コロナ下の子どもの教育危機。再び適切な教育を提供するために必要なこと
2020年から2022年にかけて、約1億4,700万人の子どもが対面授業を半分以上受けられていません。 Image: Unsplash/Taylor Flowe
- 新型コロナウイルスの感染拡大は、世界中の人々の健康だけでなく、子どもの教育にも大きな影響を与えています。しかし、それが本格的に顕在化するのはこれからです。
- パンデミックによるロックダウンで学校閉鎖が続く中、最も弱い立場にある子どもたちが、一番大きな影響を受けていることは明らかです。
- 失われた教育の時間を取り戻すための取り組みを、早急に進めていく必要があります。
新型コロナウイルスの感染拡大は、2020年3月11日に世界保健機関(WHO)によってパンデミック(世界的大流行)の状態にあると認定されました。しかし、その時点では、世界中で子どもの教育にまで深刻な危機が及ぶことになるとは、ほとんど誰も想像しなかったでしょう。
パンデミック宣言後の1年間に、ロックダウンにより、世界188の国と地域で150億人の子どもたちが学校で授業を受けることができなくなり、あらゆる年齢の子どもの教育に長期的な影響を及ぼすことになりました。
2021年の学校閉鎖による影響をまとめた経済協力開発機構(OECD)の報告書は、次のように指摘しています。「学齢期の子どもほど、新型コロナウイルス感染症に対して脆弱な層はいませんが、ウイルス封じ込め政策によるこれほどまでの弊害を受けている層も、子どもたちの他にはいません」。
学校閉鎖は一時的な措置だとされるケースが多かったものの、2020年は、一年を通じて学校閉鎖が続けられ、一部ではそれ以降も閉鎖されたままの状態でした。
ユニセフは、2022年3月の時点で、約4億500万人の学齢期の子どもを抱える23の国で、学校閉鎖がいまだに完全に解除されていないと発表しています。中国では、新たな感染拡大を徹底して抑え込もうとする政策が続けられており、2022年10月には、上海や西安で学校閉鎖が実施されました。
学校をドロップアウトしてしまう子どもも
ユニセフは、2020年から2022年にかけて、約1億4,700万人の子どもが対面授業を半分以上受けられなかったと報告しました。そして、最も弱い立場にある子どもをはじめ、多くの子どもが教育そのものを断念せざるを得ないほどの苦境に陥っていると警告しています。
状況が危機的なのは、ユニセフのさまざまなデータから明らかになっています。例えば、リベリアでは、2020年12月に学校が再開されたものの、子どもの43%は学校に戻ってきませんでした。南アフリカでは、非就学児の数が2020年3月から2021年7月の間で25万人から75万人と3倍になりました。
ウガンダでは、2年間の閉鎖を経て学校が再開されましたが、子どもの約10人に1人がクラスに顔を見せなくなりました。マラウイでは、中等教育での女子生徒のドロップアウト率が2020年から2021年で48%増加しました。
非就学児は、社会の中でも特に脆弱で取り残されているとユニセフは指摘しています。また、読み書きや基本的な計算ができないケースが多いことから、学校という環境に身を置けなくなると搾取されるリスクが高まり、貧困と剥奪の生涯を送らなければならなくなるおそれがあるとも指摘しています。
失われた教育時間の影響
ユニセフが調査を実施した32の低所得国では、パンデミックの影響で教育時間が失われてしまった結果、学校が再開していたとしても「絶望的に低い教育レベル」とユニセフが表現する状況が、さらに悪化しています。
「調査の対象となった国では、学習ペースが非常に遅く、通常ならば2年しかかからない基礎的な読解力の習得にほとんどの子どもが7年かかるとみられる。また、基礎的な計算力の習得には11年かかるだろう」とユニセフは分析しています。
2022年11月にユネスコがこうした危機的状況を分析し、学校閉鎖により最も深刻な影響を受けたのは最も脆弱な子どもだったことが浮き彫りになりました。ユネスコはまた、教育分野における国連の持続可能な開発目標への取り組みにみられた進展が、逆戻りしてしまったとも指摘しています。
世界銀行によると、学校閉鎖が最も長く続く地域の一つであるラテンアメリカとカリブ海諸国では、初等教育における読解力と算数力の平均スコアが、10年前の水準にまで逆戻りしてしまったおそれがあります。
世界銀行はまた、同地域では6年生の5人に4人が適度な長さの文章を適切に理解して説明することができていないようにみられるとも報告しています。そしてこれらの結果を受けて、こうした子どもたちの生涯賃金は、パンデミックによって教育時間が短縮されてこなかった場合に比べて12%減少するだろうと推計しています。
学力格差の拡大
世界経済フォーラムが2022年に公表した報告書によると、インドではパンデミックの影響で子どもの学力格差が顕著になってきており、特に選挙権のない家族や、脆弱な家族の子どもの学力が著しく低下しています。
学校がリモート授業で教育機会を提供し続けようとしても、子どもの社会経済的な格差が障壁となります。例えば、米国では、裕福ではない地区の子どもの算数の学力は裕福な地区の子どもに比べて50%も低いという調査結果が出ています。
コンサルティング会社のマッキンゼー・アンド・カンパニーは、米国の子どもの学習状況について、2020~2021学年度末の時点で読解力では平均5カ月、算数力では平均4カ月の遅れが出ていると報告しています。遅れが最も深刻なのは歴史的に不利な立場に置かれてきた家庭の子どもで、黒人家庭の子どもには平均6カ月の遅れがありました。
同様に、日本でも、社会的に不利な立場に置かれている家庭の子どもや年齢が低い子どもが学校閉鎖の影響を最も受けていることが、調査でわかっています。自宅学習を強いられたことで生じた悪影響が最も長引いているのは、貧しい家庭の子どもであることも明らかになりました。
一方、パンデミック下でも学校閉鎖が実施されなかったスウェーデンでの調査では、家庭の社会経済的な差異にかかわらず、子どもの読解力スコアに低下はみられませんでした。この結果から、同調査は、パンデミックという前代未聞の状況自体は子どもの学力に影響を及ぼすことはないと結論づけています。
子どもに再び十分な教育機会を提供するために
では、パンデミック世代の子どもたちが、失われた教育を取り戻すためにはどのような取り組みが求められるのでしょうか。
世界銀行は、各国で実施すべき10の対応策を提案しています。その一つとして、子どもが学校に復帰した後に、学校が学習の遅れの実態を調査するとともに、遅れを取り戻す取り組みの進捗状況をモニタリングすることを挙げています。
また、キャッチアップのための教育や対策を実施して、子どものドロップアウトを防ぐことも重視されています。具体的には、学校暦の変更や、基礎学力の習得に焦点を当てたカリキュラムへの改善を提案しています。
さらに、学習用の書籍やデジタル機器を配布して、家庭学習に対する支援を行うことも望ましいとしています。家庭学習では保護者の役割も重要であり、その意味で保護者へのサポートも不可欠だと世界銀行は考えています。
教師に対しても、極度の負担がかからないように追加の支援を提供する必要があるとしています。「教師としての専門能力の開発に積極的に投資すること、そしてテクノロジーを活用して教師の教育スキルの質を高めることも欠かせない」と強調しています。
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