「ミッシングミドル」は、包摂的な長寿社会実現の機会となるか

高齢化社会においては、就労後の人生において高齢者が意義を見出し、社会的なつながりを築き、貢献できる機会を提供することが不可欠です。 Image: Unsplash/ZhengYijun
- 多くのアジア諸国では、高齢化が急速に進んでいますが、欧州諸国と比較して所得水準がはるかに低いという特徴があります。
- これは、「ミッシングミドル(中間層の空白)」、つまり健康状態は良好で介護制度の対象ではないが、就労年齢をすでに超えている、55歳から70歳くらいの高齢者が生じやすいことを意味します。
- 6月23日から25日にかけて中国の大連で開催される世界経済フォーラム「ニュー・チャンピオン年次総会」では、有望なアイデアをスケール可能なインパクトに発展させることを主要なテーマに、議論を行います。
高齢化社会について語る際、通常私たちは二つの異なる物語のいずれかを語ります。一つ目は危機的な状況を描いた物語です。そこには、病床不足、年金財政の赤字、被介護率の上昇といった課題があります。二つ目は、 富裕層向けの高級介護施設や、長寿を専門とする医療機関 のある贅沢な生活を描いた物語です。
どちらも現実に存在しますが、この二つの物語の間に、ほとんど語られることのない第三のストーリーが存在します。それは、より多くの人々の生活に影響を及ぼすもので、「ミッシングミドル(中間層の空白)」と呼ばれます。
「ミッシングミドル」とは、健康状態は良好で介護制度の対象ではないが、就労を取り巻く制度からは外れた、55歳から70歳くらいの高齢者を指します。すでに正社員のキャリアを終えたものの、身体が弱り、動けなくなるまでにはまだ数十年の時間がある人々です。ある程度の資産を持ち、スマートフォンを使いこなす彼らには、今後20年から30年にわたる活動的な人生が待っているでしょう。一方で多くの場合、退職後の人生において、目的意識や人とのつながり、社会貢献の機会を見出す明確な道筋が欠けています。
私の母国であるタイでは、この課題の深刻さを示す数字が無視できないほどになっています。現在、タイの20%以上の人々が60歳以上であり、国家統計局のデータによると、そのうち約6割が60代の「若年高齢者」に分類されます。これはタイ国内だけで約800万人に相当します。アジア開発銀行の予測によると、アジア太平洋地域全体では、60歳以上の人口が2020年の6億600万人から2050年までに13億人へと、倍以上に増加する見込みです。
また、アジアの多くの地域では、経済的に豊かになる前に高齢化が進行しています。人口の高齢化速度はヨーロッパの数倍に達しており、所得水準はヨーロッパの数分の一に過ぎません。多くのアジア諸国では、より豊かな国々のような公的な介護制度を導入する余裕はありませんが、幸いなことにそのような制度を模倣する必要もありません。
管理された衰退から活力の創出へ
私は8年間にわたり、この「ミッシングミドル」のニーズに応えるソーシャルビジネスを運営してきましたが、このコミュニティから予期せぬ重要な教訓を得ました。事業を始めた当初、私たちは高齢者が支援を必要としていると考えていましたが、実際に彼らが求めていたのは「社会の役に立つ存在でありたい」という思いでした。彼らは学び、教え、ボランティアをし、収入を得、コミュニティの一員でありたいと願っており、ある会員が見事に表現してくれたように、「退職は終わりではなく、新たな始まりに過ぎない」のです。
このような考え方の転換が重要な理由は、実際の高齢化のプロセスを理解する上で欠かせないためです。一般的に、人は三つの段階を経ていきます。活動的な時期、在宅で過ごす時期、そして寝たきりの時期です。個人や家族、そして公的予算の目標は、寿命を延ばすことではなく、活動的な時期を延長し、生活に人の手を借りなければならない要介護期を短縮することにあります。世界保健機関(WHO)は「健康的な高齢化の10年」イニシアチブの一環として、これを「高齢期のウエルビーイング(福祉と幸福)を実現する身体機能の能力」と定義。目指すべきは衰退を管理することではなく、活力を創出することなのです。
アジア全域で、このアプローチが有効であることを示す確かな証拠があります。日本では、地域に設けられた「サロン」(ボランティアが運営するシンプルな高齢者向け交流スペース)が、新規の長期介護ニーズ発生率を約50%、認知症リスクを参加者の3分の1にまで低減させる効果があることが確認されています。また、ベトナムでは、社会的なつながりと生計手段を組み合わせた世代間の自助クラブが数千か所にわたって設立され、シンガポールでは、すべての地域に「アクティブ・エイジング・センター」を設置するための投資が進められています。さらに、世界最大の高齢者人口を抱える中国では、在宅ケアと地域密着型ケアに向けて国家戦略を転換しています。
目指すべき方向性は、人々がつながりを保ち、社会に貢献しながら自宅で生活できる環境を整えることにあります。
高齢化社会におけるインフラ整備に不足するもの
高齢化社会では、二層からなるインフラが必要です。一つは物理的なインフラ層であり、高齢者に優しい住宅や、都市環境の整備が含まれます。もう一つは臨床的なインフラ層であり、統合ケアシステムや遠隔健康管理などが該当します。
どちらも不可欠な要素ですが、「その人が朝起きて活動する理由は何か」という問いの答えにはなりません。この問いに対する答えこそが、長寿が祝福となるか負担となるかを決定するでしょう。
ここで登場するのが第三の層、「活性化層」です。この層は、日々の目的意識、学び、社会的つながり、そして社会に貢献し収入を得る機会を提供します。これは単に高齢者向けの住宅を提供することとは異なり、入居者が積極的に活動し続けるよう促すことにつながります。
病院や介護施設とは違い、この層のインフラ整備は極めて低いコストで実現可能です。なぜなら、人々をつなぎ続けるためのツールはすでに存在しているからです。例えばタイでは、60歳以上の人々の84%がスマートフォンを利用。新興アジア地域の高齢者の多くは初等教育しか受けていないため、音声操作を基本とし、現地の言語に対応するスマートフォンが、地域社会で築かれた信頼を基盤としたサービスを支えることができます。
さらに、中国の「シルバーエコノミー」はすでに数兆元規模に達しており、活動的な高齢者層の成長によって急速に拡大を続けています。アジア開発銀行は、高齢化問題を「健康」「生産的な仕事」「経済的安定」「社会的関与」の4つの側面から包括的に捉えており、いずれも政策立案者だけでなく起業家にとっても新たなビジネスチャンスを提示しています。
高齢化に対応する、大規模かつインクルーシブなイノベーション
新たにこのライフステージを迎える数億人もの人々すべてに、単一の組織で対応することは不可能です。また、ミッシングミドルの中でもサービスの費用を負担可能な層が多い一方、より経済的に困窮し、支援ニーズが高い高齢者で、サービスの利用が困難な場合があります。インクルーシブな長寿社会の実現には、公的予算、民間資本、地域組織がそれぞれ役割を担うモデル設計が不可欠です。
人類は今、60歳以降の20年から30年にわたる健康な第二の人生という贈り物を手にしています。一方、現在はまだ、このライフステージに対する具体的な指針もインフラも、想像力に富んだ取り組みもほとんど存在していません。インフラの活性化層を手頃な価格で、包摂的かつ大規模に構築できる国々は、高齢化社会を単なる負担から、知恵と労働力、需要の新たな源泉へと転換させることになるでしょう。
「ミッシングミドル」は市場の空白などではありません。それこそが市場そのものなのです。さらに言えば、それは私たちの両親であり、近い将来の私たち全員です。今世紀で最も希望に満ちたイノベーションとは、単に「年を重ねること」が新しい始まりを意味する世界を築くことかもしれません。
世界経済フォーラムは、2026年6月23日から25日に中国で開催される「ニュー・チャンピオン年次総会」において、イノベーションが画期的な発見からスケールアップし、実際の社会変革へと至るプロセスに焦点を当てます。最新情報はこちら。
このトピックに関する最新情報をお見逃しなく
無料アカウントを作成し、パーソナライズされたコンテンツコレクション(最新の出版物や分析が掲載)にアクセスしてください。
ライセンスと転載
世界経済フォーラムの記事は、Creative Commons Attribution-NonCommercial-NoDerivatives 4.0 International Public Licenseに基づき、利用規約に従って転載することができます。
この記事は著者の意見を反映したものであり、世界経済フォーラムの主張によるものではありません。
最新の情報をお届けします:
新たな多国籍企業
「フォーラム・ストーリー」ニュースレター ウィークリー
世界の課題を読み解くインサイトと分析を、毎週配信。







