デジタル化における負の側面 – その解決方法
インターネットサービスは、世界の電力需要の10%を占めるまでに成長している。 Image: Elchinator from Pixabay
Ian Goldin
Professor of Globalization and Development; Director, Oxford Martin Programme on Technological and Economic Change, Oxford Martin School, University of Oxford- デジタル革命は、私たちの生活や、人との交流の仕方に変化をもたらしていますが、それは持続可能でも公平でもありません。
- 新型コロナウイルスの感染拡大によって、デジタル化への移行が加速している一方で、デジタル・ディバイドはより顕著なものとなっています。
- デジタル経済は、パンデミック(世界的大流行)からの回復を加速させることができますが、政府が今取り組むべきなのは、デジタル経済を、すべての人に恩恵をもたらす包括的なものにすることです。
デジタル経済の時代がついに到来しました。1990年代半ば、テクノロジーマニアは、インターネットやスーパーコンピューターの急速な普及によって、新たな効率性、イノベーション、規模の経済性が生まれると予測しましたが、ドットコムバブル(ITバブル)が崩壊し、それと同時に電子ビジネスや電子商取引において期待された革命は、勢いを失ってしまいました。しかし、それ以来、世界のデジタルデータ量は飛躍的に増加しています。世界のIPトラフィック(データ流通量)は、30年前には一日あたり100ギガバイトであったのに対し、現在では、1秒あたり約15万ギガバイトにまで増加しています。データ流通量は2020年にはおよそ60ゼタバイト、2025年までには、その約3倍の量にまで増加すると予測されており、あらゆる所に存在するデータと、その接続性が、新たな経済に活力を与えています。クラウドコンピューティングの普及、AI(人工知能)、そして、数十億ものデジタル接続デバイスは、物事を完全に新たなレベルへと引き上げようとしています。このような流れは、新型コロナウイルスのパンデミックが始まってから、加速するようになりました。
しかし、デジタル経済は、すべてが良いことばかりではありません。
デジタル化を見据えて動いた先駆者たちが利益を得ている一方で、政府や商取引のデジタル化は、デジタル・ディバイドを狭めることに失敗しました。「テラ・インコグニータ: これからの100年を生き抜くための100の地図 」で示されているように、豊かな国や企業は、貧しい国や企業に比べ、遥かにデジタル化が進んでいます。この格差は、簡単に埋められるものではありません。なぜなら、デジタル経済での成功は、携帯電話やワイヤレス接続の数ではなく、インフラ、コード、データの所有権によって決まるからです。北米、西ヨーロッパ、東アジアの富裕国に、世界のデータセンターの90%以上が存在する一方で、ラテンアメリカやアフリカの国々のデータセンターは、世界全体の2%以下です。米国と中国の二か国により、クラウドコンピューティングの75%以上、ブロックチェーンに関するすべての特許の75%、IoTへの投資の50%が占められています。世界最大規模のデジタルプラットフォームにおいては、株式の時価総額の90%以上を両国が保有しています。その結果、一部の国、企業、分野が、他の国よりもはるかに多くデジタル化による恩恵を受けているのです。
デジタル経済の利益配当は、今もなお、均等に分配されていません。米国(35%)、中国(13%)、日本(8%)、欧州連合加盟国(25%)を含む、比較的少数の国が世界のデジタル経済による利益を得ています。同様に、アマゾン、アルファベット、アップル、グーグル、フェイスブック、マイクロソフト、アリババ、バイドゥ、ファーウェイ、テンセント、ウィーチャット、ZTEなど、一握りの企業が市場における圧倒的な地位を獲得し、すべての収入および利益の90%を得ています。主要な小売業者並びに製造業者は、ビジネスの再構築やデジタル化を進めており、そうしなければ消滅の危機に晒されてしまいます。そのため、ほとんどの企業が、ネットワークによる効果と競争力の強化によってメリットが生じる可能性を期待して、バーチャル化に乗り出しているのです。
さらに悪いことに、デジタル経済は、気候変動を加速させるなど、深刻なマイナスの影響を経済以外の部分に生み出しています。テクノロジー企業の中には、これまでの取り組みを改めようと努力しているところもありますが、これらの企業は依然として、世界で最も持続不可能で、環境にダメージを与える存在の一つとして捉えられています。とどまることなく拡大し続けるハードウェアに対する需要を満たすため、テクノロジー企業は、レアアースメタルや、コバルトなどの貴金属を抽出する取り組みを強化しています。テクノロジーの冗長性や計画的な旧式化が、大量の廃棄物を生み出す原因となっています。
そして、最も懸念されることは、インターネットサービスの拡大により、世界の発電量の約10分の1が消費されているということです。クラウドコンピューティングへの移行は、エネルギーの消費量を増やし、さらに、石炭火力発電所から排出されるものも含め、二酸化炭素排出量を増大させています。世界の大規模なデータセンターの中には、設置されているサーバー、冷却システム、ストレージドライブ、ネットワークデバイスの電力消費量が、100メガワット以上に達するところもあり、これは米国の8万世帯の電力消費量に相当します。また、現在、ビットコインのマイニングだけで7ギガワット以上使用されており、原子力発電所7基から発電される量に相当します。ある研究では、暗号通貨を発行するのに必要な年間の二酸化炭素排出量を、2,200万トンから2,900万トンと算出しており、これは、ヨルダンのような小さな国が排出するのと同程度の量になります。
社会面、環境面での課題はさておき、デジタル経済は、実際の経済よりも早いスピードで成長しています。定義の仕方によっては、デジタル経済がもたらす価値は11兆5,000億ドル、あるいは世界のGDPの15%に達する可能性があります。研究者は、2040年までに、37兆ドルまたは世界のGDPの26%にまで上昇する可能性があると考えています。フィンランドやアイルランド、シンガポール、韓国といった、自国経済の相当な部分を情報通信技術に依存している国々は、とりわけ有利な状況にあるといえます。先進国、新興国の違いに関わらず、各国が、プロセスと生産の最適化、取引コストの削減、サプライチェーンのアップグレードを進めるために新たな技術を活用できれば、同じように利益を得ることができるでしょう。しかし、各国がデータの生成、保存、処理、転送に関する構造的な問題を克服できなければ、デジタル経済の進展は阻まれてしまうでしょう。そして、デジタル経済が早急に、より持続可能なものとならなければ、デジタル経済のブームは消滅する可能性があります。
新型コロナウイルスのパンデミックは、事実上、あらゆるところで経済のデジタル化を加速させています。これまでに前例のないリモートワークへの移行や、オンラインコンテンツおよびオンラインによる消費の爆発的な増加が、データ量の上昇をもたらしています。多くの人が出張の代わりにビデオ会議を利用するようになり、コミュニケーション・プラットフォームやデータプロバイダーは急成長しています。しかし、その一方で、このパンデミックは、インターネット接続が脆弱な社会と、高度にデジタル化された社会との間で、あるいは、それらの社会の中においても不平等をさらに拡大させています。
デジタル・レジリエンスや市場の力が不足している国は、デジタル経済への流れの中で遅れを取っています。より公平なデジタル経済をグローバルに実現するには、政府が迅速に規制を構築し、ユニバーサル・ブロードバンドを義務付け、労働者のスキルアップを図り、さらに、恩恵をより公平に分配し、損失を最小限にするための社会的保護を取り入れることが求められます。国境を超えた情報フローをより良く管理し、競争と課税を規制し、プライバシーを保護するための世界的、地域的な協定は、協力関係が弱まっている時代において何よりも重要なものです。
政府と企業は、繁栄するためだけでなく、21世紀を生き抜くために、持続可能なデジタルトランスフォーメーションに投資することが必要です。インセンティブ、監視、投資が正しく組み合わされることで、デジタル経済は、新型コロナウイルス感染拡大からの経済的回復に加え、低所得国での起業家や中小ビジネスの台頭の可能性においても、重要な役割を担うことができます。そのためには、デジタル経済を牽引するサービスやアプリケーションを支える重要なインフラへの大規模な投資、さらには、そのインフラの再分配が必要になります。何よりも重要なのは、デジタル経済に適応し、そこから利益を得て、デジタル化のリスクを最小限にするために、官民の関係者が発想を広げていかなければならないということ。デジタル・レジリエンスはもはや選択的なものではなく、必ず必要なものなのです。
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Vijay Eswaran
2024年12月18日