経済成長

ASEANがレジリエンスを戦略へ、協力を強みへ転換させた方法

タイ、バンコクのビジネス街を背景にした王宮の夜景。ASEANのレジリエンスは、対話、制度構築、抑制によって築かれてきました。

タイ、バンコクのビジネス街を背景にした王宮の夜景。ASEANのレジリエンスは、対話、制度構築、抑制によって築かれてきました。 Image: iStockphoto/prachanart

Shaun Adam
Community Lead, Regional and Global Cooperation, Asia-Pacific, World Economic Forum
Satvinder Singh
Deputy Secretary-General of ASEAN, ASEAN (Association of Southeast Asian Nations)
本稿は、以下センター (部門)の一部です。 地域、貿易、地政学

国際通貨基金(IMF)によると、現在の紛争は商品価格の上昇、金融環境の引き締め、インフラ被害、輸送障害を引き起こすと予測されています。

東南アジア諸国連合(ASEAN)のレジリエンスとは、こうした衝撃を乗り切るだけでなく、それを利用して統合を深化させ、協力関係を拡大し、成長の強化につなげる能力にあります。

そして、ASEANが引き続き対立の激化よりも対話、制度構築、抑制を優先する限り、エネルギー転換と技術革新が今後の成長を牽引していくでしょう。

紛争と混乱がますます顕著になる世界において、東南アジア諸国連合(ASEAN)の歴史が示すのは、レジリエンスとは単に衝撃に耐えることではなく、それらを協力、改革、成長の機会へと転換する能力であるということです。

政治的不信と戦略的不確実性、未発達な市場環境の中、1967年にタイの首都バンコクで設立されたASEANは、時を重ねるにつれ、単なる協力関係をより予測可能な経済空間へと発展させてきました。

また、1992年のASEAN自由貿易地域の発足は、相対的に脆弱だった東南アジアをより深い経済統合へと導く原動力となり、もう一つの重要な転換点となりました。このモメンタムはその後、地域全体の貿易強化、国境を越えた生産連携、投資家の信頼向上を目指すASEAN経済共同体というより広範な構想へと発展しました。

同地域は、変動の激しい環境に適応する能力を繰り返し示すと同時に、着実に信頼関係を築き、協力関係を拡大し、経済基盤を強化。この実績は、将来を保証するものではありませんが、現在の地政学的、経済的な緊張が高まる時代において、東南アジアがどのように対応し、今後の経済成長の新たな章をどのように描いていくべきかについて、重要な示唆を与えるでしょう。

集団的強みの構築

このような「課題を機会に変える」パターンは、数十年にわたり繰り返し現れています。

アジア金融危機の後、ASEANは1998年にASEANサーベイランス・プロセス(ASP)を導入。地域経済の監視体制を強化しました。さらに2000年には、日本、韓国、中国を加えた「ASEAN+3」諸国と共同でチェンマイ・イニシアチブを開始するなど、より強固な金融セーフティネットを構築しました。

同様の発想は、新型コロナウイルス感染症のパンデミック時にも見られ、同地域はサプライチェーンのコネクティビティと経済的協力を支援するため、「ハノイ行動計画」を採択しました。

最近では、中東情勢に起因するエネルギー供給の混乱や、ホルムズ海峡の事実上の封鎖といった状況下で、 ASEAN首脳陣はフィリピンのセブで開催された第48回ASEAN首脳会議において、ASEAN石油安全保障協定(APSA)の迅速な更新を求める声明を発表しました。この協定では、ASEAN加盟国の石油安全保障を強化するための様々な措置を講じています。

即時の衝撃に迅速に対応すると同時に、将来を見据えた対策を講じて地域の長期的な枠組みを強化する能力は、今や同地域の特徴の一つとなっています。

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ASEANにおける経済統合

ASEANの歴史を通じて、危機がより強固な協力関係と経済統合を促進するきっかけとなることが多々ありました。実際、同地域のレジリエンスは偶然の産物ではありません。これは数十年にわたる着実な統合、協力、適応の成果なのです。

その結果として、間もなく発表される予定の「ASEANStats」最新データによると、この地域の総GDPは2015年の2.5兆ドルから2025年には4.3兆ドルへと成長。物品貿易の総額も約2.3兆ドルから約4.4兆ドルへとほぼ倍増しています。同時期における海外直接投資額も、1,154億ドルから2,419億ドルへと急増しました。

これは、東南アジアがダイナミックな生産拠点、イノベーションの中心地、そして新たな機会の場として一層の信頼を集めていることを示しています。同地域はグローバルサプライチェーンにより深く組み込まれると同時に、独自の国内市場の強化も進めているのです。

また、このデータはASEANが繰り返し発生する衝撃に直面しながらも、モメンタムを失わずに対応していく能力を持っていることを証明しています。現在の環境下においても、アジア開発銀行は2026年の東南アジア開発途上国の成長率を4.6%と予測しており、これは堅調な内需と継続的なインフラ投資によって支えられています。

現在の地政学的な変化への対応

近年、世界全体で武力紛争の発生件数が急激に増加しています。国際通貨基金(IMF)は、戦争や紛争が商品価格の上昇、金融環境の引き締め、インフラの損壊、海上・航空輸送の混乱などを通じて「グローバル経済の見通しに影を落とす」と考えています。

このような状況下では、レジリエンスが成長のための基本的な条件となります。この環境はまた、地経学的な分断化を加速させる要因ともなっています。

ASEANはこうした外部からの圧力に対処する一方で、より身近な地域的な課題にも取り組まなければなりません。ミャンマーについては、ASEANは人道支援を行うとともに、同国における暴力の抑制とより包括的な対話の継続を強く求めてきました。

また、南シナ海における領土問題に関しては、一貫して国際法に基づき、平和と安定、抑制、そして効果的かつ実質的な行動規範の策定に向けた継続的な取り組みの重要性を強調しています。

これらの努力は対立を完全に解消するものではありませんが、ASEANが対話の継続、制度構築、そして対立の激化よりも抑制を優先するという姿勢を堅持していることを示しています。

セブ議定書」のもと、14年にわたるプロセスを経て2025年10月に東ティモールを11番目の加盟国として迎え入れたことを再確認。この決定は、ASEANの柔軟性、包摂性、そして時代とともに進化する能力を改めて示すものでした。東ティモールの加盟は、インドネシアとの困難な過去を乗り越え、和解と地域協力の拡大が可能であることを示す好例となったのです。

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成長の原動力としてのエネルギーと技術

ASEANのレジリエンスを、もはや狭義の経済課題としてのみ理解することはできません。

国際エネルギー機関(IEA)のデータによると、過去10年間で東南アジアのエネルギー需要は35%以上、電力需要は60%以上増加。同時に、この地域はエネルギー転換における大きな転換点に差し掛かっています。IEAの統計によると、2025年のクリーンエネルギー投資額は470億ドルに達し、化石燃料への投資額にほぼ匹敵する規模となっています。

ASEANのレジリエンスは、開放的かつ競争力があるだけでなく、エネルギー安全保障が確保され、気候変動にも対応可能であり、グリーン移行により適した経済基盤を構築する能力に基づいており、その傾向は一層強まっています。

このような背景から、協調的なエネルギー政策の重要性が高まっています。ASEANエネルギー協力行動計画に基づき、この地域では電力網「ASEANパワーグリッド」の構築からラオス、タイ、マレーシア、シンガポールの電力統合プロジェクトに至るまで、コネクティビティとレジリエンスの強化を目的とした様々な取り組みが進められています。

一方、ASEANにおける民生用原子力エネルギーに関する議論は、一部の加盟国が原子力発電を、安全性が確保され、国際的な基準に則って実施される限りにおいて、再生可能エネルギーの低炭素補完手段として有効であると認識していることを反映しています。

同様の変化がデジタル経済の分野でも進行中です。デジタル経済枠組み協定(DEFA)は、デジタル貿易・データ・イノベーションに関するより一貫性のある地域的アプローチを構築することを目的として策定されました。ASEAN自身の調査によると、DEFAを導入することで、同地域のデジタル経済規模を2030年までに現在の1兆ドルから最大2兆ドルへと拡大できる可能性が示されています。

中間層の拡大、若年層の人口増、急速な技術導入が進むこの地域において、デジタル分野における協力はASEANのレジリエンスを支える中核的な柱となりつつあります。

ASEANのレジリエンスのさらなる強化

ASEANの次なる展開は、不確実性をいかに協力へと転換し、その協力をいかに能力へと発展させていけるかによって決定されるでしょう。

このアプローチは1967年以来、地域の脆弱性から経済統合へ、危機からより強固な安全策へ、政治的緊張から対話と多国間主義を堅持する拡大する共同体へと進化してきた、ASEANの特徴です。

分断が進むグローバル情勢において、このアプローチこそがASEANにとって最大の戦略的優位性となる可能性があるのです。

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