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薬剤耐性に立ち向かう、抗菌薬イノベーションとシステム変革

包装シートに入ったままのたくさんのカラフルな錠剤。薬剤耐性の課題は、相互に関連する二つの要因によって深刻化しています。

薬剤耐性の課題は、相互に関連する二つの要因によって深刻化しています。 Image: Unsplash/Volodymyr Hryshchenko

Cynderella Carlynda “Cyndy” Galimpin
Head of Animal Health ASEAN, Korea, Australia & New Zealand, Boehringer Ingelheim International GmbH
本稿は、以下センター (部門)の一部です。 ヘルス、ヘルスケア
  • 薬剤耐性(AMR)は、2050年までにグローバル経済に対し、年間GDPの3.8%に相当する損失をもたらす可能性があります。
  • 抗菌薬のイノベーションを活性化するには、具体的な健康予防対策と、よりレジリエンスの高い公衆衛生システムに向けた研究開発とイノベーションを促進する、十分な「需要創出インセンティブ」が求められます。
  • 動物と人間の健康に向けた抗菌薬の適正使用と予防も、最優先で取り組むべき課題です。

抗菌薬を用いた治療は、現代医療の基盤として約1世紀にわたり、重要な役割を果たしています。1928年にアレクサンダー・フレミングがペニシリンを発見して以来、抗生物質は感染症の治療に用いられ、複雑な外科手術を日常的な処置へと変え、動物福祉の向上と農業従事者の生産性向上に貢献してきました。ただし、この基盤は現在、薬剤耐性(AMR)によって脅かされています。AMRは急速にグローバル経済の喫緊の課題へ、そして公衆衛生の危機へと発展しているのです。

2021年、アジア地域は世界全体で471万人にのぼるAMR関連死亡者の半数以上を占めており、2050年までにこの数は500万人に達すると予測されています。世界保健機関(WHO)、国連、国連食糧農業機関(FAO)をはじめとする複数の国際機関が警告を発しており、AMRはグローバルな医療保障に対する喫緊の脅威であると指摘しています。

経済的損失も甚大です。世界銀行の試算によると、AMRの影響が大きいシナリオでは、グローバル経済は2050年までに年間GDPの3.8%を失う可能性があり、2030年までに年間3.4兆ドルの損失が生じる見込みです。これは、2008年の金融危機を上回る深刻な経済的影響です。アジア地域に限っても、AMRによる経済的損失は2050年までに最大7,000億ドルに達する可能性があり、これは同地域のGDPの最大1%に相当。医療費支出を最大10%押し上げる可能性があります。

AMRはもはや単なる健康問題ではなく、健康、経済、社会の安定に対する前例のない脅威へと発展しているのです。

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AMRにおける動物衛生の重要性

この課題の中核には、相互に関連する二つの要因があります。第一に、人の医療と畜産業における細菌やウイルスの人為的進化です。これにより、現在使用されている治療法の効果が低下しています。また、抗生物質の誤用や過剰使用が、耐性菌が増殖、拡散する環境を作り出しています。人間の医療現場では、ウイルス性疾患に対して抗生物質を投与する、服用を途中で中断する、症状が改善した段階で治療を早期に終了するなどのケースがこれに当たります。

家畜の飼育においては、疾病の予防として、あるいは個体の成長促進を目的として抗生物質が日常的に投与されることが多く、特に鶏や豚の生産現場で顕著です。このことは、特に畜産業が主要な生計手段となっている東南アジア地域において、深刻な課題となっています。世界に約5億7,000万ある小規模農場の74%が、東南アジア、南アジア、中国に集中しており、その生産物の約80%は地域内で消費されています。さらに、多くの小規模農家では、十分なバイオセキュリティ対策が講じられておらず、予防的な観点からの抗生物質の使用が常態化。このような慣行は、耐性菌が動物間や環境を介して、さらには食物連鎖を通じて人間へと伝播する環境を作り出し、感染症の治療を困難にしています。

イノベーションと予防から始まる解決策

第二の要因として、抗生物質の開発パイプラインとアクセスに関する深刻な危機が挙げられます。新たな抗生物質の開発は困難かつ費用も膨大です。通常10億ドル程度のコストがかかり、発見から市場投入までに10~15年を要しており、現在の市場環境では、このような投資を回収することはほぼ不可能です。そのため、製薬業界における薬学的イノベーションが著しく不足し、専門家が「ポスト抗生物質時代」と呼ぶ状況下で、有効な抗生物質の供給量が減少し続けています。

したがって、抗菌薬に関するイノベーションの活性化には、具体的な健康予防対策と、よりレジリエンスの高い公衆衛生システムに向けた研究開発とイノベーションを促進する、十分な「需要創出インセンティブ」が求められます。こうしたインセンティブは、研究開発の成功を評価し、報酬を与えることにより、新たな治療法のための健全な市場形成を促し、この悪循環を断ち切る役割を果たすでしょう。画期的な治療法の開発に不可欠な民間投資を呼び込む上でも、これらのインセンティブは極めて重要です。

例えば英国では、NHS(国民保健サービス)が高価値抗生物質に対し、使用量に関わらず年間固定料金を徴収するサブスクリプションモデルを採用。収益を販売量から切り離しています。また、米国では、超党派で成立したパスツール法により、約7億5,000万ドルから30億ドル規模サブスクリプション契約を提供して、研究開発を促進。これらのアプローチをグローバルに拡大、連携させることにより、抗菌薬の効果を維持するための予測可能な市場と持続的な投資環境を構築することが可能となります。

動物および人間の健康に向けた抗菌薬の適正使用と予防対策も、最優先で取り組むべき課題です。良い知らせとして、動物の健康や食料安全保障を損なうことなく、抗生物質の使用を削減するための実証済みの予防戦略がすでに存在していることが挙げられます。例えば、家畜へのワクチン接種は、疾病の発生を防ぐと同時に、結果として抗生物質の必要性を大幅に低減することができます。これを農場の衛生管理、バイオセキュリティ、飼育環境、栄養管理の改善と組み合わせることにより、予防的使用(疾病予防を目的とした使用)を段階的に廃止し、成長促進剤としての抗生物質の使用を完全に撤廃することが可能になるでしょう。

一方、獣医師は必要な場合にのみ適切な薬剤と用量を処方し、治療計画を確実に完了させて、農家が責任ある抗生物質使用を実践できるよう指導する重要な役割を担っています。彼らは、数百万ドル規模の医薬品産業において、これらの重要な薬剤の有効性を維持する上で不可欠な存在です。

共有しなければならない責任

AMRは、種や分野の境界を越えて存在します。人、動物、環境の健康を一体として捉える「ワンヘルス」アプローチは、この三つの健康が相互に関連し合っていることに基づきます。AMRの脅威は、もはや遠い将来の課題ではありません。私たちは今、AMRが現代医療の基盤を侵食しようとする重大な転換点に立っているのです。AMRとの闘いには、革新的な経済モデルの迅速な導入や、管理、予防、監視、規制を統合した包括的な戦略を通じて、あらゆるセクターが連携して取り組む必要があります。断固とした行動をとるべき時は、今なのです。

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