することで、グローバルに必要とされる温室効果ガス排出削減量の最大25%に対応可能です。

アンソニー・ワタナベ、インドラマ・ベンチャーズ 最高サステナビリティ責任者

3. 需要創出が、導入における主要な課題になる

技術だけでは市場は生まれません。

脱炭素が困難な部門の多くにおいて、生産者は確約した買い手がいなければ投資に消極的である一方、買い手は信頼できる供給が確保されるまで行動できずにいます。この調整のギャップが、商業的な導入を遅らせているのです。

したがって、需要の創出は産業政策における決定的な優先事項の一つです。

公共調達、事前市場コミットメント、企業の共同調達、長期引取契約などは、技術的に実現可能なプロジェクトを投資対象となる産業へと転換するために必要な「市場の確実性」を提供することができるでしょう。焦点は、それを大規模に展開できる市場を創出することにあります。

調達決定にカーボンや循環性の基準が組み込まれるにつれ、市場も変化しています。

ホ・ヒョンスク、ヒョンデ・モータース バイスプレジデント

4. サーキュラリティは産業戦略となりつつある

産業競争力の源泉としてのサーキュラリティ(循環性)の認識が高まっています。

サプライチェーンリスクの高まり、地政学的な不確実性、および一次原材料価格の予測不可能な変動に直面する中、先見性のある産業政策に不可欠な柱としてサーキュラリティが注目され始めているのです。

この変化は、産業政策にも反映されつつあります。2026年6月に発表された韓国の新たな「サーキュラー・エコノミー先進企業・産業特区プログラム」には、LGエレクトロニクス、ポスコ、現代製鉄など16社のパートナー企業が名を連ねており、サーキュラリティが産業戦略として採用されていることを示すと同時に、サーキュラリティが単なる環境対策から、産業の中核をなす必要不可欠な要素へと進化していることを浮き彫りにしています。

公共政策は、この産業の潮流と歩調を合わせ、脱炭素化と循環型経済の相乗効果を促進する、より効率的な政策を講じる必要があります。世界経済フォーラムのUpLink(アップリンク)チャレンジでは、レジリエンスの高い経済システムを実現するために、よりクリーンな生産を推進し、原材料の使用量を削減する低炭素かつ循環型の技術ソリューションを求めています。

サーキュラリティを実現するための政策は、鉄鋼やセメントといった主要輸出品の二酸化炭素排出量を削減する可能性を秘めています。

クム・ハンスン、韓国気候エネルギー環境部第一次官

5. 技術への資金提供から産業エコシステムへの資金提供への転換が求められる

エネルギー転換への資金提供はすなわち、産業システムへの資金提供を意味します。

過去10年間、低炭素・循環型技術の開発と実証を支援する資金は、依然として不十分ですが、相当な規模で投入されてきました。一方、公的資金は、初期段階のリスクを吸収し、民間投資を呼び込む触媒的な役割を果たしてきました。ただし、産業変革の次の段階では、資金が単なる技術支援にとどまらず、実証済みの解決策を拡大させることを可能にする産業エコシステムを支援することが求められます。

これは、慈善団体、開発金融機関、商業銀行、公的資金が、イノベーションと導入のプロセスのさまざまな段階において連携することを意味します。また、プロジェクトを投資家のリスク・リターン期待に整合させ、より大規模な民間資本を動員するための、金融構造や投資手段のさらなる標準化も必要となるでしょう。

資金の規模と同様に、その使途も重要です。開発途上国や中小企業が適切な資金調達にアクセスできるようにすることは、移行の断片化を回避し、アジア太平洋地域全体で産業変革を推進する上で極めて重要となります。ブレンデッド・ファイナンス、譲許的資金、新たなリスク分担アプローチは、いずれも投資へのアクセスを拡大する上で重要な役割を果たすと考えられます。

INGグループのサステナブル・ソリューションズ・グループ・ディレクター、ルイーズ・キム氏は 「単一の資産への資金提供から、産業エコシステムへの資金提供へと移行する必要があります」と指摘します。「銀行は、アジア太平洋地域全体の市場を結び付け、国境を越えた協力と知識の共有を促進し、地域レベルで移行を拡大するために必要なパイプラインの構築を支援する上で、極めて重要な役割を果たすでしょう」。

6. 産業変革には、官民の協調的な連携が鍵となる

産業変革は、最終的には調整についての課題です。

各国政府は、政策の確実性と市場シグナルを確立。産業界は生産を拡大し、需要を創出します。金融機関は資本を動員します。国際機関は、地域間の協力を促進し、基準の整合化を支援します。

競争力のある産業システムを、単独の主体のみで構築することはできません。

その成否は、これらの主体が連携して行動することのできる制度的枠組みの有無にかかっています。そのような枠組みが存在することで、不確実性が軽減され、バリューチェーン全体での展開が加速されるでしょう。

産業転換を成功させるためには、迅速なイノベーションの導入と大規模な連携が必要です

キム・サンヒョプ、グローバル・グリーン成長研究所 事務総長

次世代に向けた産業競争力の構築

このような変化からは、アジア太平洋地域の産業転換は新たな段階に入っていることが示唆されます。

産業成長の次の段階は、個々の技術的ブレークスルーではなく、需要、資金、インフラ、基準、地域協力を調整し、実用可能な産業システムへと統合する能力によって定義されることになるでしょう。

競争はもはや、単に次の画期的技術を発明することのみではありません。実証済みのソリューションを大規模に展開できる産業システムを構築することこそが、競争の焦点となっています。アジア太平洋地域およびその他の地域でこれを実現することのできる経済圏は、資源の安定確保を図り、次世代のグローバルバリューチェーンの形成に貢献することになるでしょう。

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