連鎖する衝撃―肥料、燃料、気候リスクが世界の食料生産に与える脅威

食料生産を支える肥料の不足により収穫高への懸念が高まる中、コンバインで小麦の収穫を行うウクライナの農家。 Image: Reuters/Alexander Ermochenko/File Photo
- ホルムズ海峡での混乱は、グローバル経済のレジリエンスが、相互に関連したシステムへのアクセスに依存していることを如実に示しています。
- 現在の食料安全保障は、農地という枠を超えて、エネルギー、肥料、物流、金融、地政学といった外部要因に大きく左右されるようになっています。
- 今問われているのは、十分な食料、エネルギー、資材が存在するかどうかだけでなく、市場がひっ迫した際に誰がそれらを確保できるかという点です。
ホルムズ海峡での混乱は、単なる新たなエネルギーショックではありません。これは、グローバル経済のレジリエンスが、個々の商品ではなく、相互に関連するシステムへのアクセスに依存していることを改めて認識させるものです。
食料安全保障はもはや農地だけで形成されるものではなく、エネルギー、肥料、物流、金融、地政学といった上流段階の要素によって形作られるようになっています。
気候変動の激化や地政学的分断により、世界が衝撃を吸収する能力が弱まる中、レジリエンスそのものが再定義されつつあります。その結果、食料安全保障は、各国や企業が重要な資源を確保し、適切に再配分する能力に大きく依存するようになると考えられます。
グローバルな混乱が商品としての食料に与える影響
ホルムズ海峡危機は、最も直接的にはエネルギー分野に影響を及ぼしました。ただし、それに伴う燃料価格の高騰は、農業用機器や灌漑システムに使用するディーゼル燃料から、投入資材や農産物の輸送コストに至るまで、食品に多面的な影響を及ぼしています。
エネルギー分野以外にも、天然ガスはアンモニアや尿素の生産に必要な水素とエネルギーを供給します。これらは窒素肥料とリン酸肥料の製造において不可欠な原料です。一方、石油や天然ガスの精製過程で生じる硫黄は、リン鉱石をリン酸肥料に加工する上で重要な役割を果たしています。

この衝撃により、過去数カ月間で窒素およびリンを原料に含む肥料の価格が大幅に上昇しました。合成肥料は、世界中の何十億人もの人々を養う主食作物の栽培に不可欠となっているため、肥料コストの高騰は食料価格と供給の安定を脅かすことになります。

世界最大の小麦輸出国であるロシアと、第5位のウクライナでは、製油所や港湾インフラへの攻撃により、全国的な燃料危機が発生し、収穫期の開始と同時に穀物輸出が事実上停止しています。
同時に、科学者たちは、太平洋の海水温が異常に上昇することで引き起こされる周期的な気候現象である今年のエルニーニョが、観測史上最も強いものの一つになる可能性があると予測。このような「スーパー」エルニーニョは、世界の気温や降水量に深刻な影響を及ぼし、異常気象のリスクを高める可能性があります。今後数カ月の間に、深刻な干ばつや極端な洪水が発生する可能性があり、生産地域全体の収穫量がさらに減少する恐れがあるのです。
農家への経済的影響と対応策
農家にとって、経済的影響は甚大です。肥料費は生産コストの約3分の1を占めています。これに、ディーゼル燃料や輸送費の高騰、さらにはエルニーニョ現象による収量の不確実性の高まりが加わると、利益率は急速に悪化する可能性があります。その結果、どの農地でどの作物を栽培するか、またどの程度の肥料を使用するかといった判断に影響を及ぼすことになります。
農家が取り得る選択肢の中でも、特にトウモロコシ栽培においては、肥料使用量を大幅に削減する可能性は低いと考えられます。トウモロコシは肥料に対する収量反応率が高いためです。農家としては、殺菌剤の使用を控える、種子の品種を変更するといった対応でコストを削減する可能性が高いでしょう。
肥料価格の急騰は、肥料依存度の低い作物への転換を促す要因にもなり得ます。ただし、輪作、農機具、契約、地域の農業慣行、市場の需要、政策などの要因が、こうした転換に一定の制約を加えると考えられます。2022年には、特に米国において、トウモロコシの代替作物として大豆が広く議論されましたが、実際の大豆の作付面積はわずかに増加したに過ぎませんでした。
農地面積の削減も一つの選択肢となり得ます。特に米国では、農地が比較的短期の契約で貸し出されることが多いため、この傾向が顕著です。2022年、ウクライナ紛争に伴う肥料・燃料価格の高騰に伴い、米国のトウモロコシ生産量は9%減少。これは主に作付面積が7%減少したことによるもので、同国内の食料価格の上昇と輸出量の35%減少につながりました。
ショックが作物の競争力に与える影響
ホルムズ海峡危機のようなショックへの曝露度合は作物によって異なります。肥料や天候の影響を最も受けやすい作物は食料としての供給リスクが最も高い一方、代替品が存在する作物もあります。
世界の生産量で上位を占める主要作物の中で、トウモロコシは最も影響を受けやすい作物です。窒素肥料への依存度が高く、機械化が進んでいるものの、高温や水分ストレスに弱いという特徴があります。大豆のような窒素肥料の使用量が少ない代替作物は存在しますが、2022年の場合と同様に、大規模な転換が行われる可能性は低いと考えられます。
また、燃料価格の高騰により、需要がバイオ燃料へとシフトし、結果として食料価格の上昇を引き起こす可能性もあります。
小麦も肥料の影響を受けやすい作物ですが、農家にとって現実的な代替手段は限られています。小麦は主要な主食作物であり、既存の食料システムに深く組み込まれているためです。農家は作物を切り替えるよりも、肥料の施用量を削減する傾向が高く、その結果、収量が直接的に減少するリスクが生じます。
米は窒素肥料への反応が大きく、特に灌漑稲作で効果が現れる一方、その収量は多くの場合、水田インフラや地域の消費需要と密接に結びついています。したがって、肥料の不足や干ばつ、洪水は、農家が作付面積を減らすきっかけとなるよりも、むしろ収量を低下させる要因となる可能性が高いのです。
複合的な圧力がもたらす食料危機
タイミングも重要な要素です。食料システムの動きは緩やかです。天然ガスの採掘、肥料の生産、輸送、備蓄が行われ、農家が特定の時期に作付けを行うと、季節を通じて天候の影響を受けます。食品への影響が実際に顕在化するのは作物の収穫後です。

肥料在庫が枯渇し、供給の混乱が続く中、すでに作付け時期に影響が出始めています。燃料不足とウクライナ戦争が春小麦の収穫を脅かしているために、深刻な影響を受ける最初の農産物が小麦になる可能性があるのです。
肥料の供給制約があと1カ月続けば、世界の冬小麦の作付け期に影響が及び、早ければ2027年前半にも小麦の供給がひっ迫することになるでしょう。
米の生産もまもなく影響を受ける可能性があります。肥料供給の混乱がさらに3カ月続けば、ほとんどの熱帯地域での作付けに打撃を与えることになるからです。エルニーニョ現象に伴う降雨量の減少も、2027年前半に予想される収量をさらに低下させる要因となります。
米国では、2026年末のトウモロコシ追肥時期がすでに危機的な状況に直面。肥料不足がさらに6カ月続くと、2027年下半期の収穫にも深刻な影響が及ぶ恐れがあります。また、米国やブラジルでの干ばつは、トウモロコシの収量にさらなる圧力をかけ、食料供給がさらにひっ迫する可能性もあります。

どの作物においても、収穫量の減少は輸入依存地域に最も深刻な影響をもたらします。主要生産国による輸出規制は国内消費者を保護する効果はありますが、東南アジア、南アジア、アフリカ地域の輸入業者にとってはさらなる価格上昇を招く結果となります。
競争優位性の形を変えていくレジリエンス
レジリエンスは、農場のレベルのみで管理することができるものではありません。原料供給から肥料生産、輸送ルート、在庫、作付け計画、需要動向に至るまで、エンドツーエンドの可視化が求められます。
農家や食品企業にとって最も重要な課題は、選択肢の幅を広げることです。具体的には、多様な肥料・原料供給業者の確保、サプライヤー、流通業者、顧客とのデータ共有による上流・下流工程の可視化の強化、そして肥料価格と商品価格のしきい値、最適な作付け時期を連動させたシナリオプランニングの実施などが挙げられます。
政策立案者にとっての優先事項は、単に緊急補助金を支給することだけではありません。重要な点は、収量減少が最も深刻な影響を及ぼす地域で肥料の供給を確保すると同時に、輸出規制によって世界的な価格変動を悪化させないよう配慮した、対象を絞った支援策を実施することです。
食料をめぐる様々な圧力は、競争優位性の構築方法におけるより広範な変化を示唆しています。分断化が進む変動の激しい世界において、根本的な問いは、十分な食料、エネルギー、原材料が存在するかどうかだけでなく、市場がひっ迫し、従来のルートが機能しなくなった際に、誰がそれらを確保できるかという点にあります。
衝撃的な出来事が頻発し、総合に関連し合う状況下においては、資源の流れと選択肢を保持し、迅速に対応していく能力が求められます。これこそがアジリティであり、食料システム全体とその枠を超え、レジリエンスを確保するために必要な能力なのです。
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