この2年という歳月は、私たちの仕事や交流のあり方をかつてないほど変化させ、誰もがより高いレベルの臨機応変さとレジリエンス(強靭性)を求められてきました。このことを一番よく知るのは、脆弱なコミュニティや排除されたコミュニティで働くソーシャル・イノベーターである、社会起業家や社内起業家たち。彼らは、危機に見事に対処してきたのです。

社会全体がそうであったように、彼らも新型コロナウイルスの感染拡大を受け、以前とは違った方法で活動に取り組むことを余儀なくされました。これに加え、社会の末端で活動してきたソーシャル・イノベーターたちは、これまでもリソースが不足しがちな環境で必要なサービスを提供するため、政府のシステムが限界まで緊迫している中、打撃を受けたコミュニティのさらなる支援のための運用方法の転換を強いられてきました。

レジリエンスの高さを実証した彼らは、パンデミック(世界的大流行)における直接的なニーズだけでなく、長期的なコミュニティの社会的課題への対応にも力を発揮しています。こうしたイノベーターたちの物語は、インスピレーションと教訓を与えてくれるのです。

数百万単位のインパクト

このようなソーシャル・アクターが与えた様々なインパクトを総合的に数量化するために、2019年と2020年の受賞者の活動の評価を行ったのが「2020~21年度シュワブ財団社会起業家年次報告書」。同財団では毎年、社会的イノベーションを推進・支援しているあらゆる分野の個人を表彰しています。今回の報告書では、受賞者の多くが、必要なインパクトを実現するために様々な主体と協力し、新しい対応を始めていることがわかりました。例えば、金融包摂の恩恵を受けている人々は1,510万人。子どもの健康革新プログラムで支援を受けている事業者・介護者・労働者は1,800万人。農村部の持続可能な農業・クリーンエネルギー・ヘルスケアでは、730万人がその恩恵を受けています。

ほとんどの受賞者は、パンデミック初期の数カ月間で得た知見を活かし、徐々に長期的な活動を再開させています。今回の調査期間中、受賞者たちの活動に影響した主な課題には、運営面・資金面・政策面の要因のほか、パンデミックによりコミュニティが受けた健康や経済への打撃の影響で、ヘルスケア・教育・栄養・安全・収入に関するニーズが高まったことが挙げられています。

知見をより大きなインパクトへつなげる次のステップ

世界が今突きつけられているのは、公平で包摂的、かつ持続可能なリカバリーを推進するという課題。世界経済フォーラムの「持続可能な開発インパクト・サミット(SDIS)」の焦点もここに当てられていました。世界は、社会起業家や社内起業家のエネルギーとイノベーションをこれまで以上に必要としているのです。

最新の推計によると、2020年、新型コロナウイルスの感染拡大によって極度の貧困に陥った人は1億人以上。フルタイム換算で2億5,500万人相当の雇用が失われ、1億100万人の子どもの読解力が最低水準を下回りました。この事態から、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の2030年までの達成が遅れることが懸念されています。しかし、ウイルスの新しい変異種、ワクチン接種や公衆衛生上の対応のほか、経済的、精神的な悪影響に世界各国が苦闘する中で、効果的な対策を調整するのは容易でありません。

危機の最前線で持続可能性のための革新に取り組んできた人々の経験には、多くの学ぶべきことがあります。例えば、世界経済フォーラムの「社会起業家のための新型コロナウイルスへのレスポンス・アライアンス(COVID Response Alliance for Social Entrepreneurs)」がこのほど発表した「インドにおけるラストマイル・レスポンダー・トップ50(India Top-50 Last Mile Responders)」は、今年初めにインドで起きた壊滅的な第二波の際にインドの社会起業家たちが行った活動を紹介。ウイルスの再拡大と闘う世界のほかの地域に向け、対応メカニズムに関する重要な教訓を提供しています。

さらに、ソーシャル・イノベーターは起業家のエネルギーをメインストリームに取り入れる触媒にもなっており、新しい市場の創造や、新たな開発方法の実証を行っています。また、企業に属する社会起業家がもたらすインパクトを目にすることも増えています。彼ら社内起業家は多国籍企業や地域企業のビジネスリーダーたちで、社会や環境に真のインパクトを与えるため、自社のESG課題に貢献する新製品やイニシアチブの開発を進めています。また、パブリックセクターでは、社会的イノベーションや社会起業家の力を借りながら、法令や公的イニシアチブを通じて公共の利益を生み出しているリーダーたちもいます。

持続可能な開発インパクト・サミットでは、シュワブ財団のソーシャル・イノベーターや、テクノロジー・パイオニアのアップリンク(Uplinkt)イノベーター、世界の大きな課題に取り組んでいるヤング・サイエンティストなど、持続可能性の先駆者たちの声を紹介します。ジョブ・クリエーションや難民の問題から、食料支援、メンタルヘルスと公衆衛生に至るまで、現在の複雑な課題に関していかに真の進歩を遂げるかを、これらのリーダーたちが紹介しています。

情熱的で、変化を力強く志す彼らは、新しい技術や先駆的な研究、あるいは物ごとの新しいやり方から多くのインスピレーションを得ています。私たちが関心を持って注目すれば、彼らはSDGsの前進に必要な新しい社会的・経済的基準を導入するためのロールモデルとなり、構造的な障壁を取り除く方法を示してくれます。

社会起業家を支援し続けることが重要

パンデミックの中ですでに大きな役割を果たしているにもかかわらず、多くの社会起業家とイノベーターは、この困難な時代の中でさらに高まる自分たちの仕事やサービスへの要求に応じようと懸命に努力しています。これがソーシャル・イノベーターと社会的インパクトをもたらす組織の前例のない連携に発展し、最前線で活躍する人々に必要な支援を集め、強化する一助となっています。こうした動きは、これからも引き続き拡大させていく必要があります。

こうした重要なネットワークの中で、シュワブ財団が支援しているものが二つあります。一つはSDGs達成に向けて協働する世界の社会起業家の運動である「カタリスト2030(Catalyst 2030)」。そしてもう一つが、「社会起業家のための新型コロナウイルスへのレスポンス・アライアンス(COVID Response Alliance for Social Entrepreneurs)」です。86のメンバーが10万人の社会起業家を支援しているこのアライアンスは、社会的イノベーションに関する最大のコアリションであり、新たな議論や課題を推進するとともに、システムレベルの協力や影響を促しています。アライアンスのパートナーである、オランダの国際組織、ポルティカス(Porticus)の最高経営責任者(CEO)、メラニー・シュルツ・ファン・ヘーゲン氏は、今年初め、「2021年は飛躍的な協力の年にならなければいけない」と述べています。多数の社会的・政治的危機と地球規模の危機に満ちた年も半ばになりましたが、これは今年だけでなく今後10年のテーマになるでしょう。

パンデミックの壊滅的な影響からこの星がリカバリーを果たすためのエネルギーの最大の火付け役となるのは、おそらく彼らソーシャル・イノベーターたちになるでしょう。しかし、社会的イノベーションや起業家活動を志す環境にある多くの人々にとって、目下の問題は「リーダーや先駆者たちをいかに完全にメインストリームに合流させるか」ということ。これは決して一つのやり方で解決できる問題ではありません。多くの意見を対話に迎え入れ、この先の道について知見を交わし合うことが、答えにつながるでしょう。

現状に満足せず変化を切望するリーダーたちはあらゆるセクターに存在しており、未来を変えることは可能だと、これまでも十分証明してきました。私たちが必要とする包摂的な未来をともに創造するためには、あらゆるセクターがこうしたリーダーたちに耳を傾け、彼らから学び、彼らと協力することが必要なのです。