食料と水

健康的な都市を作る、食料システムのイノベーション

オーガニックの桃を売る露天商の店先の写真。食料システムは、都市内外における健康、栄養、ウェルビーイングを支える鍵となります。

食料システムは、都市内外における健康、栄養、ウェルビーイングを支える鍵となります。 Image: Vincent Balderas/Unsplash

John Dutton
Head, UpLink; Member of the Executive Committee, World Economic Forum
Jeff Merritt
Head of Centre for Urban Transformation; Member of the Executive Committee, World Economic Forum
本稿は、以下会合の一部です。世界経済フォーラム年次総会2026
  • レジリエンスの高い健全なコミュニティは、強固なグローバル経済の基盤です。したがって、ウェルビーイング(幸福)は経済的要請でもあります。
  • コミュニティのウェルビーイングの基盤である食料システムは、医療から栄養、サプライチェーン、政策まで、協調的なイノベーションを必要とします。
  • 米国マサチューセッツ州ボストンなどの都市は、食料システムのレジリエンスを強化し、拡張可能なグローバルモデルを生み出す、地域密着型ソリューションの実証の場となっています。

食料システムは、今日の最も差し迫ったグローバル課題の多くの中核に位置しています。人間の健康と生産性に影響を与え、経済的機会を形作り、環境に対しても重要な役割を果たしています。

一方、食料システムはますます大きな圧力に直面しています。食生活に関連する疾患の増加、持続的な食料不安や健康的な食品へのアクセス不足、広範な食品廃棄、生産、貯蔵、流通における脆弱性の増大などです。

地域コミュニティのレベルをはるかに超えて広がるこうした課題は、構造的なものであり、医療費、労働参加率、公共支出、気候変動への耐性などと深く関連しています。対処するには、製品やテクノロジーだけでなく、食料システムの機能全体における革新が求められます。食料の生産や流通の方法から、栄養、健康、ウェルビーイングを支える仕組みに至るまで、包括的な変革が必要とされているのです。

この複雑性こそが、食料システムを世界経済フォーラム「ウェルビーイング・エコノミー・イニシアチブ」の中核とする理由です。同イニシアチブは、ウェルビーイングを経済成長の核心的な推進力に位置付け、都市をプラットフォームとして活用し、公共の優先課題と企業のイノベーションを結び付けます。食料システムへの圧力は、都市コミュニティにおいて最も直接的に影響を及ぼしますが、同時に都市は、行動を起こす機会が最も大きい場所でもあるのです。

現在、都市にはグローバル人口の大半が居住。世界の国内総生産(GDP)の80%以上を生み出しています。また、地球の陸地のわずか3%を占めるに過ぎない都市部が、グローバルなエネルギー需要の約3分の2、二酸化炭素(CO₂)排出量の約70%を占めています。

2050年までに、さらに25億人が都市部に居住すると推定されており、リスクと責任の両方が増大します。この成長が共通の繁栄につながるか、不平等を深刻化させるかは、都市が日常生活を支えるシステム(食料を含む)をいかに再設計するかに大きく依存します。

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健康とレジリエンスの鍵となる食料システム

地域の食料システムには、独特の複雑さがあります。グローバルなサプライチェーンに依存しながらも、地域レベルで機能しなければならないからです。日々の健康状態に影響を与えると同時に、長期的な経済的、環境的レジリエンスを形成する食料システムが機能不全に陥ると、その影響は即座に食料価格の高騰、栄養不良、生産性の低下、公共サービスへの負担増大などの形で表れます。

食料不安は、この複雑性を浮き彫りにするものです。入手の容易さや価格上昇などの課題として狭く捉えられがちですが、食料不安にはより深い構造的課題が反映されます。住宅費、交通、エネルギー価格、医療へのアクセス、気候変動の影響など、これらすべてが食料の生産方法、価格設定、消費形態を形作っているからです。

こうした力学は地域によって異なります。米国ニューヨークなどの都市では、生活費の上昇が家計を圧迫し、食料価格の上昇を吸収する余地がほとんどありません。一方、食料不安がインフラの不足、新鮮な食品を入手する困難さ、非効率な流通システムと密接に関連している都市も、世界中にあります

ボストンの事例は、これらの課題がどのように重なり合うかを示しています。強力な制度と持続的な取り組みがあるにもかかわらず、多くの住民、特に周縁化されたコミュニティの住民は、新鮮な食品の選択肢が限られるコンビニエンスストアに依存。また、食料価格の上昇、構造的な不平等、言語・文化的な障壁、生活費全般の圧力により、栄養価の高い食品への安定したアクセスは困難を極めています。

気候変動がこれらのリスクをさらに悪化させています。猛暑や洪水は食料流通を混乱させ、価格を押し上げる一方、イーストボストンなどの地域では気候変動の影響が深刻化。マサチューセッツ州では、2024年に食料不安を経験した世帯が推定37%に達し、2019年の19%から増加しています。

地域の実情に根差したイノベーション

こうした課題に対応するには、実体験に基づくイノベーションが必要です。これは単一の技術やトレンドではなく、構造的なイノベーション、つまり起業家精神を「食を薬とする」取り組み、廃棄物削減、気候変動に強い物流、栄養価の高い食品を手頃な価格で購入できることといった、地域社会の真のニーズと結び付けることです。

ボストンでは、スタートアップや地域主導のパイロットプロジェクトが、移動式市場、気候変動に強い低温貯蔵施設、食料アクセスと健康状態の関連性を追跡する栄養・データツールなどの実証実験を実施。これらの取り組みは、イノベーションが人々のウェルビーイングを向上させると同時に、食料システム全体のレジリエンス強化に貢献できることを示しています。

ボストンがイノベーションハブとしての役割を担い、同フォーラムの「Yes/Cities」イニシアチブの旗艦プロジェクトが始動する予定です。これは、地域に根差した協力体制が、地域の優先課題をウェルビーイングが主導する経済成長に向け、投資可能かつ拡張性のある道筋へと転換できることを示しています。同フォーラムの初期段階イノベーションエンジンであるアップリンク(UpLink)がこれを戦略的に支援。こうした取り組みが、食料システムのイノベーションを導くより強固な地域エコシステムの構築に貢献するでしょう。

ただし、初期段階のイノベーターが単独で成功することは困難です。グローバルなインパクト投資のうち、初期段階のベンチャー企業に届くのはわずか5%未満。多くの有望なソリューションが資金不足に陥り、拡大が不可能な状況にあります。

したがって、地方自治体や地域の中核機関には、重要な役割が求められます。調整役として、公共の優先事項と起業家の事業をマッチングし、パイロット事業を通じてリスクを軽減し、イノベーションが具体的な公共価値をもたらすことを保証することができるからです。

これは「ウェルビーイング・エコノミー・イニシアチブ」の、政策、資本、市場導入の間の摩擦を減らし、イノベーターがウェルビーイングに関する測定可能な成果をもたらす解決策を拡大できるようにするという、より広範な目標に合致します。

ボストン市食料正義局(Boston’s Office of Food Justice)とグロー・ボストン:ボストン都市農業局(GrowBoston: Boston’s Office of Urban Agriculture)は、このアプローチに基づき、住民、地域団体、生産者、公的機関と連携し、レジリエンスの高い公平な食料システムの強化に取り組んでいます。

ウェルビーイング・エコノミーに向けたエコシステム構築

食料システムの革新は、様々な分野に及びます。栄養管理ツールには医療分野との連携が不可欠であり、廃棄物削減ソリューションには小売業者や物流事業者の協力が欠かせません。また、食料アクセスの改善には、公的機関や企業のバイヤーによる早期のコミットメントが求められます。

そこで、食と健康をテーマに共通の目標を掲げ、起業家と投資家、企業、市民リーダーたちを結び付ける「Yes/Boston」という新たな地域密着型取り組みの一環として、連携組織が発足します。

同フォーラムの「Yes/Citiesグローバルネットワーク」を通じ、都市主導の食料システム実証事業から得られた知見は、地域を越えて共有、展開され、ウェルビーイング・エコノミーに向けたグローバルなモメンタムを強化します。

食料システムの課題は地域固有のものであっても、そこから得られる教訓は世界共通です。異常気象の増大と経済的不確実性の中、世界中のコミュニティがより健康的、持続可能かつレジリエンスの高い食料システムの構築に苦慮しています。

重要なことは、個別の解決策の複製ではなく、アプローチを拡大することです。それは地域の知見から始まり、イノベーションを市民目的と整合させ、起業家が必要とする成長のエコシステムへとつなぐものです。

米国の「Yes/サンフランシスコ」やインドの「Yes/ベンガルール」など、既存の「Yes/Cities」イニシアチブは、地域に根差した協力体制がローカルなイノベーションを拡張可能なモデルへと変化させることを、すでに実証しています。これらが示すのは、コミュニティがウェルビーイング・エコノミーの「生きた実験場」となる未来の姿です。

食料システムと繁栄の関連性は明らかです。今問われているのは、コミュニティ、投資家、イノベーターが、これを持続させるために十分な速さで、そして連携して行動できるかどうかなのです。

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