金融と通貨システム

モメンタムを増すステーブルコイン、未解決の疑問とは

数百種類のステーブルコインが存在する一方で、わずか数種類が3,000億ドル規模のグローバル市場を支配しています。

数百種類のステーブルコインが存在する一方で、わずか数種類が3,000億ドル規模のグローバル市場を支配しています。 Image: CoinWire Japan/Unsplash

Kevin Werbach
Professor of Legal Studies and Business Ethics and Director, Blockchain and Digital Asset Project, Wharton School, University of Pennsylvania
  • ステーブルコインの総時価総額は、約3,000億ドルに達しました。
  • 一方、その定義や応用に関する根本的な疑問が依然として残っています。
  • ウォートン・ブロックチェーン・アンド・デジタル・アセット・プロジェクトによる新たな研究が、この課題の解明を目指しています。

ステーブルコインは、主流の座を占めるようになりました。ビザ(Visa)によると、昨年の取引量は34兆ドルを突破。過去5年間で、時価総額は500億ドル未満から約3,000億ドルへと急増しました。米国は2025年半ばにステーブルコイン関連法を導入し、日本、欧州連合、香港、シンガポール、アラブ首長国連邦など、専用法制度を整備した他の管轄区域に追随しました。主要銀行、決済処理業者、フィンテック企業は、競い合うようにステーブルコイン商品の提供を開始しています。

一方、高まる注目度をよそに、基本的な疑問が未解決のまま残されています。ステーブルコインとは正確には何でしょうか。それは広範な通貨、決済の世界においてどのような位置付けにあるのでしょうか。そしてその答えがなぜビジネスリーダーや政策立案者にとって重要なのでしょうか。

アカデミア、産業界、政府機関から20名以上のグローバルな専門家を結集し、共同で作成されたウォートン・ブロックチェーン・アンド・デジタル・アセット・プロジェクトの新たなレポート『The Stablecoin Toolkit(ステーブルコイン・ツールキット)』は、これらの疑問に真正面から取り組んでいます。同レポートが明らかにしたのは、報道よりも、また規制当局の想定よりも、はるかに多様で複雑な市場の実態です。

ステーブルコインの定義

多くの人々は、ステーブルコインを米ドルと1対1で連動し、どこかの銀行口座に保管された米国債によって裏付けられたデジタル資産と考えています。これはテザー社のUSDTとサークル社のUSDCに当てはまるもので、両社で市場の約85%を占めています。また、米国のGENIUS法などの立法の中心にあるモデルでもあります。

ただし、この見方は不完全です。現在、100種類をはるかに超えるステーブルコインが流通しています。オフチェーンの担保を全く保有していないものも、米ドルにペッグされていないものもあります。保有者に直接利回りを支払うものもあれば、流通業者を通じて分配したり、全額を留保したりするものもあります。従来の企業構造で運営されるものも、ブロックチェーンベースのプロトコルを通じた分散型コミュニティの投票で運営されるものもあり、これらを一括りにすることは、その仕組み、伴うリスク、有用性における重要な差異を曖昧にしてしまいます。

「ステーブルコイン」という用語自体にも、共通の定義が存在しません。各規制当局は管轄対象を定義しています(米国では「決済用ステーブルコイン」、EUでは「電子マネー・トークン」)。ただし、概念そのものを第一原理から説明しているものは存在しません。そして、数十億ドル規模の資産を保有しながら、これらのカテゴリーに当てはまらないステーブルコイン(少なくとも市場関係者がそう呼ぶもの)が存在します。

同レポートでは、実用的な定義を提案しています。つまり、「公的に利用可能で、中央銀行が発行しないデジタル資産であり、経済的メカニズムを通じて安定した価値基準単位となることを目指すもの」です。

「公的に利用可能」という条件は、ステーブルコインを民間の銀行トークンと区別します。また、「中央銀行が発行しない」という条件は、中央銀行デジタル通貨(CBDC)との差異を示します。さらに、「価値基準単位」という用語は二つの重要な点を強調します。ステーブルコインは安定性を目指しますが、保証するものではありません。そして安定性の目的は、取引における共通の尺度として機能することにあります。最後に、「経済的メカニズム」とは、開発者がペッグを維持するために用いるあらゆる手法、および政府発行の法定通貨の運用方法との相違点を包括的に捉えた概念です。

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安定性を保つ4つの方法

同レポートでは、ステーブルコインのペッグを維持するための4つのメカニズムと、それらのハイブリッド形態を特定しています。

USDTやUSDCなどのオフチェーン完全担保型ステーブルコインは、各トークンを裏付ける伝統的な金融資産(現金、国債、リポジトリ)を保有しています。これは多くの規制当局が想定するモデルであり、概念的には最も単純です。一方、これは完全に中央集権的な主体が、信頼できる保管機能を効果的に果たすことに依存しています。

DAI/USDSのような、プログラムによって運営される過剰担保型ステーブルコインは、完全にブロックチェーン上で動作します。ユーザーは発行するステーブルコインよりも多くの担保をロックアップし、通常は価格変動の激しいデジタル資産である担保の価格が下落した際に備えます。また、不足を回避するため、必要に応じてスマートコントラクトが自動的にポジションを清算するものです。このアプローチは、分散化と透明性を優先するため、資本効率を犠牲にします。

供給ベースのアルゴリズム型ステーブルコインは、トークン供給量の拡大、縮小によってペッグ維持を試みます。このモデルは2022年にテラ・ルナのUSTが崩壊し、400億ドル以上が消滅した惨事の背景となりました。こうした経緯と実現可能性への深い懐疑から、これらの設計は主要な規制枠組みから明示的に除外されています。現在市場にはアルゴリズム型ステーブルコインが存在しますが、有意な市場シェアを取り戻すには至っていません。

合成ヘッジ型ステーブルコイン(代表例:エセナのUSDe)は、暗号資産担保を保有すると同時に、デリバティブ市場で相殺するショートポジションをヘッジします。これにより「デルタニュートラル」なポジションが形成され、原資産価格の変動に関わらず安定性を保ちつつ、ステーキング報酬や資金調達レートから収益を生み出します。このモデルは急速に成長していますが、デリバティブ市場の動向に依存します。

重要なのは、これら4つのアプローチが全て同等に健全であるということではなく、ステーブルコイン市場には多様な選択肢が存在するということです。それぞれが異なるリスクプロファイル、ガバナンス構造、ユースケースを有しています。同レポートの付録では、主要な40種類のステーブルコインを詳細に分類しています。ステーブルコインは、より広範な通貨および通貨類似の金融商品との関係性においても、理解される必要があります。同レポートでは、現金や銀行預金から、トークン化されたマネーマーケットファンド、CBDCに至るまで、10のカテゴリーを整理。ステーブルコインはこれらの代替手段と並存し、ある場面では競合し、別の場面では補完し合います。効果的な規制および事業戦略は、ステーブルコインを単独で扱うのではなく、こうした差異を考慮に入れる必要があります。

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ステーブルコインの今後の展望

詳細に見ると、ステーブルコインは大きな注目を集めていますが、まだ発展の余地があることがわかります。ビザが発表した34兆ドルという数字には、高頻度取引やボットの活動が含まれており、これらを除くと取引量は80%減少。さらに、その取引量の約99%は、決済やその他の用途ではなく、デジタル資産取引に起因しています。一方で、ステーブルコインの供給側と新たなユースケースのためのインフラの両方において、活発なイノベーションが進んでいます。市場の進化は、テクノロジーや規制だけでなく、マクロ経済状況、地政学的動向、そして伝統的な金融企業の競争的対応にも左右されるでしょう。

ビジネスリーダーたちにとって、ステーブルコインのアプローチの多様性は重要です。なぜなら、設計に応じて適した目的が異なるからです。グローバルな財務管理向けに最適化されたステーブルコインは、デジタル資産取引、新興市場におけるマイクロペイメント、あるいはAIエージェントによるプログラム可能な取引向けに設計されたものとは、大きく異なる姿となるでしょう。政策立案者が、正当なイノベーションを阻害することなく消費者と金融の安定性を保護するルールを策定するには、こうした差異を理解することが不可欠です。

一つ明らかなことは、ステーブルコインが未来のお金の形の一部となるということです。これらを正しく理解するには、誇大広告にとらわれず、その多様な実態を把握する必要があるのです。

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