食料と水

ワイン造りを変える、再生型農業と気候変動への挑戦

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ワイン業界は消費者を結びつけ、新たな対話を始め、そして再生農業に対する意識を高めることができるという点でユニークな存在です。 Image: REUTERS/Ognen Teofilovski

Natalya Guseva
Head, Financial Markets and Resilience Initiatives, World Economic Forum
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本稿は、以下センター(部門)の一部です。 金融および通貨システム
  • 世界のワイン産業は3,000億ドル以上の規模を誇り、消費者に対して絶大な影響力を持ちます。
  • ワイン業界は、サステナビリティに関する成功例を紹介することで、再生可能なブドウ栽培に向け、消費者と生産者に影響を与えることができます。
  • ワインメーカーはすでに、再生可能な農業をさらに推進するためのコアリションを結成しています。

再生農業という言葉が生まれたのは1980年代のこと。今日、再生可能なブドウ栽培は、ネイチャーポジティブな栽培戦略として急速に勢いを増しています。

再生可能なブドウ栽培は、持続可能性に関連し、オーガニックやビオディナミの実践が基礎になっている一方で、その定義はひとつではありません。実際、2020年に229本の記事と再生型農業を実践する人々のウェブサイトをレビューしたところ、「再生可能な農業」を定義する主な方法は、許可する項目などに焦点を当てたルールベースではないことがわかりました。土壌有機物を含む土壌の健康を改善した結果などを重視する、アウトカムベースだったのです。

このアウトカムベースのアプローチによると、再生可能なブドウ栽培の主な目的は、土壌の健全性の回復、過去数十年にわたる工業化のダメージの取り消し、気候変動への適応とその影響緩和を率いることだと言えます。

気候と従来の農業

合成肥料がハーバー・ボッシュ法により大規模な窒素固定を可能にし、農業に革命をもたらしたのは、数十年前のことです。その一方で、合成肥料は土壌の劣化と温室効果ガスの排出を助長しています。窒素が水路に流出して土壌構造や微生物群を破壊し、浸食を引き起こすだけでなく、世界的なエネルギー使用量の1~2%に関連する温室効果ガスの排出にもつながっているからです。土壌を3cm生成するためには1000年かかるとされており、現在の劣化傾向を踏まえると、残っている土壌は60年分のみであると2014年に実施された調査は指摘しています。

さらに、ブドウ栽培の工業化は、生物多様性の急激な喪失と作物の単一栽培にもつながっています。数十年前までブドウ畑に存在した多様な動植物を再現するために、多くのワイナリーが植樹や生垣を植えているのが現状です。

また最も重要なのは、気候変動により、スペイン、イタリア、ギリシャ、カリフォルニアの沿岸部及び低地にあるワイン産地の90%が、干ばつや猛暑による存続の危機にさらされていることです。

地球のために土壌の健全性を優先する

土壌には、ブドウの木とその根、地中の微生物との相互作用を含む複雑な生態系が存在しています。根は、地下で起こっていることと地上のブドウの木をつなぐ大使のような役割を果たし、栄養素の交換から毒素のシグナル伝達、免疫防御、炭素固定に至るまで、多くの重要な活動を可能にしているのです。

さらに、土の中には菌根ネットワークと呼ばれる菌類の小さな糸が張り巡らされており、個々の植物をつなぎ、水、窒素、炭素、その他のミネラルを移動させています。

土壌の質はまた、養分の循環や有機物の貯蔵にも影響を及ぼし、地上の要因も全て浸食に影響するため、養分がさらに枯渇。こうしたことにより、ブドウの木は大雨や土砂崩れなどの悪天候の被害を受けやすくなります。

健全な土壌には、保水力が不可欠です。この能力を高める2つの重要な要因は、粘土質の土壌と土壌有機物。有機土壌物質が1%増えるだけで、土壌は1エーカーあたり約6万8000リットルの水を余分に保持できるようになります。気候変動によって気温が上昇することで、水不足が深刻化し、干ばつが頻発・持続するようになれば、保水力はますます重要になってくるでしょう。

被覆作物や樹木を植え付け、有益な昆虫や動物を導入し、生物多様性を高めることで生まれるのが、「生態系サービス」です。生態系サービスは、肥料の代わりに窒素を固定し、保水力を高め、土壌浸食を防ぎ、土壌病原菌の抑制やブドウの木の害虫の駆除に役立つ昆虫や鳥を呼び寄せたりすることで、ブドウの木とその周囲に恩恵をもたらします。

土壌と炭素のつながりを理解する

先に述べた菌根ネットワークの役割については、包括的な研究が待たれるものの、陸上炭素の75%は地下に貯蔵されていると考えられています。様々な推定値が存在し、ある程度の誤差はあるかもしれませんが、ある研究の概算によると、陸上植物は13.12ギガトンの二酸化炭素を固定。これは化石燃料による現在の年間二酸化炭素排出量の約36%に相当します。さらに、植物の光合成によって固定された炭素10%から40%は根から放出されているのです。

別の研究では、アグロフォレストリー、カバークロップ、マメ科カバークロップ、動物との共生、非化学肥料、非化学的害虫管理、不耕起という7つの再生型農法について、345の土壌炭素貯留量を分析。7つの方法すべてが炭素吸収量を増加させ、最も効果的で導入しやすかったのは、カバークロップ、不耕起、非化学的害虫管理であることがわかりました。これらを組み合わせることで、さらに吸収量が増える可能性もあります。

再生連合の構築

再生型農法が勢いを増す中、経済的に実現可能でありながら、スケーラブルな方法で実質的な違いを示すことが成功への鍵となっています。

経済的な面においての初期観測は有望です。再生可能な手法への先行投資などにより、農業コストは増えるかもしれません。その一方で、生産者たちは、収量が増え、ブドウの品質が向上する可能性も認めています。

さらに、ワイン業界は、土壌劣化や気候変動という課題を抱えるだけでなく、若い世代の消費減退ブドウ栽培の余剰という逆風にもさらされています。そこで、リセットの役割を果たすのが、再生可能なブドウ栽培です。同じ若い世代の消費者は、バルクワインよりもプレミアムワインを選ぶ傾向があり、本物志向や持続可能性といった価値観に沿った製品やブランドにお金を使うからです。

また、ワイン生産者が衆知から学べるよう、いくつかの組織も設立。コアリションであるThe Regenerative Viticulture Foundation(環境再生型ブドウ栽培財団)は、研究やリソースの保管庫として成長を続けています。また、 Regenerative Organic Alliance(リジェネレイティブ・オーガニック・アライアンス)は、農業会社を世界的に認証する組織であり、2020年にタブラス・クリークが初の認証ワイナリーとなりました。それ以降、成長は勢いを増し、2022年に50万エーカーのブドウ畑を認証。2023年にはその面積が600万エーカーに拡大しました。

再生可能なブドウ栽培における大きな特徴のひとつは、決まった方法ではなく、柔軟なアプローチの提供にあります。ワイン生産者が今いる場所で、その土地の地理に適応し、野心的かつ長期的なビジョンのために漸進的な進歩を遂げることを目指しているのです。

世界のワイン産業はおよそ3,000億ドル規模であり、世界の農業のほんの一部に過ぎません。一方で、消費者を結びつけ、新たな会話を始め、意識を高めることができるという点で、ワイン産業はユニークな存在です。再生型のブドウ栽培は、ワイン業界を変えるだけでなく、より広い農業の手本となることができ、Regenerative Organic Alliance(リジェネレイティブ・オーガニック・アライアンス)のモットーを拝借すると、すべての生産者に「世界の運命がかかっているような農業」を奨励する可能性を秘めています。

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気候と従来の農業地球のために土壌の健全性を優先する土壌と炭素のつながりを理解する再生連合の構築

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