3つのグラフが示す、雇用に対するAIスキルの影響

企業にとってAIスキルの資産価値は増大しており、最近の調査でこの状況が賃金動向、雇用の質、採用判断に及ぼす影響が明らかになりました。 Image: Unsplash / Vitaly Gariev
Fabian Stephany
Assistant Professor for Artificial Intelligence and Work, Oxford Internet Institute, University of Oxford- 電気、自動車、インターネットがそうであったように、AIもまた、世界中の人々の生活と働き方を変革しつつあります。
- 一方、AIが経済に変革をもたらすためには、企業や従業員がその能力を効果的に獲得、活用できるようになる必要があります。
- AIの急速な普及に伴い、AIに関するスキルの価値が高まる中、最近の調査で、この状況が現在の賃金動向、雇用の質、採用判断に影響を及ぼしていることが明らかになりました。
汎用テクノロジーは経済史において、独特の足跡を残しています。電気、自動車、インターネットは単なる既存プロセスの改善ではなく、社会そのものを再編成しました。これらは企業の組織構造を変え、都市のあり方を変容させ、コミュニケーション手段を革新し、労働のあり方を再定義したのです。幾度かの技術革新の波が、それまで想像すらされていなかった新たな産業や職業を生み出してきました。
AIは、この系譜における次なる有力候補として台頭。過去10年間で、AIは専門研究分野から広く普及した経済的なテクノロジーへと進化を遂げました。物流やマーケティングから金融、医療、ソフトウェア開発に至るまで、日常的なビジネス業務のあらゆる側面に幅広く組み込まれるようになっています。
歴史が示すように、汎用テクノロジーの成功は、単なる発明だけでなく、そのスキルの普及度合いにも左右されます。電気が経済を変革したのは、技術者やエンジニアが電力を大規模に活用できるようになってからです。また、インターネットが経済的に変革をもたらしたのも、デジタルテクノロジーのスキルが少数のテックエリート層を超え、広く普及した後のことでした。
AIも同じロジックに従っています。その経済的影響は、労働者や企業がAIを生産的に活用するために必要なスキルを習得し、適用できるかどうかにかかっているのです。

上記のグラフはこの力学を如実に示しています。左側のグラフでは、主要なテクノロジーの導入推移を最初の25年間にわたって比較しており、AIはその急激な加速度合いにおいて際立っています。右側のグラフは、3か国におけるAI関連スキルを明示的に要求するオンライン求人の状況を示しています。ここでも、急激な増加が確認できます。
左右のグラフを総合すると、AIの導入が急速に加速しており、労働市場もそれに応じて変化しているという一貫した傾向が読み取れます。ただし、需要が供給を上回っているのが現状です。企業がAIを活用できる人材の限られたプールをめぐって競争する中で、AI関連スキルの価値は急激に上昇し、賃金構造や雇用の質、採用判断に大きな変化をもたらしています。
AIスキルの価値上昇
先進国において、雇用主はAIシステムの開発と導入ができる人材、あるいはAIシステムと効果的に協働できる人材をますます求めるようになっています。この需要はテクノロジー分野にとどまらず、金融、製造業、医療、物流、公共サービスなど、幅広い業界に及びます。
英国オックスフォード大学の「SkillScale」プロジェクトチームと共同で行った調査では、労働市場の制度や教育システムに大きな違いがあるにも関わらず、主要な欧州経済圏において、2010年代から2020年代前半にAIスキルへの需要が一貫して上昇傾向にあることが明らかになりました。
重要な点は、この需要の急増に対して、供給がそれに見合う形で増加していないということです。人材育成の仕組みは需要の増加に追い付くことができず、企業からは適格な人材の採用が困難になっているとの報告が相次いでいます。
その結果、世界的にAIスキルの不足が生じ、これがAI技術の経済的価値を高める要因となっています。この価値の高まりは次の3つの形で現れています。
1. 賃金の上昇
この需給バランスの不均衡による最も顕著な影響は、賃金プレミアムの大幅な上昇です。英国における1,000万件以上の求人情報を分析した私たちの調査によると、AI関連スキルを有する候補者は、そうしたスキルを持たない同等の候補者と比較して、平均で23%高い給与の提示を受けることが分かりました(下図参照)。
同じデータによると、修士号取得者は約13%、学士号取得者では約8%の賃金プレミアムが認められる傾向にあります。つまり、AIスキルは現在、正式な学歴よりも即時的な労働市場での価値が高く、雇用主はよりスキルベースの採用方針へと移行しているのです。
実際、採用手法はますますスキル重視の傾向を強めており、特に技術革新のスピードが速い分野では、従来の学歴がイノベーションの進展に追い付いていません。労働者にとっては、短期集中型のモジュール式トレーニングを通じてなど、特定のスキルを集中的に習得することが、場合によっては学位取得以上の賃金上昇をもたらす可能性があります。雇用主にとっては、これはAI導入と生産性向上に不可欠な希少な専門スキルをめぐる激しい競争を反映するものです。

2. 雇用の質の向上
賃金の上昇は、課題の一部に過ぎません。AI人材の獲得競争を繰り広げる企業は、全体的な雇用の質を向上させる、より充実した非金銭的報酬も提供しています。2018年から2024年までの米国での求人広告を分析すると、AI関連職種では、手厚い育児休暇制度、柔軟な勤務形態、在宅勤務やハイブリッドワークの選択肢といった特典を広告するケースが有意に多いことが明らかになりました。AI関連職では、育児休暇に関する福利厚生が含まれる可能性が約2倍高く、在宅勤務が可能なケースは約3倍に上ります(上記のグラフ参照)。
重要な点は、これらの差異が近年さらに拡大していることです。これは、企業が希少なAI人材を引き付けるために、給与だけでなく雇用の質にますます重点を置くようになっていることを示唆しています。また、AIスキルをめぐる競争が、雇用条件全般に影響を与え、労働市場の一部において労働環境の改善をもたらしている可能性も示しています。この意味において、AIスキルは単に賃金を引き上げるだけでなく、柔軟性やワークライフバランス、労働者の家庭生活支援に関する期待感そのものを再構築しているのです。
3. 雇用可能性の向上
AIスキルは、実際に採用オファーが出される前からも有利に働きます。米国と英国の1,700名の採用担当者を対象とした実験的調査において、研究チームは、履歴書に記載されたAIスキルが面接の合否判断にどのような影響を与えるかを検証。採用担当者に、他の条件がすべて同一で、AI関連スキルの有無だけが異なる候補者ペアを提示しました。
履歴書が完全に同一の場合、面接に進む確率は50%でした(下図の点線)。一方で、職種により異なりますが、平均してAIスキルを有する候補者は8~15%高い確率で面接に進んでいます。この効果は、グラフィックデザイン、事務管理、ソフトウェア開発など、多様な職種において確認されました。

特に注目すべきは、AIスキルが従来の採用における不利な要素を緩和している点です。一般的に採用連絡を受ける確率が低い傾向にある、高齢の応募者や、大学院卒でない候補者の履歴書にAIスキルが記載されている場合は、採用の可能性が大幅に向上しました。これらのスキルが、大学や企業の研修プログラムなどの公的な認定資格によって裏付けられている場合、その効果はさらに顕著でした(上記のグラフ参照)。
これらの結果から、AIスキルは採用プロセスにおいて部分的な公平化要因として機能し、静的な属性よりも実証可能な現在の能力に重点が移る傾向があることが示唆されます。
AIスキルを向上させる方法
AIは雇用機会を減少させるのではなく、スキルの価値構造そのものを再構築しています。したがって、AIがもたらす経済的課題は、雇用喪失そのものではなく、スキルの普及促進にあります。
企業にとっては、AI活用能力を持つ人材の雇用が競争優位性の源泉となりつつあります。研修や認定資格の取得、社内スキル向上プログラムに投資する企業は、AIを効果的かつ持続的に導入する上で優位に立つことができるからです。賃金水準だけで競争するのは不十分です。今後は雇用の質、学習機会の提供、信頼性の高いスキル認定などがより重要な要素となるでしょう。
政策立案者にとっての最優先課題は、規模の拡大と包摂性の確保です。AIスキルの普及を促進することによる経済的リターンは大きく、広く分配されますが、それは実際にスキルを習得できる人々に限定されます。モジュール式トレーニングへのアクセス拡大、信頼性の高い認定資格制度の支援、そして特に中小企業が継続的な学習に投資できる環境の整備が極めて重要です。
AIへの移行は、「汎用テクノロジーが社会全体の繁栄をもたらすのは、技術の進化速度と同様にスキルが迅速に普及した場合に限られる」という、経済史が繰り返し示してきた重要な教訓を再確認させるものです。競争は、人間と機械の間にあるのではありません。AI能力を大規模に構築できる者が、そうでない者に勝利するのです。
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