自然と生物多様性

里海が導く、日本の海草再生と脱炭素

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海草藻場は、海洋の年間炭素吸収量の約10%を担っています。 Image: Unsplash/Benjamin L Jones

Naoko Tochibayashi
Communications Lead, Japan, World Economic Forum
  • 海草藻場は海洋全体の1%未満しか占めていないにもかかわらず、年間の海洋炭素吸収量のおよそ10%を占めているとされています。
  • 日本では、人々の暮らしと海洋生態系の調和を図る「里海」という考え方のもと、沿岸域の保全に取り組んでいます。
  • また、日本政府はブルーカーボンの吸収量を取引可能なクレジットへと転換する「Jブルークレジット」制度を活用し、企業の参画を促しています。

「海の森」とも呼ばれる藻場は、沿岸域を囲むように広がり、多くの水生生物の生息・産卵の場となるほか、有機物の分解や栄養塩類、二酸化炭酸の吸収、酸素供給などを通じて海水の浄化に大きく貢献しています。さらに、海草藻場は海洋表面の1%未満 に限られているにもかかわらず、海洋における年間炭素隔離量の約10%を担っていると推計されています

日本においても、藻場による温室効果ガスの排出および吸収に対する注目が高まっています。2024年4月には、国連への温室効果ガス排出・吸収量の報告において、藻場による吸収量35万トンが世界に先駆けて計上されました。

一方、その重要性とは裏腹に、日本の藻場面積は減少傾向にあります。1977〜78年の網羅的な全国調査では2,076平方キロメートルあった藻場の分布面積は、2000年以降に22.1%減少しました。衛生画像解析が導入された2018〜20年の調査では、1,643平方キロメートルにまで縮小しています。その背景には、海水温の上昇や食害など複合的な要因が挙げられています。

こうした危機を受け、日本は、気候政策における藻場再生の位置づけを強化してます。

自然と人が共存する「里海」を軸に

日本政府は2025年2月、新たな地球温暖化対策計画を公表し、ブルーカーボンによる二酸化炭素吸収量を2035年度に100万トン、2040年度に200万トンとする目標を掲げました。その重要政策として示されたのが、沿岸域における藻場の造成・再生とJブルークレジット制度の普及・拡大です。

その基盤にあるのが、「里海」という考え方です。これは、沿岸域の豊かな自然の保全と人の暮らしが共存する社会を目指す概念です。環境省はこの理念のもと、藻場や干潟の保全・再生・創出と地域資源の活用を進め、沿岸域の環境・経済・社会課題の同時解決を目指しています。

2025年4月には、現場で活用できる調査・評価方法や、評価結果を資金確保や体制強化に結びつける方法を整理した実践的な手引きを公表しました。陸上で育成した海藻苗を船上から投下し、海底で自然活着を狙う定植方法や、駆除ウニを活用した藻場再生促進・普及啓発プロジェクトなど、具体的なモデル事業も複数紹介されています。モ

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企業の参画を後押しするJブルークレジット

「Jブルークレジット」は、ブルーカーボンによる二酸化炭素吸収量を認証し、経済価値を付加したカーボンクレジット制度です。ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)が2020年度から認証・発行を行なっており、創出者は売却収入を得ることができ、購入者は自社の排出量の一部を相殺することができます。累積認証量は約1万トンに達し、企業の関心も高まっています。

住友大阪セメントは、海藻が育ちやすい構造の「藻場増殖礁」を20年以上展開し、長崎県沿岸に約4,000基を設置、約40ヘクタールの藻場を創出してきました。Jブルークレジット制度の導入を景気に、ブルーカーボン事業を強化し、国内外で販路を拡大することによりブルーカーボン関連で100億円の売り上げを目指しています。

再生エネルギー企業のインフラックスも、フルボ酸鉄を活用した藻場再生を通じてブルーカーボン事業を展開しています。フルボ酸鉄とは、海中のプランクトンや藻の成長を促す養分。もともとは雨で流され川から海へ流れ込んでいましたが、治水整備などにより、その量が減少しています。同社ではフルボ酸鉄を補うことにより、磯焼けの改善を図っています。伊豆大島での実証を皮切りに知見を蓄積し、洋上風力や漁協と連携することで、藻場回復とブルーカーボンクレジットを活用した地域創生を目指しています。

自然と人が共存する「里海」の再生は、日本にとどまらず、世界の沿岸地域が直面する課題に対する実践的な解決モデルとなり得るのです。

テクノロジーが加速する藻場の可視化

藻場の正確なモニタリングを可能にする技術革新も進んでいます。従来は潜水士による調査や専門家の分析が必要とされ、1ヘクタールあたり約2日を要していました。富士通は、海洋デジタルツインの一環として、水中ドローンによる高精度自動航行技術と、藻場の種類・被度を85%以上の精度で認識する解析技術を開発。計測・定量化を従来の約100倍高速化し、ブルーカーボンクレジット認証取得を支援するシステムを構築しました。

里海の再生が示すグローバルモデル

再生された藻場は、炭素吸収にとどまらず、漁業資源の回復、沿岸防災、生物多様性の向上にも寄与します。これは単なる環境保全ではなく、地域経済と社会の再設計でもあります。

3月1日は、国連が定める「世界海草の日」。日本の取り組みは、海中生態系の再生が気候変動対策、経済レジリエンスの向上、そしてネイチャーポジティブな成長を同時に実現し得ることを示しています。自然と人が共存する「里海」の再生は、日本にとどまらず、世界の沿岸地域が直面する課題に対する実践的な解決モデルとなり得るのです。

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この記事は著者の意見を反映したものであり、世界経済フォーラムの主張によるものではありません。

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自然と人が共存する「里海」を軸に企業の参画を後押しするJブルークレジットテクノロジーが加速する藻場の可視化里海の再生が示すグローバルモデル
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