ヘルスとヘルスケア

卵巣がんを、世界的ながん対策の焦点にすべき理由

木に咲いた花を見上げる2人の若い女性。「世界卵巣がんデー」は、卵巣がん対策をグローバルながん対策の枠組みに統合する機会です。

「世界卵巣がんデー」は、卵巣がん対策をグローバルながん対策の枠組みに統合する機会です。 Image: REUTERS/Maxim Shemetov

Dr Zainab Shinkafi-Bagudu
Founder/CEO, Medicaid Cancer Foundation
Christel Paganoni-Bruijns
Chief Executive Officer, World Ovarian Cancer Coalition
本稿は、以下センター (部門)の一部です。 ヘルス、ヘルスケア
  • 卵巣がんの死亡率はその他の主な女性のがんと比較して最も高く、診断された女性10人のうち、約7人が死亡するとされています。
  • 既存のグローバルな保健枠組みに卵巣がん対策を統合することにより、今世紀半ばまでに250万人もの命を救うことが可能になります。新たにプログラムを創設する必要もありません。
  • 2026年5月8日の「世界卵巣がんデー」は、卵巣がん対策をグローバルな取り組みに統合し、世界中の女性に対するがんの影響を軽減するための重要な機会となりました。

1分ごとに、4つの主要な女性がん(乳がん、子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん)のいずれかと診断される女性が7人います。2050年までに、この数は11人に増加すると見込まれます。一方、世界的な症例数は53%増加し、中でも低・中所得国における増加率はそれぞれ151%、82%と、さらに高い水準に達すると予測されています。現在の傾向が続けば、今世紀半ばまでに5,100万人以上の女性が死亡する見込みです。これは報告されている新型コロナウイルス感染症による死者数の7倍に相当する数字です。

世界はこの課題に対処するための取り組みを開始しました。世界保健機関(WHO)の「グローバル乳がんイニシアチブ」および「子宮頸がん撲滅イニシアチブ」は、各国の計画策定を促進し、投資を動員すると同時に、死亡率削減目標を設定することにより、医療システムのアカウンタビリティを明確にしています。こうした取り組みはすでに、各国が女性がん対策に取り組む方法を変えつつあります。

2026年5日8日の「世界卵巣がんデー(WOCD)」に続き、私たちはこのモメンタムをさらに加速させる機会を得ています。すでに効果が実証されている取り組みを基盤とし、実績のあるモデルを拡大することにより、卵巣がんが置き去りにされないよう確実に前進することができるでしょう。

診断済み患者1人当たりの死亡数が多い卵巣がん

4つの主要な女性がんの中で、卵巣がんは診断された女性1人当たりの死亡数が最も多いがんです。10人の女性が診断されるごとに、約7人が死亡する計算になります。これは主に疾患そのものの性質によるものではなく、この疾患を想定して設計されていない医療システムの中で女性が卵巣がんを経験していることの結果です。

卵巣がんは多くの場合、診断が遅れる傾向にあります。腹部の膨満感、持続的な骨盤痛、食欲の変化といった症状は非特異的であり、見過ごされるか、より軽症の疾患に誤診されることが多いのです。集団全体を対象としたスクリーニング検査は存在しません。ワクチン接種による予防も不可能です。治療のアウトカムは、ほぼ完全に「早期に受診すること」「適切な医療機関への紹介」「専門家による外科的治療」「治療へのアクセス」次第なのです。

世界卵巣がん連合(World Ovarian Cancer Coalition)が2018年に初めて実施した全女性調査(Every Woman Study)は、世界中の女性が卵巣がんをどのように経験しているかを、初めて大規模かつグローバルな視点から明らかにした研究です。論文誌『The Lancet Obstetrics, Gynaecology & Women's Health』に発表された「Every Woman Study: Low- and Middle-Income Edition(全女性調査:低・中所得国版)」では、世界の女性の大半が暮らす22カ国における状況がまとめられています。

得られた知見は一貫しており、極めて深刻な内容です。症状は気付かれにくく、診断までに長い遅延が生じ、医療サービスへのアクセスに大きな障壁を抱えていることが明らかになったのです。

同調査に参加した女性のうち、生存期間を延長し、多くの高所得国では標準的な治療法とされる分子標的薬のPARP阻害剤を投与された人は一人もいませんでした。

こうした課題は卵巣がん特有のものではありませんが、特にこの疾患にとっては重大な影響を及ぼします。これは、乳がんや子宮頸がんに対するグローバルな取り組みと同様、意識向上、紹介経路の整備、診断能力の向上、治療アクセスの改善といったシステム的な課題に他なりません。世界的な枠組みに意図的に組み込まれない限り、卵巣がんの患者が十分な医療サービスを受けられない状況は依然として続くでしょう。これは、適切な手段に欠けているからではなく、それらの手段を一貫して適用するという選択をまだ行っていないからです。

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無策がもたらす代償

その影響は健康上の結果だけに留まりません。『JCO Global Oncology』誌に掲載された、世界卵巣がん連合の「Socioeconomic Burden of Ovarian Cancer(卵巣がんの社会経済的負担に関する研究)」によると、2023年の卵巣がんによる経済的損失は、11カ国だけで総額700億ドルに達しました。卵巣がんで亡くなる一人の女性は、母親であり、介護者であり、収入を得る働き手であり、地域社会に貢献する存在でもあるからです。卵巣がんによる死亡は回避可能です。これを減らすことは、労働力参加率、家庭の安定、より広範な経済的レジリエンスに直接的な影響を及ぼします。また、その影響は世代を超えて累積的に作用します。

同時に、行動を起こすことで得られる効果は数値で見ることができます。「グローバル乳がんイニシアチブ」は、年間2.5%の死亡率削減を目標として構築されています。この控えめな目標を卵巣がんにも適用すれば、2050年までに250万人の命を救うことが可能になるでしょう。重要なことは、この目標を達成するために新たな垂直型プログラムを創設する必要はない点です。既存の乳がんや子宮頸がん対策のためにすでに実施されている、啓発活動、診断体制、紹介経路の整備、治療アクセスの改善といった投資を拡大するだけで実現することができるのです。卵巣がんの一部の症例で治療アウトカムを劇的に改善した分子標的療法などの先端治療技術は、世界の女性の大多数にとって依然として手の届かないものです。

女性のがん対策においてより統合的なアプローチを採用することで、これらの進歩が大規模に成果として現れるための条件が整います。特に、ニーズが最も大きく、医療システムが最も急速に進化しつつある地域において、その効果が最大限に発揮されるでしょう。

実践における統合の具体的な形

女性は、がんにかかるたびに個別の医療システムを利用しているわけではありません。医療システムへの入り口は同じであり、単一の連続したケアの流れの中で共通の障壁、共通のニーズを抱えているのです。がん対策戦略は、この現実を断片化するのではなく、むしろその実態を反映したものでなければなりません。具体的には、既存のグローバルな枠組みの適用範囲を拡大し、女性のがんの全領域を網羅するようにすること、医療システムの経路が重複するがん種間で指標と目標を整合させること、現在の投資を活用して複数のがん種に対する診断と治療を同時に強化すること、そして特に低所得地域からのエビデンスを継続的に蓄積し、政策決定や資金配分の指針とすることが必要となります。

乳がん対策の経験から、この取り組みの模範となるモデルが得られます。乳がんに関しては、多くの低・中所得国において、政府、国際保健機関、産業界のパートナーが連携し、診断能力の強化、患者ナビゲーション、治療へのアクセスを組み合わせることで、グローバルな枠組みを実際の治療アウトカムの改善に結び付け得ることが実証されてきました。グローバル製薬会社のロシュをはじめ、企業が協力して支援する世界保健機関(WHO)の「グローバル乳がんイニシアチブ」は、このような要素が実際の現場でどのように統合され得るかを示す好例です。同様の論理を、卵巣がん対策にも適用することができるでしょう。このようなアプローチは、既存の取り組みの効果を薄めるものではなく、その効果の範囲を拡大し、効率性を高め、影響力を倍増させ、統合を単なる必要性だけでなく、費用対効果の高いものにします。

「世界卵巣がんデー」が生み出す、行動に向けたモメンタム

世界が卵巣がんについて考える「世界卵巣がんデー」には、明確な機会が存在しています。必要なエビデンスは揃っており、システムは進化を続けており、卵巣がんの治療進展を拡大し得る枠組みはすでに整備されています。つまり、世界的な女性がん対策戦略に卵巣がんを組み込むことは、遠い将来の目標ではなく、今すぐに実現可能なのです。具体的には、目標設定において卵巣がんを明記し、各国のがん対策計画に組み込むこと、体制の中でアカウンタビリティを明確にすること、そしてこれらをその後の投資判断に確実に反映させることを意味します。これは、保健分野におけるグローバルリーダーたち、資金提供者、政府機関が十分に対応可能かつ実践的な次のステップです。そこには、世界中の何百万人もの女性たちの期待がかかっています。

世界経済フォーラムの「女性の健康のためのグローバル・アライアンス(Global Alliance for Women's Health)」は、女性の健康格差解消に向けた取り組みを主導しています。様々な重要疾患領域において資源を動員し、イノベーションを促進し、研究活動の強化、データ収集の改善、政策的対応の促進を目的として、官民連携を推進。これにより、同アライアンスはがんとの闘いにおいて一人の女性も取り残されないことを目指しています。

卵巣がんの治療格差を解消することは、単なる保健上の課題にとどまりません。それは、世界中の家族や社会にとって、経済的、社会的幸福をもたらす原動力となるのです。

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