気候変動対策

気候変動緩和を最大限にする、森林マッピングとは

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日本は、気候変動の緩和を最大化するために、森林マッピングを先導しています。 Image: Unsplash/Geranimo

Naoko Tochibayashi
Communications Lead, Japan, World Economic Forum
Mizuho Ota
Writer, Forum Agenda, Forum Agenda
  • 森林に関する正確で包括的な情報を得ることは、気候変動と闘うための最善の戦略を策定する上で不可欠です。
  • 日本の森林は広大なため、正確なデータを収集することは困難でした。
  • オープンソースデータは、地方自治体や企業が二酸化炭素排出量を削減するために森林をより効果的に利用するのに役立ちます。

森林は、気候変動との世界的な闘いにおいて重要な役割を果たしています。森林は世界の陸地の3分の1を占めており、木は、成長過程に大気中の二酸化炭素を吸収して枝や葉を伸ばし、炭素を「蓄積」するからです。NASAによると、2001年から2019年の間、森林は、毎年およそ76億トンの二酸化炭素を吸収してきました。

森林が吸収する二酸化炭素の量は、森林の状態、密度、木や生物種の多様性などの要因に大きく左右されます。例えば、林・林業学習館によると、樹齢11年から20年のスギの木の二酸化炭素吸収量は、同年齢のクヌギの木と比較して3倍ほど多くなっています。また、多くの木は、若い時期に吸収量が多く、樹齢を重ねるにつれ、吸収量が減少する傾向が見られます。さらに、東京大学のチームによる調査では、伐採と植林をしない森林と比較すると、伐採を2倍行なった森林において、炭素蓄積が3~4倍になると報告されています。

気候変動対策における最適な戦略を立てるにあたり、森林に関する様々な情報を網羅した、高精度の情報が不可欠であることが明らかです。日本では、官民一体となり、高精度の森林マップを作成・共有し、気候変動政策への情報提供に役立てる動きが始まっています。

官民連携による森林の高精度マップの作成

日本は国土の67%が森林に占められており、気候変動対策の一環として、森林管理などへの貢献により温室効果ガスの排出削減・吸収量を認証する、Jクレジット制度が導入されています。

一方、その広大な面積から、森林に関する詳細なデータの取得が課題となっていました。これまで、Jクレジット制度などで利用されてきた、森林の蓄積炭素量のデータは、樹木の種類や林齢の目録に基づく推定値や、位置情報が確定ではない現地調査から得られており、制度に課題がありました。近年は、レーザー技術の活用により、より正確な森林マップが作成されるようになっています。また、林野庁は、最新技術を活用した、全国の森林の詳細情報を取得するための取り組みを積極的に支援しています。

こうした中、2024年10月、東京大学の研究チームが、高度な衛星データを用いた、日本全国の森林構造と炭素蓄積量が含まれる、高解像度の森林マップを発表しました。このマップにより、これまで使用されていたデータが示す炭素蓄積量が、著しく過小評価されていたことが明らかになり、正確かつ最新の森林データの必要性が改めて浮き彫りになりました。

また、樹木の状態に加えて、森林の二酸化炭素吸収能力を左右するのは、生態系です。九州大学の調査では、シカの増加により森林の炭素貯溜機能が半減することが明らかになっています。シカの個体数が増加しすぎると、シカが好んで食べる植物と好まない植物との数のバランスが崩れ、森林構造が急速に変化してしまうからです。

10月に発表された、製造会社のヤマハをはじめとした企業と大学6者による産学連携チームによるプロジェクトでは、森林に含まれる樹木に加えて、生態系の定量化も対象となっています。同チームは、ヤマハ発電機の無人ヘリコプターに搭載したLiDar(レーザー光を照射して対象物までの距離や形状を測定する技術)を用いて、東京都西部にある地域の森林を対象に、高精度の二酸化炭素吸収量などの算定方法開発のための実証実験を開始します。その一環として、「森林内の植生構造と、鳥類・哺乳類・昆虫などの動物種のデータから、実証地における生物多様性の情報を定量化」する予定です。今後、これらのデータを活用し、森林が将来どれほど二酸化炭素を吸収できるかなどの予想を行っていくとしています。

データのオープンソース化でより積極的な気候変動対策を促進

林野庁では、収集した情報をデジタルデータ化し、オープンソースとして公開しています。日本では従来、森林情報は主に林業の現場で活用されており、各都道府県が管轄する行政機関や森林・林業に携わる民間事業者などの関係者の間でのみ、こうした情報が共有されてきたという背景があります。森林データのオープンソース化により、幅広い企業や団体などが、こうした情報にアクセスすることができるようになったのです。

こうした公開データを分析することにより、各地域の森林ごとに、二酸化炭素吸収量を最適にするための管理方法を見出すことが可能になります。これを基に、自治体および企業は、森林を活用した、より効果的な方法で二酸化炭素排出削減を進めることが可能となり、将来的な排出量削減に大きな貢献を果たすことが期待されます。

正確な森林データはより効果的な排出量削減に貢献

世界経済フォーラムは、「気候のための森林(Forests for Climate)」イニシアチブを通じて、森林整備による気候変動対策をサポートしています。日本における詳細な森林データのマッピングと共有の取り組みは、政府と企業、大学などにおいて、日本の森林全体の炭素吸収量を高めるために、より効果的な森林管理とデータに基づいた行動を促進することに役立つでしょう。こうした取り組みによって、日本が炭素排出削減という地球規模の課題に対し、リーダーシップを発揮することが期待されます。

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