再生可能な経済に向けて〜世代を超えた意思決定の重要性〜
世代を超えたリーダーシップはビジネスと社会に活力を与えます Image: Photo by LinkedIn Sales Solutions on Unsplash
• 企業や政策機関にとって目前の危機と長期的な課題に対し、同時に対応できる能力を高めることが重要な課題となっています。
• そのためには、これまでとは違う世代間の視点や意見を戦略的な方針の設定や意思決定に盛り込む必要があります。
• システミックな変革が緊急に求められる現在、世代を超えて力を合わせることが、再生可能な未来に向けた企業戦略や公共政策を再構築するための強力な後押しとなります。
世界経済フォーラムのグローバル・リスク報告書2024年版は、私たちがさまざまな危機が重なり合う時代に生きていることを強調しています。特に重要なリスクとして上げられたのは、極端な気象現象、AIによる誤報、社会の二極化。
同時に、本報告書は、10年後に起こる最も深刻なリスクにも目をむけ、長期的な時間軸(タイムスケール)で予測・行動するべきだと強調しています。ここで取り上げられているのが、地球システムの危機的変化、生物多様性の喪失、生態系の崩壊、天然資源の不足など、環境面での脅威です。
このことから、長期的に人と地球に貢献する再生可能な経済へ移行しながら、目前の危機にうまく対処することが企業や政策機関全体の重要な課題となっています。持続可能な開発目標(SDGs)に掲げられた志とその実施状況との間にあるギャップは、その両方の視点を結びつけることがいかに難しいかを示しています。意味のある組織的な変化への懸念より、目先の課題やニーズが優先されることがあまりにも多いのです。
現在の指導体制は若い世代を排除
技術革新だけでは、「短期」と「長期」のバランスを取り戻すことはできません。組織や制度における信念、メンタル・モデル、人間関係の変化も必要とされています。
この転換において重要なのは、戦略的な方針の設定と意思決定にさまざまな世代間の視点と意見が含まれること。若い世代にとって、自分たちの未来を脅かす環境危機は重要な問題です。しかし、今後の方針を左右する政策や事業戦略の決議に関わる機会はほぼありません。
フォーチュン500社やS&P500社のCEOの平均採用年齢は、過去10年間で51歳から55歳へと大幅に上がり、役員の平均年齢は63歳となっています。国際議会連合の2023年の報告書によると、世界の国会議員のうち30歳以下はわずか2.8%。40歳以下は18.8%に過ぎません。世界で最も若い大陸であるアフリカでは、全人口の年齢の中央値が19.7歳である一方、政治指導者では62歳です。
Nuremberg Institute for Market Decisions(ニュルンベルク市場意思決定研究所)とザンクトガレン・シンポジウムが35歳以下の新進の政策立案者、起業家、研究者を対象に実施した世界的な調査である2024 Voices of the Leaders of Tomorrow Report (2024年 明日のリーダーたちの声報告書)には、若きリーダーたちが責任を引き継ぐ意欲と、上の世代が責任を引き渡す意欲との間には大きな隔たりが示されていますが、これも驚くに値しません。
世代間リーダーシップの可能性:変化への3つの道すじ
「 New Generational Contract(新世代契約)」は、インテントの支援を受けるザンクトガレン・シンポジウムとローマクラブの共同イニシアチブです。その目標は、このギャップを埋めること。私たちは、若い世代がこれまで以上にリーダーシップを取ることが、倫理的かつ戦略的な責務であり、さまざまなタイムスケールの視点によるバランスを取り戻し、再生戦略への移行を促すと確信しています。その理由をわかりやすく示してくれるのが、以下に示す3つの重要な方針に関する新たな証拠です。
第一に、過去と未来の環境が似ていると予想される場合、主に経験を元にリーダーを選ぶ現在のアプローチは道理にかなっていると言えます。しかし、変動の激しい現代において、経験はすぐに時代遅れとなり、過去の成功を支えてきた前提やパラダイムに囚われてしまう危険性があります。若い世代を積極的に巻き込むことで、こうした過去の成功による罠から抜け出し、現状を変えることに対する嫌悪感を克服できるのです。
例えば、リーダーシップ・チームは年齢が多様なほど、持続可能なビジネスモデル・イノベーションを実現するのに最適な能力を備えているとある研究調査は報告しています。なぜなら、過去の経験による深化型学習と、リスクが高い可能性がある、新しいアイデアに向けた探索的学習を組み合わせることで、これまでの知恵と先見の明を両方活かすことができるからです。
第二に、若い世代が世界レベルで変革へのコミットメントを高めた顕著な成功例である、近年の若者主導の気候変動運動。同様のことを、組織や制度レベルで起こすことが可能です。多くの知見から、企業の取締役会における年齢の多様性が、その企業の社会的責任やESGに対する意識の向上や成果につながっていることが明らかになっており、『ネイチャー』誌の最近の研究では、若い国会議員の方が、有意義な環境活動や長期的展望を国会の議題にする可能性が高いという結果が出ています。
3つ目は「信頼」に関わる部分です。持続可能なコレクティブアクション(協働)には、主要なステークホルダーからの信頼が不可欠です。残念なことに、エデルマン・トラスト・バロメーターが示すように、国民はこれまでほど企業や公的機関が効果的に気候変動に取り組んでいると信じておらず、特に若者の間でこの傾向が顕著になっています。ここでもまた、組織や政策機関が制度的信頼に対して高まる危機に対処し、再生可能な経済へ移行するためには、世代間のリーダーシップを高めることが非常に重要なのです
再生可能な未来へ共に進む
世代を超えたリーダーシップは、現時点では行動を起こせるほど明確に定義されていません。これには、大胆な実験が必要です。政治レベルでは、青年議会や若者の青少年諮問委員会を設置している政府や国際機関がいくつかありますが、最近の国連ポリシーブリーフにあるように、残念ながらこうした既存の仕組みでは「意思決定に影響を与えるのに苦労している」のです。
近年では、シャドーボード(影の取締役会)やリバースメンタリングなどのイニシアチブを実験的に導入する企業も増えていす。一方で、こうした構造には、シニア・リーダーシップ・チームや取締役会から切り離され、中身が空っぽになる危険性があると同時に、企業環境の責任や影響に関する疑問が提起されることはほとんどありません。
今こそ、単なる「協議」から真の共同リーダーシップへと移行する時です。9月22日から23日にニューヨークで開催される国連未来サミットは、その重要なきっかけとなる可能性があります。本サミットでは、「Youth and Future Generations(若者と未来の世代)」を含む「Pact for the Future(未来のための協定)」が可決され、若い世代の国および国家間レベルにおける有意義な関与の改善を目指しています。システミックな変革が速急に必要とされる現在、世代を超えた協力は、再生可能な未来に向けた企業戦略や公共政策を再構築するための強大な力となるのです。