資本主義が社会にこれほど多くの利益をもたらしてきたにもかかわらず、私たちは今、資本主義による社会的、環境的なマイナス面がプラスの効果より大きくなり始めた、そのような時を迎えています。

ビジネス活動によって引き起こされる、社会へのマイナスな影響を取り除く試みは、遥か昔の1800年代から始まりました。にもかかわらず、企業が第一に優先するのは、いつの時代も常に経済的価値の追求でした。社会的な問題を慈善活動に委ねて、なんら制約を受けずに利益を追求するケースもあれば、最近では、企業の社会的責任(CSR)、BOPビジネス(主に開発途上国の低所得者層を対象とした持続可能なビジネス)などのアプローチや、B-corporations (世界標準を満たした、環境や社会のための「良い会社」を認証する仕組み)、「コンシャス・キャピタリズム(意識の高い資本主義)」などの取り組みを通じて、社会的価値も同時に追求することで制約を受けながら事業を展開するケースもあります。

これらの取り組みは、確かに一定の社会的価値を生み出しますが、その価値は、企業が自らの利益を追求することにより制限されます。要するに、最終収益を悪化させない場合に限り、社会的価値を生み出す活動は、企業にとって良いものとされるのです。

そうであれば、日本の大手製薬会社のエーザイが、52の国に蔓延し、8億8,600万人がそのリスクにさらされている、象皮病(皮膚や皮下組織の結合組織が著しく増殖して硬化し、痛みと重度の障害を伴う病気)の薬22億錠を、世界保健機関(WHO)に無償提供したのはなぜでしょう。牛乳やジュースのパッケージメーカーで、フランスの業界大手のLSDHが、自社のメインエントランスに隣接して小さなロッジを建て、商品をトラックに積み込むまでの長い時間を待っているドライバーが、そこで休憩を取りシャワーを浴びれるようにしたのはなぜでしょう。さらに、米国の果物宅配会社フルーツガイ(Fruit Guys)が、提携農家との間で、果樹園内でのアクシデントにより品質基準を満たしていない場合でも、洋梨をすべて買い取る取決めをしているのはなぜでしょう。

社会的価値の追求

ここに挙げた実例は、資本主義におけるビジネスにとっては、奇妙な活動に見えるかもしれませんが、実際には利他的なものであって、そこには重要な意味が含まれています。第一に、私たちが研究した上記の3社とその他の企業は利他的な活動に制限を設けず、このような活動を年に1度や2度程度と限ることもせず、常に行っているのです。むしろ、自社の活動のすべてを、社会的価値を生み出すものに変えようとしています。第二に、これらの企業はできる限りの努力を尽くして、無条件に社会的価値を追求することで、経済的な結果のみを重視している従来型の競合他社を上回る業績を挙げています。

明らかに矛盾したこの状況は、英国のエコノミストであるジョン・ケイ(John Kay)による、「想定外の原理」という表現で説明できます。実際、多くの個人や組織は、追い求めようとせずとも、幸福、名声、富などプラスの要素を結果として得ています。むしろ、成熟の域に達することを目指し、ひとつの技術を習得するように、何か他のことを追求することによって想定外にそれらを手にします。利他主義の企業はまさにそういう活動を行っているのです。社会的価値を生み出すことを無条件に重視し、その結果として経済的な成功を手に入れています。

それゆえ、スウェーデンの大手銀行であるハンデルス銀行は、自社のアドバイザーの存在を、顧客の(金銭的)健康やその他のことまで世話をするファミリードクターだと考えています。ハンデルス銀行の顧客は、自分の主治医の携帯電話番号をおそらく知らないでしょうが、ハンデルス銀行のアドバイザーの番号は持っていて、週末であっても電話をかけることができます。また、医師の第一の誓いが「患者の害になることはしない」であるのと同じく、ハンデルス銀行のアドバイザーは、ある商品を顧客に販売するにあたり、関連商品やサービス、あるいは、組み合わせ商品を同時に販売する事をせず、自社の金融商品が市場で最も良い選択肢でない時や、顧客に適していない場合は、それらを勧めることはありません。そして、医師と同じように、ハンデルス銀行が自社のサービスを広告宣伝することもありません。

その他の方法も含め、ハンデルス銀行は、このような活動を現在までに47年間続けてきたことで、収益の面で毎年競合他社を上回っています。さらに、1900年以降の数万社に及ぶ上場企業の株価について、ロンドンビジネススクールが集めたデータに基づいた研究によると、ハンデルス銀行の株価は190万倍に増えており、この研究の対象期間においては、世界で最も高い伸び率になりました。こういった素晴らしい結果について、ハンデルス銀行の幹部に意見を求めると、「顧客を第一に考える、という我々の文化や価値に基づいた、組織的なシステムによって生まれた結果にすぎません。」とさらりと語りました。

前述の、エーザイは株式公開企業であるものの、薬の製造や販売の目的は、収益を最大化することではありません。それよりも、薬によって患者やその家族の苦しみを和らげることを目指しています。エーザイが他の製薬会社と違うところは、考え方だけではなく、その活動にも表れています。内規で示されている「利益の最大化」を「社会的目標の達成」に置き換えることについて、株主集会で賛否を問い、75%の株主から賛同を得たのです。

また、エーザイは自社の各事業活動が、経済的目標ではなく社会的目標の達成を目指すように組織改革を実施。逆説的に、あるいはむしろ当然の結果として、この改革は経済的にも目覚ましい成果をもたらしました。つまり、エーザイは組織的に発展し、世界第30位の製薬会社から、今では20位まで成長を遂げたのです。社会的目標に向かって最善を尽くせば会社は成功するだろう、と内規で示していることから、この改革は当然であり、実際その通りに成功しています。

このような例は、ハンデルス銀行とエーザイだけに留まりません。5年間に及ぶ研究プロジェクトを通して、資本主義的な概念そのものを見直している企業が数十社あることがわかりました。私たちは、それらを「利他的な企業」と呼んでいます。一言で表すなら、事業活動の大部分が、事業を取り巻く人や物に対して無条件に奉仕するものであり、また、この徹底した姿勢によって、経済的に成功している企業ということです。顧客、サプライヤー、地域コミュニティー、知識を蓄積してきた年配世代、地域の若者、株主など、利他的な企業はこれらの人々に無条件で奉仕するために、自らの事業活動を考えていくのです。

言い換えるなら、利他的な企業は社会的価値の追求を、事業の核心部分として捉えており、副次的なプログラムとして、あるいは、経済的価値の追求も同時に目指しながら取り組むのではありません。

「顧客を大事にすれば、顧客も会社を大事にしてくれる。」という古いことわざがあります。数十社の企業を研究してきた私たちが言えることは、「他者、つまり会社を取り巻く人々を大事にすれば、それらの人々も会社を大事にしてくれる。」ということです。確かに、このようなビジネス哲学を選択するには、それを信じて思い切ることがビジネスリーダーに必要です。ただ、フランスの詩人で政治家のヴィクトル・ユーゴーは語っています、「理想郷は明日の現実である」と。