エネルギー転換

アジャイルなスタートアップによるイノベーション

グローバルなエネルギーシステムは、工学と 協調の驚くべき成果 だ。

グローバルなエネルギーシステムは、工学と 協調の驚くべき成果 だ。 Image: Getty Images/iStockphoto/Chepko

John Dutton
Head, UpLink; Member of the Executive Committee, World Economic Forum
本稿は、以下センター (部門)の一部です。 エネルギー、マテリアル

グローバルなエネルギーシステムは、⼯学と協調の驚くべき成果だ。 国境や⼤陸を越えて燃料や電⼒を⽣成、輸送、供給するエネルギーシステムは、私たちの家庭を暖め、産業に動⼒を与え、グローバル経済を動かし続けている。

⼀⽅、このシステムは本質的に脆弱で、地政学的な安定や途切れることのない貿易ルート、調整されたサプライチェーンに深く依存している。

世界の⽯油と液化天然ガスの20パーセントが通過していたホルムズ海峡の封鎖は、今後数年にわたって影響が及びうる事態を引き起こした。原油銘柄の⼀つ、ブレント原油は2026年3⽉、4年ぶりに1バレルあたり100ドルを突破し、ピーク時には126ドルと、史上最⼤級の上昇を記録した。

⼀⽅、グローバルに取引される海上輸送肥料の約3分の1が同海峡を通過していたが、⽯油とは異なり、肥料には国際的に調整された戦略備蓄がない。海峡封鎖以降、肥料価格は2倍以上に⾼騰しており、国連世界⾷糧計画(WFP) は、紛争が続けば、今年末までにさらに4,500万⼈が深刻な飢餓に直⾯する可能性があると警告している。

封鎖が、化⽯燃料への依存を終わらせ、よりクリーンなエネルギー⽣産へと移⾏するという、 苦労の末に得られた進展の芽を摘む恐れもある。

24年に2兆ドルを超えるクリーンエネルギー投資が⾏われたにも関わらず、世界経済フォーラムの報告書『エネルギー転換指数2025 』によると、エネルギー安全保障は停滞しており、炭素排出量は過去最⾼を記録。安全保障、公平性、持続可能性の3分野すべてで同時に進展を遂げた国は、わずか28パーセントにとどまった。

この危機は、 私たちを⾏動へと駆り⽴てるだろう。各国政府やエネルギー企業が供給を安定させるためにあらゆる⼿段を講じる⼀⽅で、イノベーターたちは画期的な技術の開発に取り組んでいる。

こうした動きは⾒過ごされがちだが、適切な⽀援があればその技術は、供給ショック時にもエネルギーの流れを維持し、グリーン移⾏を加速させ、将来の混乱から経済を守る⼀助となり得る。

創業間もないスタートアップは、規模があまりにも⼩さく、実績に乏しく、リスクが⾼すぎるために、投資対象になりにくい。このことは、スタートアップへの年次投資総額の割合にも反映されており、資本の⼤部分はより⼤きな企業や、成⻑段階にある企業へ流れている。

ただし、課題は技術そのものではない。再⽣可能エネルギーから分散型蓄電、マイクログリッドに⾄るまで、必要な技術⾰新はすでに存在している。その多くはコスト競争⼒があり、規模拡⼤の準備が整っている。⽋けているのは、それらを迅速に展開するための意志と資本である。

こうしたスタートアップは、既存のシステムを破壊しようとしているのではなく、既存のシステムが適応できるよう⽀援しようとしている。そして重要なことに、彼らはそれを迅速に⾏うことができる。素早く動くだけの機動⼒があり、レガシーシステムを迂回できるだけの⾰新性を持ち、各国が今まさに必死に追い求めている画期的な技術に焦点を当てている。

過去と現在の⽯油ショックに最もさらされてきたセクターの⼀つである、 輸送部⾨の脱炭素化に取り組むイノベーターたちを例に挙げよう。

⽶国カリフォルニア州サンタクララに拠点を置くインフィニウムは、⼆酸化炭素と再⽣可能エネルギーをトラック、船舶、航空機⽤の燃料に変換する。既存のエンジンを改造する必要はない。スイス連邦⼯科⼤学チューリッヒ校発のベンチャー企業であるシンヘリオンは、太陽熱から合成燃料を製造している。スイスインターナショナルエアラインズは、シンヘリオン社製の太陽燃料を使⽤して⾶⾏した世界初の航空会社となった。

⽶カリフォルニア州サンフランシスコに拠点を置くスノーラインは、太陽エネルギーを利⽤した冷凍装置を使⽤して、コールドチェーン物流からディーゼル燃料を完全に排除した。搭載されたAIを⽤いて温度とエネルギー使⽤量を監視する。

電⼒システムもまた、この変動の激しい新時代に適応しつつある。産業の成⻑とデータセンターの急速な拡⼤に牽引され、30年までに電⼒需要はエネルギー需要全体の2.5倍のペースで増加すると⾒込まれており、世界各地の送電網はすでに深刻な圧⼒にさらされている。

例えばアジアでは、原油価格の⾼騰と熱波により、すでに余裕がなく、柔軟性に乏しい送電網にさらなる負荷がかかり、エネルギー集約型産業は⽣産規模の縮⼩を余儀なくされている。

こうしたギャップを解消し、レジリエンスを構築するために、創業して間もないイノベーターたちが動き出している。その⼀つ、エレクトリックフィッシュは、超⾼速EV充電と蓄電池を組み合わせたインテリジェントなマイクログリッドを開発し、必要な場所で迅速に給電を可能にした。

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ゼンディーのソフトウェアは、 太陽光、マイクログリッド、バッテリーなどの分散型エネルギー源を最適化し、コストを削減する。さらに、ベルギーのスタートアップ、D-CRBN は、 化学産業や製造業など、脱炭素化が最も困難な業界に焦点を当てる。同社のモジュール式技術は、⼆酸化炭素を⼀酸化炭素に変換し、これをカーボンニュートラルな燃料やポリマーに利⽤。つまり、廃棄する⼆酸化炭素排出物を原料へと転換する。

同社は、ベルギーのゲントにあるアルセロール・ミタルの製鉄所でこのソリューションの実証試験を⾏っている。

エネルギー貧困と⾷料不安のリスクが極めて⾼い⼆つの地域、サブサハラ・アフリカと南アジアでは、ウガンダを拠点とするマンデュリス・エナジーが、農業廃棄物を利⽤したバイオマス・マイクログリッドを運⽤。農村地域に⼿頃な価格のクリーンな電⼒を供給している。

これらのソリューションは、失われた供給を⼀夜にして補うことはできないかもしれないが、 地域での発電を可能にし、送電網の近代化に向けた時間を確保して、経済が需要のピークを乗り切る助けとなるだろう。

もっとも、それだけでは不⼗分で、公共部⾨と企業は、スタートアップが実証実験を⾏う余地を与え、初期投資のリスクを軽減し、イノベーションが迅速に進むよう規制上の道筋を整える必要がある。

何よりも、これらの企業には、パートナー、出資者、ネットワーク、そして有望な実証実験を拡張可能なソリューションへと発展させるための制度的⽀援といった、スタートアップを取り巻くエコシステムが必要だ。

初期段階のイノベーションは万能薬ではないが、迅速かつ賢明な活⽤により、次なるエネルギー危機の際に企業や⼀般市⺠を最悪の影響から守る⼀助となるだろう。起業家たちは準備ができている。 彼らの技術も準備ができている。今こそ、私たちが彼らを⽀援すべき時なのだ。

この寄稿文は、DOW JONES 読売新聞 Proに掲載されたものを転載しています。

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