国際森林デー~食糧安全保障の未来につなぐ森林の保全と回復~

森林は未来の食料安全保障にとって不可欠です。 Image: Getty Images/iStockphoto
Lucy Almond
Chair, Nature4Climate Coalition and Head of Communications, Nature Pillar, World Economic Forum- 森林は水循環を調整し、土壌を豊かにし、受粉を媒介する生き物たちを育み、何十億もの人々に食料を提供して、グローバルな食料システムを支えています。
- 森林保全、アグロフォレストリー、持続可能な土地管理は、森林破壊を食い止め、農業生産性の向上と二酸化炭素排出量の削減に役立ちます。
- 森林が人と地球を支え続けることができるよう、各国政府、企業、個人は政策提言、責任ある調達、サステナブルな慣行への投資を通じて、共同で取り組む必要があります。
世界の森林面積は40億ヘクタール(陸地の31%)以上です。森林は生態系と世界的な食料システムの中心にありますが、大きな圧力にさらされています。
今年の国際森林デーは「森林と食料」をテーマに、森林と食料安全保障の重要なつながりに焦点を当てています。大気中の二酸化炭素を吸収し、食料や生活を支えるなど、森林は世界の維持と食料供給において重要な役割を果たしています。
森林の保全と回復が重要な理由
森林は地球上の生命にとって不可欠であり、二酸化炭素を吸収して酸素を放出することで地球の肺の役割を果たすと同時に、地球の気温や水循環を調整し、生物多様性を支えています。しかし、1990年以降、世界で1億7,800万ヘクタールの森林が失われました。これは、リビアの国土面積に匹敵する大きさです。
森林の消失は、二酸化炭素排出量の増加、生物多様性の損失、土地の劣化、農村地域の生活基盤の消失に直接つながります。
森林の保全と回復は、これらの複数の課題に取り組む上で不可欠です。具体的には、森林とそこに生息する動植物の種の多様性を保護することを意味します。また、以前は森林地帯であった地域、都市部、農地に植林を行うことも含まれます。
世界経済フォーラムの「1兆本の木を植える」プラットフォーム、1t.orgは、官民連携による森林の保全と回復の取り組みを主導しています。2020年の発足以来、92社が143カ国で97億本以上の木を保全、回復、育成する誓約書に署名しました。
このイニシアチブ(ハッシュタグは #GenerationRestoration)は、200人以上のエコ起業家コミュニティを育成し、140人の若い活動家を動員しています。
1t.orgのメンバーであるフレッシュデルモンテ社は、「JUNTOS」プログラムを通じて持続可能な林業に取り組んでいます。
同プログラムはこれまでに、約486.6ヘクタールの森林再生、400ヘクタール以上の野生生物保護区の創設、生物種の移動経路の開発を促進してきました。
また、同社は生物多様性の保全のために1万ヘクタール以上の土地を確保し、コスタリカとグアテマラにおいて、これらの課題の重要性に関して地域社会で教育を行うための5つのアライアンスも構築しています。
持続可能な食料システムにおける森林の役割
森林は農業にとっても不可欠です。受粉を助ける花粉媒介者の生息地となり、水循環を調整し、農作物の防風林としての役割を果たすからです。したがって、森林伐採はグローバルな食料サプライチェーンを脅かすものです。
農地に樹木を組み込むアグロフォレストリーは、森林再生の主要な手段です。土壌の肥沃度、保水力、二酸化炭素の吸収力を高めることで農家の収穫量を増やすと同時に、劣化した土地の回復にも役立ちます。
東アフリカに拠点を置くフォレステッドは、1t.orgとUpLinkの共催による「2021年1兆本の木チャレンジ(2021 Trillion Trees Challenge)」の受賞企業です。小規模農家や土地管理者と提携し、グローバル市場向けに環境再生型農業による農産物の栽培、加工、供給を行っています。
また、持続可能な方法で採取された蜂蜜などの製品、エッセンシャルオイル、ナッツバター、その他のアグロフォレストリー由来の原料を消費財ブランドに提供。単に供給するだけでなく、検証済みのスコープ3削減量またはカーボンインセットを提示することで、同社からの調達が確実に環境や社会に真のインパクトをもたらすことを保証しています。
生態系の復元と生物多様性の向上が、単に保全戦略にとどまらず、消費者ブランドの未来にとってスケーラブルで収益性が高く、気候変動に強いソリューションである証明となっているのです。

森林を再生して水と土壌を確保
フォレステッドが活動する流域は、世界の主要都市の85%以上に新鮮な水を供給しています。さらに、持続可能な森林管理を行うことで、大都市圏に住む17億人以上の水質を改善し、食料と水の安全保障に貢献することができます。
森林は、水の流れを調整し、土壌を保護します。また、スポンジのように降水を吸収し、徐々に放出することで、周辺のコミュニティや農地に安定した水の流れを維持し、農地の生産性を高めます。
また、落ち葉や有機物が分解され、栄養素の循環により土壌に必須の栄養素が加わって、農業利用に適した土壌の質が向上します。
実際、健全な土壌はグローバルな食料生産の95%を支えています。生物多様性の保全、水のろ過、炭素隔離にも役立っているのです。しかし、世界の土壌の3分の1は劣化しています。
この課題を踏まえて、「土壌に関するグローバル・フューチャー・カウンシル(Global Future Council on Soils)」が発足しました。このイニシアチブは、セクター横断的な洞察を通じて、土壌劣化を食い止めるための画期的なデータ主導型のアイデアやソリューションを推進することを目的としています。
生計の維持と森林保護
森林は農業、製薬、エコツーリズムなどの産業に貢献する一方で、先住民コミュニティや農村世帯の伝統と生存を支えています。また、レクリエーションや観光を通じてそのウェルビーイング(幸福)に役立ちます。
しかし、新たな生産モデルが台頭しており、エネルギー転換と同規模の農業転換が必要です。農産物の生産が世界中で自然破壊の最大要因の一つとなっており、土地利用がグローバルな排出量のほぼ4分の1の原因となっているからです。
トロピカル・フォレスト・アライアンスは、特に牛、パーム油、大豆といった農産物による森林破壊の悪影響に着目。森林破壊のない移行を加速させるために、企業の慣行、公共政策、資金フローの変更に取り組んでいます。
最近の需要と供給の貿易力学の変化の事例としては、「グリーン・バリューチェーンのためのタスクフォース(Taskforce for Green Value Chains)」を通じて促進された、森林破壊や土地転換を伴わないブラジル産大豆の中国への出荷が挙げられます。このタスクフォースは、COFCOインターナショナルの協力を得て、2023年の世界経済フォーラム「ニュー・チャンピオン年次総会」で発足したものです。
このような進展は、投資家からの評価を得る、政策立案者にビジネスケースを提供する、同業他社に自信をもたらす、生産国にポジティブな市場シグナルを発信するなど、商業的価値や評判を高める効果があります。
森林の消失は、二酸化炭素排出量の増加、生物多様性の損失、土地の劣化、農村地域の生活基盤の消失に直接つながります。
”森林は食料安全保障の未来
森林と食料安全保障は密接にからみ合っています。早急な対策が講じられなければ、森林破壊はグローバルな食料供給、経済、生物多様性、気候を脅かし続けるでしょう。
森林を保全し、再生することで、次世代に食料安全保障と強靭な未来を渡すことができます。しかし、そのためには協調行動が不可欠です。
各国政府、企業、研究者、非政府組織、そして個人が協力して、以下の取り組みを行う必要があります。
- 森林保全と再生を優先する公共政策を支援する。
- 持続可能な土地管理とアグロフォレストリーに投資する。
- 森林破壊を招く需要を減らすために、消費者の責任ある選択を促進する。
- 官民連携を奨励する。
国際森林デーに、これらの重要な生態系を守ることを誓い合いましょう。政策、ビジネス、個人の選択を通じて、私たち全員が役割を担っています。森林のない未来は食料のない未来です。今こそ行動を起こさなければなりません。
本稿には、フォレステッドの創設者兼CEOであるアリアナ・デイ・ユエン氏の協力を得ています。