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ブルーエコノミーが、サブプライム資産化する海にもたらす希望

オレンジや黄色の熱帯魚が群れをなす、活気あふれるサンゴ礁。健全なブルーエコノミーの資産価値を象徴しています。

ブルーエコノミーがもたらす海の経済的資産価値は、24兆ドルと推定されています。 Image: Unsplash/Hiroko Yoshii

Johan Bergenas
Senior Vice-President Oceans Conservation, World Wildlife Fund
Shashank Singh
Director of Blended and Innovative Blue Finance, World Wildlife Fund
本稿は、以下センター (部門)の一部です。 自然と気候
  • 海洋資源は様々な面で劣化しています。2008年の金融危機と同様に、基礎となる資産に十分な注意を払わずに短期的な利益を追求すると、災いを招くことになるでしょう。
  • 現在の環境報告基準は、この危機の重大性を反映していません。
  • 推定24兆ドルが依存する海洋の自然生態系の健全性を確保するには、持続可能なブルーエコノミーへの移行が不可欠です。

2008年の金融危機の直前、何百万人もの米国人がティーザー金利付きの変動金利型住宅ローン(サブプライムローン)を契約していました。低額な初期支払いを特徴とするこの金融商品は、破滅的な資産レベルのリスクを覆い隠す、魅力のあるものでした。貸し手はそれを「イノベーション」と呼び、市場はそれを「成長」と呼びました。

一方、基礎データを精査し、異論を唱える少数のアナリストたちは、これを「時限爆弾」と呼びました。彼らの見解こそが正しかったのです。

今、グローバルな海洋経済は同じ道をたどろうとしています。何十年もの間、水産業界、海運業界、沿岸開発業者は、再生速度を上回るペースで海洋および沿岸資源を搾取し、枯渇させてきました。金利は常にゼロであるかのように見える一方で、その裏にある資産、つまり漁場、サンゴ礁、マングローブは静かに劣化していきました。サブプライムローン全盛期の金融業界では、資産の劣化に気付き、疑問を呈する人はほぼありませんでした。

サブプライム型ブルー投資

2008年以前、サブプライムローンは、投資家が短期的な利益を求めてリスクを無視したため、投資対象の資産クラスとなりました。今日、同様の力学が「サブプライム型ブルー投資」を生み出しています。これは、企業価値は健全な海洋生態系次第であるにも関わらず、蓄積する生態学的リスクを一切考慮せず、海洋に依存するビジネスです。資源を枯渇させる漁業に依存しながら高級メニューを提供するミシュラン星付きレストラン。あるいは、永久に続くサンゴ礁を前提にスキューバダイビングツアーを企画し、その運営によってサンゴ礁を減少させているホテルチェーン。これらをはじめとする「サブプライム型ブルー投資」は、適正な価格評価がなされておらず、その価値は低下しているにも関わらず、健全であるかのように装い続けています。

今日の資本市場は自らの基盤を静かに解体しつつあり、数字がそれを裏付けています。2023年には、7.3兆ドルが自然環境に悪影響を及ぼす活動に流入しましたが、自然に基づく解決策の支援に向けた資金は、わずか2,200億ドルに過ぎませんでした。実質的に、自然保護に1ドル費やすごとに、自然を損なう活動に30ドルが費やされているのです。グローバルGDPの半分以上が自然およびその生態系に依存していることを考えれば、これは経済的な自殺行為です。

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裏付けとなる担保は(それほど)健全ではない海

すべての住宅ローン担保証券には、原資産となる実際の住宅があります。そうであっても、2008年に住宅所有者が支払いを停止した際、連鎖的な債務不履行が起きました。海もまた原資産であり、極めて価値の高いものです。世界自然保護基金(WWF)は、その総資産価値を24兆ドル以上と推計。これには漁業や養殖業、観光業、沿岸および海洋輸送、炭素固定、バイオテクノロジーなどが含まれます。

これらの「支払い」はすでに転換点に近づいています。2024年版『生きている地球レポート(2024 Living Planet Report)』によると、1970年以降、監視対象となっている海洋野生生物の個体群の平均規模は56%減少し、海洋の酸性化も加速。かつては10年に1度発生していたサンゴの白化現象が、今では多くのサンゴ礁で毎年発生しており、2050年までに、マングローブの半数が崩壊の危機に瀕しています。これらは抽象的な環境指標ではありません。私たちの集合的な貸借対照表において未計上となっている、信用リスク事象なのです。そして2008年とは異なり、生物圏には連邦準備制度(FRB)のような存在はありません。

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役割をまたも果たせていない格付け機関

2008年以前、格付け機関は融資ファイルのデータを無視し、根本的に健全性を欠く証券にAAA格付けを付与していました。今日の環境・社会・ガバナンス(ESG)格付け(企業の持続可能性を測るために用いられる非財務指標)では、驚くほど似たようなことが実施されています。枯渇した海洋生態系を通じて直接収益を得ている企業であっても、リスクが存在し得ることを認めているというだけで、満足のいくESGスコアを獲得する傾向にあります。信頼することのできる対応計画がなくてもです。また、既存の会計システムは、海を価値が減少する資産ではないかのように扱っています。しかし、海は「価値が減少する資産」です。私たちは単に、それを帳簿に計上していないだけなのです。

企業が環境への影響や依存関係を把握できるよう設計された「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」のような新しい報告基準は、重要な前進です。ただし、それらはまだ発展途上であり、現状では主に自主的な自己報告にとどまります。これは、銀行が自らのサブプライム債権へのエクスポージャーを、自ら指摘しているようなものでしょう。

荒波を鎮めるための3つの行動

マイケル・ルイス氏が2008年の事件を描いたノンフィクション『世紀の空売り―世界経済の破綻に賭けた男たち』において、真の悲劇はリスクが予測不可能だったことではありませんでした。真の悲劇は、債権明細や延滞率などの形でデータが存在していたにも関わらず、主流派のほぼ誰もそれを読み解こうと時間を割かなかったことです。今日の海洋科学者たちは、まさに同じ立場に置かれています。魚類資源の減少や記録的な海水温上昇に関する彼らの評価こそが「債権明細データ」に相当しますが、市場は依然として、海に何の課題もないかのように、水産物、沿岸観光、海洋インフラの各セクターを評価し続けています。

これらはいずれも、オーシャンエコノミー(海洋経済)そのものに反対する議論ではありません。根本的に異なるエコノミーを構築すべきだという主張なのです。持続可能な「ブルーエコノミー」、つまり、生産性の高い海洋生態系を回復、保護、維持する経済は、単なる投機的なニッチ市場ではありません。これには、沿岸生態系の枯渇ではなく強化につながる適切に管理された養殖業、再生可能エネルギーへの移行を推進するレジリエンスの高い港湾、漁業の回復を促進すると同時に持続可能な観光収入を生み出す海洋保護区、地域社会主導の生態系回復に資金を提供するブルーカーボン市場などが含まれます。これらへの投資は機関投資家レベルの規模となり、金融に精通した人々に、他のあらゆるものを支える担保を犠牲にするのではなく、それと共に成長する機会を提供します。

資本を搾取型モデルから再生型モデルへと大規模に移行させるには、海洋の劣化を本来の実質的な金融リスクとして扱うように会計制度を改革すること、自然環境に悪影響を与える活動から、自然環境に好影響を与える活動へと資本の流れを転換すること、そして、科学が示す事実と市場価格との間のギャップを解消する規制の枠組みを整えること、という3つの要素が必要です。これらはいずれも技術的に複雑なものではありません。ただ、政治的、制度的に厄介な課題であるという点では、2006年の住宅ローン改革について語られたこととまったく同じです。

生物圏に対しては存在しない「救済措置」

2008年9月、金融システムが崩壊の瀬戸際に陥った際、その対応は結局のところ機械的なものでした。すなわち、通貨を印刷し、銀行に資本を注入し、預金を保証するというものです。手段は粗雑でしたが、基本的な介入は功を奏し、システムは生き残りました。

一方、海洋に対して同等の選択肢は存在しません。マグロを印刷することはできませんし、崩壊した漁業を再建することはできません。サンゴ礁をお金で救済することもできません。基盤となる資産が機能しなくなれば、その損失を真っ先に、そして最も痛烈に被るのは沿岸のコミュニティ、自給自足の漁師、そして小規模な島しょ国の人々ですが、最終的には健全な海洋によって部分的に調節されている気候システムに依存する全員が被ることになります。つまり、すべての人々です。

私たちは、その基盤となる自然システムが永久に続くかのように、グローバル・エコノミーを築いてきました。無限のレジリエンスがあり、際限なく寛容で、いつでもさらに搾り取ることができるかのように。しかし、そうではありません。経済は環境の一部であり、その逆ではないのです。

海洋の健全性に対する「空売り」は、すでに始まっています。問題は、改革が追加の担保を求められる前に起こるのか、それとも後に起こるのか、ということです。

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