企業が自然関連リスクの脅威に目覚めた理由
企業は、自然関連リスクを評価し、ビジネスモデルに組み込む必要性を認識しつつあります。 Image: Pexels/Zhang Kaiyv
- 世界のGDPの半分以上が一定以上自然に依存しているため、自然の喪失と生態系の崩壊はビジネスに重大なリスクをもたらします。
- ネイチャーポジティブである戦略を採用することで、世界全体に新たな機会が生まれ、ビジネスの成長と競争力を維持する強固な基盤を築くことができます。
- 具体的には、2030年までに年間10兆1,000億ドルのビジネス価値と3億9,500万人の雇用が創出されると評価されています。
- 世界経済フォーラムは、企業のネイチャーポジティブである戦略を支えるベストプラクティスの共有とパートナーシップ構築を促進するため「CEOアクション・グループ・フォー・ネイチャー」を立ち上げます。
世界経済フォーラムの「グローバルリスク報告書2024年版」は、今後10年間における自然関連リスクの重要性と深刻さを改めて強調し、私たちが世界的に直面する最も重大な課題として位置づけています。地理的境界、産業セクター、バリューチェーンをまたがるこれらのリスクには、緊急かつ共同の対応が必要です。
こうした最新の調査結果は、グローバル経済における自然が果たす重要な役割について、私たちがすでに認識していることと一致しています。同フォーラムの「ニュー・ネイチャー・エコノミー(New Nature Economy)」レポートによると、世界のGDPの半分以上にあたる44兆ドルで、自然への依存度が中程度以上になっています。さらに、地球システム科学では、気候変動、土地システムの変化、淡水利用、生物圏の完全性の変化、新規物質の導入、生物地球化学的な流れなど、9つのプラネタリー・バウンダリー(地球の限界)のうち6つにおいて、人類が安全かつ公正な活動領域を超えているという見解が明確に示されています。
継続的な成長と競争力の維持のために、企業はサプライチェーン全体で自然資本の価値を評価し、ビジネスモデルにおける自然関連の影響を上向きに再評価する必要があります。
さらに、ネットゼロの未来の実現は、自然の力なしには不可能です。自然由来の気候変動対策は、2030年までに必要とされる炭素排出削減の少なくとも30%に貢献することができます。気候変動と自然は切っても切れない関係にあることと、私たちの経済的・社会的な自然への依存や、私たちが直面しているプラネタリー・バウンダリーの転換点についての理解が相まって、ビジネスリーダーたちはよりホリスティック(全体論的)なアプローチをとり、持続可能性戦略にシステムとしての視点を取り入れることが重要になっています。
「通常運転」からネットゼロへと転換するネイチャーポジティブな戦略は、長期的にレジリエンス(強靭性)と競争優位性を生み出すことができます。ネイチャーポジティブへの移行は、2030年までに、年間10兆1,000億ドルのビジネス価値を生み出し、3億9,500万人の雇用を創出すると推定されています。さらに、推定される削減ポテンシャルのほぼ半分は、投資に対してプラスのリターンをもたらす可能性があります。最も早い段階から取り組む企業は、最も大きな利益を得ることができるでしょう。
実際、多くの企業がこうしたつながりを理解し、ネットゼロかつネイチャーポジティブな未来に即した能力開発や、新たな事業モデルの試験的な導入機会をすでに掴んでいます。自然関連の課題に取り組む企業のモメンタムは高まっており、現在、約5社に1社が業績報告の中で自然に関する指標を3つ以上追跡しています。過去10年間の気候変動関連のイニシアチブとの類似性やそこから得た学びを考慮すると、ネットゼロへの移行に比べ、ネイチャーポジティブへの移行は加速度的に進むと予想されます。
ポジティブシフトの背景にあるもの
注目すべき動きがいくつかあります。
ネイチャーポジティブ・イニシアチブ(Nature Positive Initiative)のもと、自然保護団体、研究機関、企業、金融機関で構成されるコアリションが、「ネイチャーポジティブ」とは何かを定義するために連携しています。こうした取り組みは、課題を明確に定義し、共通の定義と測定基準を確立することを目指すもので、今や広く知られるようになったネットゼロの概念で採用されたアプローチに似ています。支援を喚起し、取り組みを調整し、行動を拡大するためのベンチマーク、規範、基準を作るには、共通の語彙と分類法が重要です。
これに関連して、過去数年間、規制の状況には大きな進展があり、企業や投資家の意識と意欲を高めてきました。これには、2023年に導入された科学的根拠に基づく自然関連目標(SBTN)や自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)などの、自然関連の目標設定や情報開示の枠組みが含まれます。「昆明・モントリオール生物多様性枠組」のターゲット15や 欧州連合の森林破壊防止規制、企業持続可能性報告指令も同様の影響を及ぼしており、コンプライアンス要件の転換が間近に迫っていることを示しています。
「ネイチャー・アクション 100(Nature Action 100)」や「金融セクター森林破壊防止アクション(Financial Sector Deforestation Action、FSDA)」、「生物多様性のためのファイナンス協定(Finance for Biodiversity Pledge)」などのイニシアチブは、企業に対して、自社の事業が自然に与える影響を評価・開示し、断固とした行動をとるよう呼びかけています。こうした取り組みと並行して、自然への投資に充てられる資金プールも拡大しています。これらは、気候変動関連基金と関連するものですが、同時にそれとは異なるものでもあります。また、生物多様性クレジットやデットスワップといった革新的な資金調達メカニズムのモメンタムも高まっており、自然保護や回復のための資金をより効果的に調達できる可能性を企業に提供しています。
最後に、「イッツ・ナウ・フォー・ネイチャー(It’s Now for Nature)」キャンペーンなどの市民社会の取り組みは、信頼できる科学的根拠に基づいた自然戦略を設定するよう、企業に対する圧力を強めています。企業が自然にどのような影響を与えているかの詳細が明らかになるにつれ、管轄区域を問わず、具体的な規制や法的要件が増加する可能性があります。自社の影響とそれに対処する手段をよりよく把握している企業は、競争優位性を得ることができます。
これを受け、企業は、自然への依存度を開示し、影響、リスク、機会を評価し、明確で信頼できるネイチャーポジティブな戦略を策定し、グローバルに認知されたプラットフォームでパフォーマンスを報告する必要性を認識しつつあります。
自然関連課題に対するCEOの役割
世界経済フォーラムは、ストラテジック・ナレッジ・パートナーであるマッキンゼー・サステナビリティの協力を得て、自然の喪失を食い止め、逆転させ、ネイチャーポジティブ経済への移行を目指す最高経営責任者(CEO)主導のアライアンス「CEOアクション・グループ・フォー・ネイチャー(CEO Action Group for Nature)」を立ち上げます。
このコミュニティは、CEOが、ネイチャーポジティブな目標を達成するために必要なツールや知識を理解し、ベストプラクティスを共有し、セクターを超えた集団行動を促進するためのプラットフォームを提供します。
参加するCEOは、セクターを超えた対話を行い、多様なステークホルダーや自然保護に取り組む組織・機関のエコシステムと協力しながら、ネイチャーポジティブである戦略を考案・実行していきます。「CEOアクション・グループ・フォー・ネイチャー」は、ネットゼロ目標やその他の企業の優先事項と合わせて、ネイチャーポジティブな戦略を模索、議論、統合するための信頼できる場をCEOに提供します。同フォーラムはこのアライアンスの活動を補完するため、調査や各業界のリーダーたちとの広範な協議に基づき、パートナーと共に各業界に特化したネイチャーポジティブへの移行に向けたパスの初案を発表しました。
この急速に変化する状況下で正しい道を見つけ、ネイチャーポジティブな転換に内在する機会を捉えることは容易なことではありません。「CEOアクション・グループ・フォー・ネイチャー」は、ネイチャーポジティブな未来に向けた企業の熱意と行動を促進する触媒となることを目指しています。
自然リスクが深刻化しつつある今、人類の未来を守るためには、自然の喪失を食い止め、回復させることが極めて重要です。採取型経済から再生型経済へ移行するためには、企業の断固たるリーダーシップが欠かせません。自然と調和しながら成長するビジネスこそが、永続するビジネスなのです。
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2024年11月27日