インテリジェント・エコノミーの発展に向け、中東・北アフリカ地域が取るべき4つのステップ

中東・北アフリカ地域(MENA)は、紛争から経済的苦境、人道問題、深刻化する気候変動問題まで、さまざまな課題に直面しており、結束力の欠如がすべてを悪化させています。

中東・北アフリカ地域(MENA)は、紛争から経済的苦境、人道問題、深刻化する気候変動問題まで、さまざまな課題に直面しており、結束力の欠如がすべてを悪化させています。 Image: Unsplash/Ekrem Osmanoglu

Maroun Kairouz
Head of Middle and North Africa – Deputy Head, CRTG, World Economic Forum
  • インテリジェント・エコノミーでは、AI(人工知能)、5G、モノのインターネット(IoT)など、複数のインテリジェンス・システムが連携します。
  • こうしたインテリジェントエコノミーは、中東・北アフリカ地域が抱える喫緊の課題に対処する手段をもたらすでしょう。
  • 2024428日から29日まで開催された世界経済フォーラムの「開発に向けたグローバル・コラボレーション、成長、およびエネルギー」特別会合では、インテリジェント・エコノミーをはじめ様々な課題について議論が交わされました。

中東・北アフリカ地域(MENA)は、紛争から経済的苦境、人道問題、深刻化する気候変動問題まで、さまざまな課題に直面しており、結束力の欠如がすべてを悪化させています。サウジアラビアのリヤドで開催される、世界経済フォーラムの「開発に向けたグローバル・コラボレーション、およびエネルギー」特別会合が強調するように、こうした状況を乗り切るだけでなく、「インテリジェント・エコノミーの時代」とも呼べる新たな経済時代に備えなければなりません。インテリジェント・エコノミーの背景にある考え方は、AI(人工知能)、5G、モノのインターネット(IoT)などの複数のインテリジェンス・システムを連携させることであり、これにより大きな利益とイノベーションがもたらされる可能性があります。しかし現在、これらのテクノロジーはそれぞれ個別に発展しています。

AI、特に生成AIは、ChatGPTのようなアプリを通じて2023年に話題の最前線に躍り出た後にも注目を集めています。AIは、生産性と成長を大幅に向上させ、個人をエンパワーし、大きな社会的課題に対処するところまで進化するでしょう。しかし、MENAをはじめとした地域では、インテリジェント・エコノミーを形成するツールの利用が進んでおらず、統一性や首尾一貫した戦略に欠けています。それでも、地域の一部では、AIによる経済成長2030年までに3,200億ドルに達する可能性があるとされ、特にサウジアラビアは、3月に 400億ドルのAI投資ファンドを設立することを表明しました。

すでに、飲料水の供給が急速に減少している地域などで、AIを活用した特定の課題への対処が始まっています。水不足の深刻化は、よく知られた課題です。MENAにおける水需要は、2050年までに、現在の需要を年間250億立方メートル上回ると推測されています。これは、世界最大規模のサウジアラビアのラスアルカイル海水淡水化プラント65基分に相当します。現在、AIはプロセスのコスト効率とエネルギー効率を高めるために利用されていますが、やがてプロセスのさらなる最適化、環境への影響低減、潜在的なインフラの脆弱性検出に役立つと想定されています。

インテリジェント・エコノミー技術の実用化が進むにつれ、その利用や普及、発展や成長にばらつきが生じることが懸念されています。現状、MENAにおけるデジタルトランスフォーメーションの主役は湾岸諸国です。例えば、湾岸諸国では2022年以降、データセンターへの多額の投資が行われ、数億ドル規模の大規模プロジェクトが誕生しています。

テクノロジーを用いた公共サービスの近代化計画を発表している湾岸諸国では、ICTセクターの成長を促進するための施策や、5Gの導入支援、デジタルサービスへの市民のアクセス環境の強化、データとサイバーセキュリティに関する法制度の制定も進められています。しかし、こうした取り組みは貧しい国々には反映されていません。

ステップ1:強みを活かす

MENAにおいて、インテリジェント・エコノミーのメリットを最大限に活用するためには、4つの重要なシフトが必要です。第一は、強みを活かすこと。MEMAには、安価な電力、豊富な未利用の土地という大きな利点があります。供給エネルギーのグリーン化をより迅速に進めることで、この利点をさらに高め、より低コストでサステナブルなエネルギー市場を実現することができるでしょう。

政策の変更という点では、中国、欧州、米国など多様な国や経済圏との強い関係を強調することで、ある種の半導体などを「グリーンショア」と「フレンドショア」の両方の重要産業に提供できる好位置につくことができます。この移行を支援するためには、化石燃料への補助金の廃止が必要です。世界経済フォーラムの「Energy Transition Index 2023(エネルギー転換指数2023)」によれば、MENAはこの分野で前進してはいるものの、年間5,000億ドルから6,000億ドルの支出を続けています。

ステップ2:偏りなくインクルーシブに機能するAI

第二に、MENAは、AIを偏りなくインクルーシブに機能させることを支援するイニシアチブをより多く推進する必要があります。現在、大規模言語学習(LLM)モデルの上位コンテンツのうち、アラビア語はわずか0.7%です。2023年5月には、アブダビがそのAIモデルである「Falcon 40B」をオープンソース化し、7月には、アラビア語をサポートする初のLLMである「Jais」がリリース。今年3月には、サウジアラビアの開発者が同国のデータセットのみを使用して学習させたLLMである「Mulhem」をリリースしました。MENAは、技術的なノウハウと影響力の面で、AIの進化をさらに追求する理想的な立場にあります。

ステップ3:官民連携

インテリジェント・エコノミーをより広く促進する変化と同様に、官民連携の機も熟しています。これは、第三の重要なポイントであり、大きな思考の転換が必要です。現在進行中の変革は、パブリックセクターだけで対応するには大きすぎるため、企業が変革のパートナーとなり、新たなグローバルな舞台で強力な競争力を生み出す必要があるでしょう。この点で、マイクロソフトがアブダビのAIグループ「G42」に15億ドルを投資するという最近の発表は、正しい方向への一歩を示しています。

ステップ4:統合

第四の重要な分野は、統合です。MENAは、世界で最も統合が遅れている地域のひとつで、域内貿易はわずか18%にすぎません。ここでは規模が重要になります。その理由は、市場が大きければ大きいほど、投資家にとって魅力的な地域となるからです。地域が一体となり取り組みを進めることで、ニーズに合った技術開発が進む可能性が高まるでしょう。石油資源の豊富な国々には、この種の政策を開発する資本と人材があります。しかし、これを地域全体に拡大する必要があるのです。

統合を通じてモロッコやチュニジアのような国々で芽吹いた進歩を支援し、地域全体に利益をより均等に広げることができます。近頃、人工知能国際センターを設立したモロッコは、同国を地域のAIハブにすることを目指しています。チュニジアのAIとハイテク部門は目覚ましい発展を遂げており、ドイツに本社を置くビオンテックは、AI企業のインスタディープを5億5,000万ドルで買収しました。

MENAが抱える喫緊の課題に対処する上で、インテリジェント・エコノミーに可能性があることは明らかです。この可能性は、テクノロジーがホリスティック(全体論的)に開発され、地域が協力し合えば実現につながるでしょう。そうでない場合、既存の課題はより深刻化し、広範な発展を妨げる恐れがあります。こうした点で、今回の会合はこれまで以上に重要な意味を持ちます。本会合は、テクノロジーの最前線における最も差し迫った課題に対する、コラボレーションと対話の機会となるでしょう。

本稿は、ザ・ナショナルの記事の和訳を転載したものです。

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