関税のメカニズムとその効果とは
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米国の店頭に並ぶメキシコ産農産物。米国はメキシコ、カナダ、中国からの輸入品に対して大幅な関税を課す計画を立てています。 Image: Reuters/Annabelle Gordon
- 関税は、特定の経済的結果を導く手段として昔から利用されてきました。
- しかし、経済学者は、関税は自滅しかねない保護主義の象徴であり、グローバルな貿易を混乱させ、保護対象であるはずの人々向けの物価を上昇させるものと捉える傾向があります。
- ドナルド・トランプ大統領率いる米国の新政権は、カナダ、メキシコ、中国からの輸入品に対して広範囲にわたる関税を課すことを発表しています。
関税に対する警戒感は、昔の米国ポップカルチャーにも浸透していました。
1986年の映画『フェリスはある朝突然に』の中で、教師はやる気のない高校生たちに、約40年前に可決された米国の関税法案が有益だとして導入された背景を説明した後、「これはうまくいっただろうか」と問いかけました。
しばらくの沈黙の後、教師は自ら答えて言いました。「うまくいかなかった。そして、米国は大恐慌にさらに深く沈み込んだのだ」。
この映画は、第二次世界大戦後の時代を謳歌していたベビーブーム世代によって作られました。秩序あるグローバルな貿易がもたらす物質的な恩恵が確かなものであった時代です。関税は、その理想像にそぐわないものでした。
平均的な米国の関税率は、映画で言及された悪評高い法律が制定された数年後である1934年の18.4%から、2007年には2%を大きく下回るまで引き下げられています。
時代は明らかに変化しました。米国は、不法移民や麻薬の流入を食い止めることを目的として、カナダ、メキシコ(30日間の猶予期間あり)、そして中国からの輸入品に対して大幅な新関税を課す計画を発表しています。。
歴史的に見ると、外国からの輸入品への課税は、国内市場を安価な商品から守り、同時に地元の製造業と労働力を育成しようとする政治指導者たちにとって魅力的でした。
しかし、専門家は、それは消耗戦に陥りやすいと指摘しています。他の国々の報復措置により、そのコストが消費者に転嫁されることになるからです。その結果、インフレが進み、経済学者が敏感に反応する事態となる可能性があります。
関税は通常、次のような仕組みで機能します。
例えば、ある国が「エレホン」という架空の場所から輸入される羊を、関税の標的に決定したとします。その国で事業を展開する企業は、羊をエレホンから輸入することはできますが、羊1頭につき、自国の政府に指定された税率の関税を支払う必要があります。理論的には、エレホン産の羊は自国産の羊よりも高価になり、魅力が薄れるでしょう。しかし、現実的には、比較的安価だった自国産の羊に対する需要が増加することで、全体的な価格が上昇します。
そして、エレホンが最終的に報復措置として独自の関税を課した場合、事態はさらに複雑になるのです。
グローバル経済の動きに注意深く目を向けている人々にとって、過剰な関税は分断化のリスクをはらんでいます。それは貿易の減少につながり、最終的には全員にとって具体的な利益が少なくなる結果をもたらすのです。
関税が有効な場合とは
しかし、グローバル貿易が最盛期を迎えていた時代でさえ、関税は避けられないものでした。2008年に、グローバルGDPに占める商品輸出の割合が金融危機前に25%とピークに達した米国は、自国のコンピューターモニターとプリンターに対して14%という高率の関税を課した欧州に対して苦情を申し立てました。
2020年にトランプ氏の後任として大統領に就任したジョー・バイデン氏は、前任者が就任当初に課した関税の多くを維持。バイデン氏が電気自動車とソーラーパネルに課した関税は、米国のグリーンテクノロジーへの取り組みを促進する妥当な手段であると見る向きもありました。
関税が比較的賢明かつ慎重に適用される場合は、それほど注目を集めることはありません。
しかし、世界経済フォーラムの『チーフエコノミスト・アウトルック』最新版で警告されているように、「貿易戦争の力学」に拍車をかけるような関税の適用は、グローバル貿易全体に広範な悪影響が及ぶ懸念を生み出し、貿易がもたらす利益にも影響する可能性があります。
トランプ大統領の1期目、高額の制裁関税を適用したことで、中国との貿易摩擦はエスカレート。米国への輸入品にかけられる平均関税率は、2017年の1.7%から2019年には13.8%に急上昇しました。
2020年には両国間で貿易協定が締結され、米国ではこれを勝利とみなしましたが、実際の経済的利益については疑問視されています。ある分析によると、この期間に中国製品の関税で得られた収益の大半は、貿易戦争と、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの両方による影響で苦しむ米国農家の支援に充てられました。
現在、米国の伝統的な貿易相手国にも目が向けられています。カナダとメキシコからの輸入品に新たに25%の関税を課す前に30日間の猶予期間を設けることで合意したにもかかわらず、ホワイトハウスは実施の意向を示しています。
米国はカナダの輸出品の77%を受け入れる主要な貿易相手国であり、米国以外で5%を超える国は存在しません。これを受けて、カナダは報復関税として25%を幅広い品目の米国製品に課すことを発表しました。メキシコも報復を約束しています。
一方、中国は自国製品に課された+10%の関税に対抗措置を講じる方針です。
この関税の急騰は多くの専門家を驚かせました。しかし、本来は驚くべきことではなかったのかもしれません。
映画『フェリスはある朝突然に』が公開されてからわずか数年後、あるニューヨークの裕福な不動産開発業者が、好景気にあった日本のライバル入札企業に競り負けた後、関税の価値について自身の考えを公に述べました。
「私は関税を強く支持している」。これが当時、ドナルド・トランプ氏が述べた言葉です。同氏は当時、日本製品には20%もの高い関税を課すべきだとも示唆しました。