最高「調達」責任者が主導する持続可能性
グリーン調達は、持続可能性に向けた取り組みにおける重要な要素です。 Image: Christopher Vasquez.
- サステナブルな調達は、気候変動目標の達成に欠かせないものとなっており、最高調達責任者(CPO)は変化を推進する上で最適な立場にあります。
- 世界経済フォーラムによる最近の会合やインタビューシリーズで、調達の役割が議論されています。
- 調達の役割を高め、幅広い協力を実現し、長期的な成果を築くために、多角的なアプローチがどのように必要とされているかを検討します。
国連気候変動枠組条約締約国会議(COP29)および生物多様性条約締約国会議(COP16)における主要な国際交渉が一段落し、企業が気候と環境を守るためのより環境に配慮した生産と消費モデルを推進する革新的なソリューションの実施を主導する必要性がこれまでになく明確になりました。調達部門は、事業とサプライチェーンの両方にまたがる立場にあるため、この使命において重要な役割を果たします。
つまり、最高調達責任者(CPO)の役割は、従来の「より良いものを、より安く、より早く」という職務内容から大きく広がっているのです。かつては理想論のように感じられたグリーン調達は、今や地球規模の気候および環境目標を達成するための重要な手段となっています。今日のCPOは、グリーンかつレジリエンスの高いサプライチェーンを構築し、よりサステナブルな未来を確保するために必要な、構造的変革を推進しなければなりません。
しかし、これらの変化は何を意味するのでしょうか。また、CPO自身は、持続可能性を組織やサプライチェーンに浸透させる調達の役割をどのように捉えているのでしょうか。これは、世界経済フォーラムが非営利企業サステナブル・プロキュアメント・プレッジ(SPP)の協力を得て開催した「Procure Innovation Dialogues 2024(調達イノベーション対話2024)」や、A.T.カーニーの協力を得て実施した一連の個別インタビューの焦点となったテーマです。
これらの議論から、CPOがグリーン調達の実現に必要な多面的リーダーシップを発揮するために採用すべき主要戦略が明らかになりました。それは、持続可能性を確保する堅固なビジネスケースを構築し、「高く」「幅広く」「長く」展開して、移行時における調達の役割を高めることです。
1. ビジネスケースの構築
持続可能性はしばしば倫理的な要請として扱われますが、野心的な取り組みから具体的な実行へと焦点を移すには、まず実現可能なビジネスケースの構築が必要です。今回インタビューを行ったCPOたちは、グリーン調達が財務実績を向上させることができると明言。レジリエンスの高い業務体制を構築し、サプライチェーンを最適化し、資源効率を改善することで、グリーン転換への取り組みが収益性を損なう必要はないばかりか、長期的な安定性と成長を向上させることさえできることを証明しつつあります。
「Procure Innovation Dialogues 2024(調達イノベーション対話2024)」に参加した企業は、持続可能性目標と事業目標のバランスを考慮した上で決定を行うという、調達部門と財務部門の強力なパートナーシップの重要性を強調しました。これにより、企業はコスト効率と長期的な持続可能性というトレードオフについて、十分な情報を得た上でバランスを取ることが可能になります。また、ビジネスケースの成功は持続可能な製品にかかっていると強調する企業もありました。リサイクル可能な風力タービンブレードやクリーンエア断熱技術のような、より環境に配慮した代替製品を開発することで、持続可能性を価値提案やサプライチェーンに直接組み込むことができます。
また、サステナブルな調達イニシアチブを通じて実現した大幅なコスト削減の事例としては、エネルギー消費量の削減、ロジスティクスネットワークの合理化、廃棄物管理の改善などが挙げられます。財務目標と持続可能性目標を整合させることで、CPOは収益性と企業責任が共存できることを示し、持続可能性を推進する調達の戦略的価値を強化します。
化学製品メーカーであるヘンケルのバートランド・コンケレ氏は、次のように述べています。「調達部門は、持続可能性をバリューチェーンの上流部分に位置付けることを目的として、積極的にリーダーシップを発揮しています。このようなことを行っているのは当社だけです」。
2. 調達部門を経営の一角に引き上げるという「高い」目標
調達部門がリーダーシップを発揮できるようにするには、企業としての優先事項とし、経営幹部が率先して取り組み、取締役会の議題の中心に据える必要があります。経営幹部の支持がなければ、持続可能性の取り組みは軌道に乗ることはおろか、事業計画に組み込むことすら困難であり、CPOはそうした取り組みを推進する推進者となりつつあります。
バイエルのCPOであるトーマス・ユデセン氏は次のように指摘しています。「多くの取締役会、多くのCEOが(中略)調達が優先事項であるという理解を示しています」。
しかし、調達部門が優先的に持続可能性の確保を推進するためには、単なるコンプライアンスを超えて、レジリエンス、リスクの軽減、ブランドへの影響を強調するなど、データに基づく論拠と価値を明確に説明できる能力も必要です。複数のCPOから、サステナブルな調達を推進するために、データと指標をどのように活用しているかを聞きました。例えば、サーモフィッシャーサイエンティフィックでは、持続可能性を顧客の期待と一致させることで、社内での支持を確保しています。
同社のグローバル調達担当副社長兼CPOであるクレイグ・リード氏は、次のように述べています。「当社は顧客志向の企業です。顧客の期待に応えるために取っている行動が、経営陣の取り組みにも影響を与えています」。
3. 組織全体にわたって調達の影響力を拡大する「幅広い」取り組み
消費財メーカー、コルゲート・パルモリーブのローレン・リチャードソン氏は次のように述べています。「他の部門から学ぶ唯一の方法は、人とつながることです。自分がどのように何かを行ったかを相手に伝え、相手がそれに従うことを期待するということではありません。相手の仕事の仕方や成功の要因を理解し、協力して自分の能力を相手の能力に統合する方法を見つけることです」。
CPOとそのチームが、企業のサステナビリティ戦略の実施において最高サステナビリティ責任者(CSO)と並んで中心的な役割を果たすためには、調達部門が従来の権限を超えて影響力を拡大する必要があります。つまり、製品設計、マーケティング、人事などの他の部門と緊密に連携しなければなりません。グリーン調達は、1つの部門だけで取り組むものではないからです。したがって、組織全体とサプライチェーンを巻き込んだ協調的なアプローチが必要です。サーモ・フィッシャー・サイエンティフィックでは、プロジェクト管理オフィス体制を通じて、サステナビリティチームと規制チームが調達部門に組み込まれ、方針変更がすべての事業分野で確実に反映されるようにしています。
また、透明性も重要な要素です。持続可能性指標を他の部門やサプライヤーと共有することで、組織的な障壁や縦割り構造を打破し、全員が共通の目標に向かって取り組む文化を育むことができるでしょう。
シーメンスガメサのCPOであるオリバー・ビショフ氏は、次のように述べています。「持続可能性を主流にするためには、サプライヤーを巻き込むことが不可欠です。私たちは、単にイノベーションを起こすだけでなく、そのイノベーションを産業化し、緊密に協力してサプライチェーン全体にわたってサステナブルな慣行を新たな標準とする必要があります」。
4. 「長い」目で見た次世代リーダーのためのレガシー構築
真にサステナブルな未来を築くということは、目先の利益にとらわれず、長期的なインパクトを確実にもたらすよう思考することです。そのため、CPOには、レジリエンス、創造性、そして構造的な変革を優先する企業文化を創り出し、後継者が持続可能性の課題に対処する際に指針となる価値観を浸透させることで、将来のリーダーの基盤を築く責任もあります。
クレイグ・リード氏は次のように述べています。「持続可能性、規制面、社会面など、あらゆる面でしっかりとした基盤を残すことができれば、私の役割は果たせたと言えるでしょう」。
トーマス・ユデセン氏も同意見で、「現職のCPOが残せる、そして残すべき遺産は、最初の基礎となる一歩を踏み出すこと、つまり、コラボレーション、イノベーション、サステナビリティが意思決定の自然な一部となるような企業文化を創り出すことです」と述べています。
進化へ向かう道のりは共同作業
CPOとの対話から、彼らの役割はすでに持続可能性に関する組織的リーダーシップを担うまでに拡大していることが明らかになりました。これは、これまで誰も歩んだことのない道であり、今日の調達リーダーたちは、新たな領域を開拓しているのです。企業内およびサプライチェーン全体でのコラボレーションが、この移行を成功させる鍵となることはすでに分かっています。しかし、CPOが新たなアプローチ、スキル、能力を開発するにつれ、経験やベストプラクティス、競争が始まる前の段階で得られた洞察の共有も同様に重要となっていきます。
ある参加者は次のように指摘しました。「小さな成功体験が、より大きな成功への意欲を生み出すでしょう」。CPOは今後も一堂に会して互いに学び合い、その影響力を結集して業界や地域を超えた持続可能性を追求していくべきです。持続可能性のビジネスケースに焦点を当て、高い目標を掲げ、幅広い取り組みを長期的に継続することで、調達部門は長期的かつ構造的な変革をもたらす強大な推進力となることができるでしょう。