ASEANの新たなデジタル経済枠組み協定が、ゲームチェンジャーとなる理由

AI、ブロックチェーン、クラウドコンピューティングなど、21世紀のテクノロジーはグローバル経済を再構築しています。これにより、前例のない機会と複雑な課題が同時に生じています。デジタル経済は急成長しており、仮想プラットフォームがイノベーション、商業、人間関係の主要なエンジンとなっています。

しかし、この変革は不均衡に進んでおり、規制の断片化、デジタル格差の拡大、データ主権やサイバーセキュリティに関する懸念が高まっています。急速な変化と戦略的競争を背景に、東南アジア諸国連合（ASEAN）などの各国と地域グループは、デジタル・ディスラプション（デジタル技術の革新がもたらす創造的破壊）に防御的に対応するか、積極的にそれを形成していくかという重要な選択に直面しています。

ASEANは明確な決断を下しました。デジタルトランスフォーメーションが進む世界の中で、ASEANは明確な意志と大きな目標をもって、結束を固め、着実に歩みを進めています。現在、交渉が進んでいるASEANデジタル経済枠組み協定（DEFA）は、この地域にとって画期的な瞬間を象徴するものです。DEFAは単なる経済協定ではありません。地域に住む約6億8,000万人が、開かれた安全かつ包摂的なデジタルの未来にアクセスするための戦略的ロードマップです。

近年、EUとシンガポールが締結したデジタル貿易協定のような、広範な貿易協定に組み込まれたデジタルおよび電子商取引に関する規定とは異なり、DEFAはデジタル経済の複雑性と機会に対応するための包括的な専用の枠組みとして際立っています。

これは、デジタル経済のガバナンスに特化した、地域横断的な法的拘束力のある世界初の協定になる予定です。ASEAN独自の状況に合わせると同時に、大きな目標と柔軟性を両立させることで、DEFAはグローバルな関連性を維持し、デジタル開発段階によらずすべての加盟国がその恩恵を共有できるようにしています。

DEFAの核心は統合の促進です。現在、ASEAN内のデジタル環境は多様です。一部の加盟国がデジタル金融やインフラで先行する一方、他の国々は基礎的なシステムを構築中です。共通のデジタル規則や基準が欠如した場合、この多様性が分断を招くリスクがあります。

DEFAは、デジタル貿易ルールの調和、信頼できる越境データフローの実現、ペーパーレス取引、電子商取引、サイバーセキュリティ、デジタルID、デジタル決済に関する一貫した規制枠組みの確立を通じて、この課題をより強靭なデジタル経済への転換の機会へと変革します。この包括的なアプローチは、規制の乖離を軽減し、取引コストを削減し、ASEANとそのパートナーに利益をもたらす、シームレスで相互運用可能なデジタルエコシステムを構築します。

ASEANは、この変革を進めるのに最適な立場にあります。世界最高水準のモバイル普及率136%を誇るASEAN地域は、ネットワークが高度に発達し、デジタル面でも活況を呈しています。しかし、コネクティビティのみでは十分ではありません。この高い普及率は、次なる成長段階を支えるための堅牢なデジタルインフラ、相互運用可能なシステム、包摂性の高い政策の必要性を浮き彫りにしています。DEFAはこれを解き放つ触媒です。

DEFAは包摂性をその中核に据えて開発されました。各国政府、ビジネスリーダー、零細・中小企業（MSME）、アカデミアを含む多様なステークホルダーとの広範な協議を通じて構築されています。

この参加型アプローチにより、DEFAは政策決定者の優先事項だけでなく、経済成長を牽引する企業と消費者の経験と展望も反映されたものになっています。その結果、ASEAN企業の97%、雇用全体の85%を占めるMSMEを強化する、人を中心とした合意が生まれました。デジタル規制の簡素化と電子商取引へのアクセス改善により、DEFAはMSMEが国境を越えて拡大し、地域価値チェーンに統合され、グローバルに競争できるようにします。

当地域への投資家の信頼は、すでにグローバルな平均値を上回っています。2023年のASEANにおけるベンチャーキャピタル取引の71%がデジタル経済関連であり、これはグローバル平均よりも11%高い値です。同様に注目すべきは、通信、データ処理、ホスティングサービスへの年間平均発表投資額が、2015年の7億7,700万ドルから2024年には44億ドルと、ほぼ5倍に増加したことです。

DEFAの発効により、この上昇傾向はさらに加速するでしょう。イノベーションが活発化し、ASEANはデジタル投資の主要な目的地としての地位を確立すると考えられます。

また、DEFAは、女性起業家、農村部のイノベーター、若者が率いるスタートアップ企業のための新たな道を切り開きます。スキル開発、人材の流動性、デジタルリテラシーを支援する規定を盛り込んだこの合意は、ASEANの労働力を明日の仕事に備えられるようにします。

DEFAには、デジタルと持続可能性の両面を備えた、二重の目的が包含されています。ASEANは野心的な持続可能性アジェンダを掲げており、DEFAはその主要な推進役となるでしょう。相互運用可能なデジタルツールを通じて、貿易の環境フットプリントを削減し、サプライチェーンの透明性を高め、あらゆる分野におけるグリーンイノベーションを促進するDEFAは、ペーパーレス通関や電子請求書から、スマート農業や環境に優しい物流に至るまで、デジタル経済の基盤を構築します。

デジタル交流の拡大に伴い、セキュリティ保護も拡大する必要があります。DEFAでは、サイバーセキュリティ、データガバナンス、消費者保護に関する高い基準を設定しており、ユーザーは安心して参加、イノベーション、国境を越えた取引を行うことができます。また、将来を見据えた新興テクノロジー関連の協力体制により、ASEANが経済の変化に対応し続けることを可能としています。

この合意は、ASEAN全体のデジタル基盤の上に成り立っており、その中心には「ASEANデジタル経済統合加速のためのバンダルスリブガワン・ロードマップ」と「第四次産業革命に関する統合戦略」が据えられています。

DEFAは、2045年までに世界第4位の経済大国となり、中上位所得国となることを目標とする「ASEANコミュニティビジョン2045」の長期目標達成に欠かせないものです。2030年までにASEANのデジタル経済を2兆ドルに倍増させる可能性を秘めたDEFAは、インクルーシブで持続可能かつ未来志向の成長の原動力となります。

また、競争が激化するグローバル情勢の中で、DEFAの存在によってASEANは信頼できるデジタルパートナーとしての地位を確立することができるでしょう。DEFAは、オーストラリア、中国、米国、EU、インド、日本、韓国、ニュージーランドといった主要パートナーとのASEANの協力を補完し、デジタル基準、データフロー、国境を越えた決済、能力開発に関する協力のプラットフォームを提供します。世界の投資家や多国間機関にとってこれは、ASEANがデジタル時代の価値観の形成をリードする準備が整っていることを示すものです。

DEFAの締結に必要なものは、技術的な正確さだけではありません。イノベーション、インクルージョン、連携の上にASEANの未来が築き上げられるべきであるという政治的勇気、地域としての連帯、そして共通の信念が必要なのです。しかし、1990年代初頭にASEAN自由貿易地域（AFTA）を立ち上げ、「地域的な包括的経済連携（RCEP）協定」を通じて世界最大の貿易協定を締結したことからも分かるように、ASEANが課題に立ち向かう力を有することは歴史が証明しています。

まぎれもなく、DEFAはASEANにとっての未来に向けた大きな一歩です。DEFAはデジタル・ディスラプションをデジタルによって得られる力に変えるものです。これにより、私たちの成長は加速するだけでなく、より公平なものとなるでしょう。そして、グローバルなデジタル対話において、団結し、自信に満ちた確かな声としての位置付けを獲得することができるでしょう。

世界が注目しています。未来はデジタルにあります。ASEANは準備が整っているだけでなく、その先頭に立っているのです。