• 高度な個別化医療が可能になり、医療への新たなアプローチが実現しつつあります。
  • ここでは、デジタルツールが、患者と医師のリアルなコンタクトを代替するのではなく、サポートするために使用されている3つの事例を紹介します。
  • 医療のデジタル化には、医療機関、企業、政府などのマルチステークホルダーによる協力が必要です。

ヘルスケアは、デジタル革命を迎えています。ビッグデータやモバイル機器など、革新的な技術がヘルスケアの新たな可能性を切り拓くというこの動きは、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)でより顕著になりました。スマートフォンのアプリはウイルスの拡散を追跡し、AI(人工知能)は、医師がウイルスによる肺炎の兆候を見つけるのに役立っています。

パンデミックに限らず、医療のデジタル化は、病気の予防や治療から介護に至るまで、幅広い分野で成果を上げることが期待されています。デジタル化によって資源の効率的な利用が可能になるため、高齢化社会が進む中でも、国の医療システムはより効果的かつ持続可能なものになるでしょう。

デジタル革命を最大限に活用するには、根本的な概念の転換が必要です。多くの医療システムは、多数の人々に均一的なケアを提供することを目的としています。これは、功利主義の哲学者ジェレミー・ベンサムが掲げた「最大多数の最大幸福」を目指したものです。

一人ひとりに合わせたオーダーメイド医療を行うことが難しく、コストもかかっていたアナログ時代には、このアプローチは理にかなっていました。しかし、デジタル化によって状況は一変しています。一人ひとりに合わせたオーダーメイド医療が可能になり、全く新しいヘルスケアの在り方が生まれてきたのです。私たちは、それを「最大『多様』の最大幸福」と呼んでいます。

世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターでは、ヘルスケアにおけるデータやテクノロジーの活用を推進しており、健康とウェルビーイング(幸福)を最大化するためには、画一的なアプローチから、多様性を重視したアプローチへの転換が重要であると考えています。「最大多様の最大幸福」は遠い未来のアイデアではなく、すでに実現に向けて動き始めています。

データに基づき多様性に焦点を当てたヘルスケアへのアプローチ

まず、ヘルスケアがより包括的になります。一人ひとりのライフスタイル、病気の特徴、介護の必要性などに対応することにより、医療システムから取り残される人を減らすことができます。

データやAIなどの技術的進歩により、オーダーメイド医療の可能性はますます広がり、コストは下がり続けています。また、一人ひとりに最も効果的な予防・治療計画の作成から、リスクや医療行為に対する個人の意向の反映まで、様々な可能性が広がっています。

新たな医療システム実現への障壁

まず、ヘルスケアにおける情報格差を無くすためには、デジタルとアナログの世界を融合させる必要があります。これは、課題であると同時に、大きな可能性を秘めた分野でもあります。例えば、新型コロナウイルス対策に最も成功した国のひとつである台湾では、パンデミック初期に、政府が国民健康保険証、キャッシュレス決済、国民皆保険制度などを駆使し、医療供給のボトルネックを解消することで、マスクを必要とする人々に届けました。

しかし、デジタルツールを活用したこの取り組みは、多くの若年層に利用されたものの、高齢者でマスクを購入できたのは40%に過ぎませんでした。高齢者に対し、特定の時間に特定の薬局に行くよう指示するなど、政府が具体的な情報を追加したことでようやく、その割合は増加しました。

ハイブリッドなアプローチで成功している企業

世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターでは、このハイブリッドなアプローチで成功しているヘルスケア関連企業の取り組みをいくつか検証し、ブリーフィングペーパー: 「ヘルスケアと第四次産業革命―『最大多様の最大幸福』の実現に向けて」(Healthcare and the Fourth Industrial Revolution: Realizing the “greatest happiness of the greatest diversity)としてまとめました。

  • 武田薬品工業国内製薬最大手の武田薬品工業は、ウェアラブルデバイスと遠隔医療を用いてパーキンソン病患者のモニタリングを行うパイロットプロジェクトを実施し、疾患管理と通院の負担を減らす可能性を見出しました。
  • セールスフォース・ドットコム:クラウド型ソフトウェアの大手であるセールスフォース・ドットコムでは、患者のデジタルデータを一元管理することで、医療提供者の業務効率と患者のエンゲージメントを向上させた事例があります。
  • SOMPOホールディング:日本の保険グループであるSOMPOホールディングスでは、データを活用して介護における人材不足に対処し、より個別化されたサービスを開発中であることを紹介しました。

これらの事例に共通しているのは、患者と医師間、高齢者と介護者間といった現実世界でのコンタクトを、デジタルツールで代替するのではなく、サポートするという点です。それはデータや技術を用いて、従来の「アナログ」サービスを強化・補完するものです。このハイブリッドなアプローチにより、医療機関は、アナログやデジタルの手段だけでは不可能だった個々のニーズや社会的課題への対応が可能になりました。

マルチステークホルダー・イニシアチブの可能性を最大限に引き出すために

技術の進歩により、産業間の垣根がなくなりつつあります。ヘルスケアにおいて「最大多様の最大幸福」を実現するためには、医療や福祉の様々な面で一人ひとりのニーズを把握しそれに応えることが求められるため、医療機関や企業、行政などが幅広く連携することが必要になります。

今回ブリーフィングペーパーで取り上げた3つの事例の成功には、マルチステークホルダーの連携が不可欠でした。各業界の限界や視点を超えて、従来のネットワークを見直し、各企業の強みを活かし、最大限の協力関係を築くことでイノベーションが生まれると考えています。