インテリジェント時代における、インドの役割
インドは、経済成長の軌跡において重要な局面を迎え、成長を加速させる技術的転換の大きな節目にあります。 Image: REUTERS/Hemanshi Kamani
- インドは、経済成長の軌道において重要な局面を迎えています。
- 同国は、AI、IoT、5Gなどの新たなテクノロジーを活用することにより、経済をアップグレードする絶好の機会を得ています。
- 同国の若く、教育を受け、意欲的な人口が、インテリジェント時代における同国の進歩を推進するでしょう。
世界は、経済、社会、環境システムに広範囲にわたる影響を及ぼす、重大な変革の途上にあります。インテリジェント時代と呼ばれるこの新しい時代は、AI、ロボット工学、バイオテクノロジー、量子コンピューティング、デジタル・インフラにおける前例のない進歩によって推し進められています。
農業社会から工業社会への移行がグローバルな様相を一変させたように、インテリジェント時代は私たちの暮らし方、働き方、そして私たちを取り囲む世界との関わり方を再定義することになるでしょう。
この革命を活かし、差し迫った課題に対処し、その素晴らしい機会を捉えるには、すべてのステークホルダーの協力と取り組みが必要です。世界経済フォーラムは、地球とすべての人々に利益をもたらすことを確実にするため、政策の枠組み、試験運用、テクノロジーの規制と導入に関する新たなアプローチを開発するために、官民連携を推進しています。
インテリジェント時代におけるインド
インドは、経済成長の軌道において重要な局面を迎えています。政策の安定性、経済改革の深化、堅調な国内消費、有利な人口ボーナスが相まって、インドはGDP約4兆ドルを有する世界第5位の経済大国となりました。
グローバルな不確実性や混乱の中にあっても、インドは7~8%の安定した成長を維持しており、依然として世界で最も急速に成長する主要経済国であり、世界に明るさをもたらしています。インフラ開発と製造業に重点的に取り組むことで、インドは主要なグローバルプレーヤーとしての地位を確立しました。膨大な人材プール、イノベーションを生み出す天賦の才、デジタルトランスフォーメーションを強力に推進する政府の取り組みにより、インドは新しい時代をリードする独自の機会を得ています。デジタル公共インフラ(DPI)に関するインドの急速な進歩は目覚ましく、デジタルイノベーションにおけるインドのリーダーシップを示し、適応可能なモデルを世界に提供しています。インテリジェント時代における成長を維持するには、インドは次世代インフラに多額の投資を行う必要があるでしょう。
「ナショナル・クォンタム・ミッション」や「インド半導体ミッション」のような取り組みは、正しい方向への一歩です。インドは、低コスト製造のグローバルハブから、高品質な生産とイノベーションのリーダーへと、力を入れるべき点を移行する必要があります。「メイク・イン・インディア」の取り組みは、AI、ロボット工学、データアナリティクスが工場を駆動する「メイク・スマート・イン・インディア」へと進化しなければなりません。
インドのテクノロジー・サプライチェーンの優位性
AI、IoT、5Gなどの新技術がますます普及するにつれ、半導体の需要は急増すると予想されるため、半導体産業は、インテリジェント時代におけるインドの成功を決定づける重要な要素になり得ます。インドは、グローバルな半導体大手企業の誘致と、国内でグローバルに競争力のある企業の育成を同時に進める必要があります。的を絞った投資、人材育成、強力な国際協力により、インドはグローバルな半導体市場における地位を強化し、拡大することができます。
インドには、他の多くの国にはないもう一つのユニークな戦略的優位性があります。それは、膨大な人口が日々膨大な量のデータを生成しており、そのデータをイノベーションや前例のない経済的機会に活用できるという点です。また、インドはデータガバナンスのグローバルスタンダードの設定において主導的な役割を果たし、データ倫理やガバナンスに関するグローバルな議論における思想的なリーダー、そして公平な利益共有の擁護者としての地位を確立することができるでしょう。個人データ保護法案の施行とデータガバナンスのための規制枠組みは、この方向への重要なステップです。インドの人口の半分以上が30歳未満であり、彼らは新しいデジタル技術の採用と適応に長けています。また、インドには110社以上のユニコーン企業と約13万社のスタートアップ企業の強固なエコシステムがあり、さまざまな分野でイノベーションを推進しています。このことから、起業の津波を解き放ち、イノベーションのグローバルハブとなることにより、インドはデジタル時代の膨大な可能性を手中に収めることができるでしょう。
インテリジェント時代への飛躍を実現するイネーブラー
先端テクノロジーを巡る競争が激化する中、インドはこれらの戦略的分野への投資を増やし、時代に取り残されることなく、飛躍の可能性を最大限に活かさなければなりません。インドの研究開発費はGDPの0.7%未満であり、これは世界平均の1.8%を大きく下回っています。したがって、半導体などの先進技術の研究開発に多額の投資を行う必要があります。また、専門教育プログラム、グローバルなテクノロジー企業との提携、STEM教育への投資を通じて人材開発を優先する必要があります。カリキュラムはAI、機械学習、データサイエンスを主要科目として取り入れるように進化させ、職業訓練プログラムはインテリジェント時代の仕事に必要なスキルを労働者に習得させるように調整しなければなりません。さらに、インフラ、ビジネスのしやすさ、優れたガバナンス施策などの促進要因に重点的に取り組むことにより、インドは10兆ドル規模の経済大国への道を歩み始め、首相の掲げる「先進国インド2047(Viksit Bharat 2047)」というビジョンを実現することができるでしょう。
テクノロジーは障壁ではなく架け橋
過去10年間、インド政府による幅広い開発と優れたガバナンスの推進に向けた強力な取り組みは、多面的な貧困の記録的なペースでの解消と、何十億もの人々への政策やサービスのラストワンマイルの提供に貢献してきました。インドのG20議長国としての任期はインクルーシブなアプローチによって特徴づけられ、主権、平等、相互尊重を維持するルールに基づく秩序に対するインドの献身を示しました。その最大の例は、アフリカ連合がG20の常任理事国として迎え入れられたという歴史的な成果です。
テクノロジーが障壁ではなく架け橋となる未来を提唱するインドの姿勢は、テクノロジーの進歩の可能性を活かし、産業、経済、社会を公平かつ人間中心の形で変革するという私たちのミッションと一致しています。
インドのモデルは、環境を損なうことなくテクノロジーを人類の進歩の共有を促す触媒として活用できる、世界に向けたひな型となるでしょう。世界経済フォーラムは、このビジョンの実現を支援し、インテリジェント時代における私たちの進歩と繁栄を推進するパートナーとして、インド政府を支援できることを誇りに思います。
もっと知る 深層地理学すべて見る
Naoko Tochibayashi and Mizuho Ota
2024年12月19日