アーバントランスフォメーション

サステナブルな物流に向けた、都市と企業の連携とは

出版 · 最新情報

配送需要が交通渋滞と駐車スペース不足の一因となっています。 Image: Pexels.

Michael Fröbel
Cities, Transport and Infrastructure Industry, Lead (EMEA), Accenture
Prince Arora
Post and Parcel Industry Research Lead, Accenture
  • 世界中の都市で配送量が急増しており、消費者の期待の変化、電子商取引の増加、新たな配送基準による需要増がその要因となっています。
  • 電子商取引のメリットにもかかわらず、都市は結果としてより深刻な交通渋滞と二酸化炭素排出量という課題に直面しています。アクセンチュアとの新しい調査では、現状維持を続けることの主なリスクがいくつか指摘されています。
  • 世界経済フォーラムの「グローバル・ニュー・モビリティ・コアリション」は、大企業と都市を結び付け、持続可能な配送ソリューションを見出し、エコシステム全体にわたって意識を高めることを目指しています。

電子商取引の急速な成長が、都市の景観を変化させています。顧客の需要の高まりと、翌日配達や当日配送といった迅速な配達時間に対する期待が相まって、近年、電子商取引の状況は大きく変化。グローバルな電子商取引小売は2023年から39%増加し、2027年までに8兆ドルを超えると予測されており、都市は自宅までの配送を担うラストワンマイルの配達増加による影響に直面しています。影響は都市の渋滞から二酸化炭素排出、生活の質まで、様々です。世界経済フォーラムがアクセンチュアの協力を得て実施した新たな調査では、現在の傾向と課題を踏まえ、配送セクターが都市に与える影響を精査。特に、配送に関する課題への対処のために展開可能なソリューションに重点を置いています。本寄稿文では、その調査結果の概要を示します。

配達車両はグローバルに増加傾向

電子商取引の増加により、路上の配達車両は大幅に増加しており、2030年までにラストワンマイルを担当する配達車両が世界全体で61%増加する可能性があります。消費者の行動変化、テクノロジーの進歩、そして新型コロナウイルスのパンデミックに後押しされたこの急増により、都市部の交通渋滞は深刻化。配達車両は、交通渋滞と駐車スペース不足の主な要因となっています。例えば、アイルランドのダブリンにおける渋滞率は2018年の45%から2023年には66%に上昇し、イタリアのミラノでは30%から45%に上昇。インドのベンガルールのような急速に発展する都市では、配達車両による渋滞が原因となって、2030年までに一般的な10kmの通勤に7分余計にかかるようになるだろうと予測されています。

気候と健康への影響

配達車両の増加は、交通渋滞を悪化させると同時に、二酸化炭素排出量の増加を通じた気候変動の一因にもなっています。現在の傾向から、配達車両の排出量は2030年までに60%増加し、輸送部門の排出量の54%、典型的な都市の全体的な排出量の13%を占めることが予想されます。これは都市の大気質と公衆衛生に悪影響を及ぼし、寿命を縮め、医療費を増加させる可能性すらあるのです。

配送需要が引き起こすインフラの課題

都市では、電気自動車の充電インフラや宅配ロッカーなどのソリューションに利用できる土地が限られていることもあり、急増する電子商取引への対応に苦慮しています。配送車両の駐車や道路使用に関する強固なガイドラインが欠如していることも、安全性や渋滞を悪化させ、二重駐車および自転車レーンや歩道の妨害につながっています。実際、最近の調査では、米国ワシントン州シアトルの中心街を走る商用車で、運転時間の28%が駐車スペース探しに費やされていることが分かりました。都市計画でこれらの課題に効果的に対応するには、物流に対する明示的な対処が必要です。

この課題への官民の取り組み

電子商取引の成長による悪影響を緩和するために、都市は戦略的計画において商用車の利用を優先する必要があります。これには、サステナブルな交通インフラの開発、配送車両の規制の強化、代替配送方法の促進などが含まれるでしょう。オンライン取引の23%で配送が遅いために購入に至らないことを踏まえると、消費者が、長い配送時間を許容する持続可能な配送オプションを選択することが重要になります。なぜなら、小売業者はより迅速な配送に対する需要と、コスト効率および持続可能性とのバランスを取らなければならないからです。

インカ・グループ:サプライチェーンの協力とイノベーション

インカ・グループ(グローバル家具製造のイケアが展開する国々のうち、31カ国において同社の最大の小売業者)は、ほとんどの配送が外部パートナーによって行われるという複雑な体制にもかかわらず、ゼロエミッションの宅配をリードしています。同グループはサプライチェーンと協力し、小売業務から排出される二酸化炭素を削減。また、車両メーカーと協力し、目的別車両の開発に努めると同時に、さまざまなビジネスモデルを構築しています。これらのビジネスモデルは、自社の車両を迅速に近代化する資本を持たない配送パートナーも利用可能な、ゼロエミッション車両の実現を目指しており、サステナブルな配送に向けた同グループのさまざまな取り組みにおける一例を示しています。

日立:配送センターの電化戦略

日立ゼロカーボンは、事業者と提携して、従来の車両基地を効率的な分散型エネルギーハブへと転換する脱炭素化戦略を開発することにより、EV充電の革命を起こしています。英国グラスゴーのファーストグループにおけるバス車両基地の事例は、その一例です。このようなハブでは、データとAIを活用して充電スケジュールを最適化し、地域のエネルギー送電網への負担を軽減することにより、送電網のアップグレードコストを大幅に削減することができます。エネルギーを効率的に生成、貯蔵する基地は、ラストマイル配達サービスの提供者を含む他の事業者に予備の電力を提供して、新たな収益源を生み出すこともできます。

「前途には大きな課題が待ち受けており、変革には複雑なエコシステムが大きな役割を果たすでしょう」

日立ゼロカーボンCEO、ラム・ラマチャンダー氏

ピッツバーグ:よりスマートなカーブサイドマネジメント

2022年以降、米国ペンシルベニア州ピッツバーグ市のモビリティ・インフラ局および駐車管理公社は、カーブサイドマネジメント(縁石側等道路空間の活用)の自動化を行う企業、オートモータスと提携し、「スマート・ローディング・ゾーン」プロジェクトを実施。デジタルカメラとコンピュータービジョンを使用したこの取り組みにより、積み下ろしゾーンの回転率は40%増加し、平均滞在時間は23%減少しました。また、車両の旋回やアイドリングによる二酸化炭素換算排出量(CO2e)を年間12トン削減し、二重駐車を40%減少させることによって、交通の流れを改善し、自転車や歩行者の安全性を高めました。

デトロイト:「イノベーション・ゾーン」による都市変革の加速

米国ミシガン州デトロイト市は、革新的なプロジェクトのための一時的な許可制度を設けた指定区域「トランスポート・イノベーション・ゾーン」を展開しています。従来の計画プロセスが遅々として進まなかったのに対し、このアプローチにより革新的なプロジェクトの迅速な実験が可能になりました。規制の枠組みによって、実験を安全で包摂的に行い、迅速な学習と拡張可能なソリューションを生み出すことができます。また、同市は、業界に対する市民の肯定的な認識を醸成して、都市計画に革新的なロジスティクスを統合するモデル都市となることを目指しています。

「私たちは都市ロジスティクスにおいて協議を重視しています。市民の関与は私たちのアイデア推進に役立ち、企業と協力することにより、次に起こることを把握することができます。コンプライアンスと包括的なフィードバックの基盤構築により、新しいテクノロジーの試験運用の規模拡大、適応、反復をより速く行うことができるでしょう」

デトロイト市モビリティ・イノベーション局イノベーション部門長、ヴィンセント・キーナン氏

都市配送のイノベーションをリードしている都市は他にも数多くあります。オランダ、ロッテルダムの地方自治体は、企業の提言に基づき、物流のゼロエミッション・ゾーンを導入。中国の深センでは、物流車両の26%が電気自動車となっており、電気自動車の普及と充電ポイントの拡大が計画されています。

今後の方向性

都市の配送の未来は岐路に立たされています。電子商取引が成長するにつれ、都市はそのインパクトに適応しなければなりません。都市に革新的なソリューションを取り入れ、持続可能性を優先することにより、住みやすく、ビジネスを行うのに最適な場所にすることができます。都市部における小規模配送拠点、電動化、カーブサイドマネジメント、荷物受け渡し(PUDO: Pick-Up and Drop-Off)ネットワークに関するコラボレーションによって、配送によるインパクトが緩和される可能性があると同時に、都市が、このエコシステムを実現するための重要な役割を担っているのです。

同フォーラムの「グローバル・ニュー・モビリティ・コアリション」は、アクセンチュアの協力を得て、官民連携による業界の課題への取り組みを支援。サステナブルな配送に関する現在のトレンド、課題、ソリューションに関する洞察をまとめた新しい調査レポートが今後数カ月のうちに発表される予定です。このレポートでは、都市配送における変化の機会を紹介し、パブリックセクターと企業のリーダーたちがどのような行動を取ることができるかを強調しています。今後の発表にご注目ください。

協力者:アクセンチュア、キャピタル・プロジェクト&インフラストラクチャ・サステナビリティ・リード(英国、アイルランド、アフリカ)、ヴィクトワール・リスガラ

Loading...
関連記事を読む
関連トピック:
アーバントランスフォメーションよりよい企業
シェアする:
コンテンツ
配達車両はグローバルに増加傾向気候と健康への影響配送需要が引き起こすインフラの課題この課題への官民の取り組みインカ・グループ:サプライチェーンの協力とイノベーション日立:配送センターの電化戦略ピッツバーグ:よりスマートなカーブサイドマネジメントデトロイト:「イノベーション・ゾーン」による都市変革の加速今後の方向性

世界経済フォーラムについて

エンゲージメント

  • サインイン
  • パートナー(組織)について
  • 参加する(個人、組織)
  • プレスリリース登録
  • ニュースレター購読
  • 連絡先 (英語のみ)

リンク

言語

プライバシーポリシーと利用規約

サイトマップ

© 2024 世界経済フォーラム