記録的な観光年~ツーリズムをインクルーシブかつサステナブルに~
インクルーシブかつサステナブルな旅行・観光には、零細・中小企業の支援も含まれます。 Image: Unsplash/Michael Barón
- 旅行セクターはグローバルに力強い回復を遂げており、旅行における支出額は増加しています。
- 全体的に見通しは明るい一方、観光客数の増加や環境への懸念といった課題もあり、また人手不足や資源管理など、運営上の課題に苦慮している観光地もあります。
- 旅行・観光セクターには社会経済の繁栄を促進する底力があり、零細・中小企業を支援することを通じて特に大きなインパクトをもたらします。
グローバルな旅行セクターに晴天の予報が出ました。2024年3月までの旅行に対する個人消費は引き続き堅調で、旅客輸送量が急増。グローバルな労働市場の好調に後押しを受けて、観光客が再び道路、空、海にあふれ、旅行予算はさらに増大するでしょう。
マスターカード経済研究所による最新レポート「Travel Trends 2024:Breaking Boundaries(2024年版トラベルトレンド:境界を打ち破る)」では、レジャー旅行の個人消費が好調を維持する中、2024年にはすでに複数の日で記録が更新されたことが明らかにされています。データによると、パンデミック後の旅行者は、引き続き地元の文化に根ざしたユニークな体験を求める一方で、スポーツ、音楽、祭りなど、思い出に残るイベントへの支出を優先する傾向が強まっています。
同研究所の分析によると、旅行者の滞在期間も延びており、レジャーをより長く楽しむことが優先されています。2019年3月から2020年2月までの12カ月間では、旅行者の平均滞在日数は約4日間でした。2024年3月時点ではレジャーを目的とした旅行者の平均滞在日数は5日に近くなっており、受け入れる観光地や地域社会の経済活性化につながっています。
ツーリズムに関する課題への取り組み
しかし、全体的な見通しは明るいとはいえ、人気の観光地や、あまり知られていない地域の中には、経営状況をめぐる課題の増大に直面しているところもあります。世界経済フォーラムの「旅行・観光開発指数(Travel & Tourism Development Index 2024、TTDI)」は、世界の旅行・観光セクターが直面する継続的な制約を浮き彫りにしています。この制約には、熟練した人材や回復力のある人材への投資不足、観光客数の増加や環境への懸念の高まりに取り組む観光地の文化的・自然的資源管理をめぐる課題などが含まれます。
同レポートでは、旅行・観光産業の意思決定者に対し、社会経済の繁栄、平和、文化交流といった社会的課題への取り組みにおいて、旅行・観光産業がより積極的な役割を果たすための提言を行っています。観光産業はグローバルGDPと雇用の約10分の1を占めているため、今後の観光開発が何よりもまずインクルーシブかつサステナブルなものとなるよう、官民が連携して取り組む必要があります。
旅行・観光の屋台骨を支える
2024年版TTDIが指摘しているように、社会経済の繁栄を促進する上で観光セクターが秘める力が特に大きな影響を与え得る分野のひとつは、零細・中小企業(MSME)の経済力強化です。世界旅行ツーリズム協議会[ 1] によると、旅行・観光業者の80%以上がMSMEのカテゴリーに属します。
政策や投資によってデジタルソリューションの導入を促進し、デジタルスキルの向上を図るとともに、与信へのアクセスを改善することで、観光に特化したMSMEを大きく後押しすることが可能です。
コスタリカでは、マスターカードの「ツーリズム・イノベーション・ハブ(Tourism Innovation Hub)」のメンバーであるコスタリカ政府観光局[ 2] が、観光客の増加を中小企業のビジネスチャンスにつなげるために、このようなアプローチを推進しています。同局は昨年、コスタリカ全土の17の職人集団からなる「Crafts with Identity(アイデンティティのある工芸品)」プログラムで観光客のつながりを促進するプラットフォーム「Tico Treasures(「コスタリカ人の宝物」の意味)」を立ち上げました。このプラットフォームでは、観光客がコスタリカの特産品を発見し、職人たちのコミュニティについて学び、商品を購入して母国に発送することができます。
このプログラムは、郵便事業を行うコレオス・デ・コスタリカ、 銀行のバンコ・デ・コスタリカ、そしてコスタリカ政府観光局の支援を含む官民連携の一例です。その目的は、観光客により本物の体験を提供すること、市民のデジタル経済へのアクセスを拡大すること、MSMEのレジリエンス(強靭性)を高めることなど多岐にわたります。
未来の環境保護
観光地における持続可能性の課題を解決するための斬新なアプローチも進行中です。グローバルな非政府組織であるトラベル・ファウンデーションの重要な役割は、サステナブルな解決策を加速させ、規模を拡大する観光における革新的な官民連携を促進することです。同組織が手掛けるスコットランドの一例では、国営観光組織であるスコットランド政府観光局(VisitScotland)がグローバルなツアーオペレーターであるトラベル・コーポレーションと提携し、観光地のサプライチェーンの脱炭素化を検討。それぞれの洞察力、データ、専門知識を結集し、地元企業の支援、二酸化炭素排出量削減のための新しいアイデアの開発、グリーン転換の障壁の特定などに取り組んでいます。
トラベル・ファウンデーションが主導するこのプロジェクトやその他のプロジェクトから得られた知見は国や世界レベルで共有される予定であり、今後の政策、投資、商品開発の決定に影響を与えることになるでしょう。パブリックセクターのリソースと能力を企業の技術的専門知識と組み合わせることで、旅行・観光を担当する意思決定者が観光の成長と環境保護のバランスを取る政策やプログラムを制定することができるようになります。これによってそれぞれの観光地に有効な趣のあるアプローチが可能です。
旅行・観光産業にとって今こそが大切な時です。業界が力強く回復し、社会経済の繁栄を促進することで、私たちの宝物である観光地に、よりインクルーシブな未来をもたらすことができるのです。政府、観光地の管理組織、テクノロジー企業のコラボレーションを加速させることで、観光地とそれを支えるコミュニティ、そして観光地を取り巻く環境を、今後の観光開発の中心に据えることができるでしょう。
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