仕事と働き方の未来

報告書が示す、グローバルな混乱下の人材戦略

チーフ・ピープル・オフィサー(CPO)は、長期的な変革と並行して慎重な短期戦略を採用しています。

チーフ・ピープル・オフィサー(CPO)は、長期的な変革と並行して慎重な短期戦略を採用しています。 Image: REUTERS/Parth Sanyal (INDIA EMPLOYMENT BUSINESS TRANSPORT)

Isabelle Leliaert
Manager, Work, Wages and Job Creation, World Economic Forum
本稿は、以下センター (部門)の一部です。 ニューエコノミーとソサエティ
  • 地政学的経済の不確実性と急速な技術革新の中、チーフ・ピープル・オフィサーは採用活動と組織再編を一時的に停止しています。
  • 一方で、AIの導入、人材不足、変化する従業員の期待が、現在の人材戦略における主要な課題を定義しています。
  • チーフ・ピープル・オフィサーは、組織構造の再構築、企業文化の変革、人間中心のAI活用を優先することで、長期的な変革に向けた準備を進めています。

地経学的な変動、AIの急速な進歩、人口動態の変化により、企業は人材を採用、育成し、定着させる方法の見直しを迫られています。

グローバルな労働市場の混乱が続く中、組織は将来的な構造変革の基盤を整えつつ、まずは現在の不確実性に対処するため活動を一時停止。多くの雇用主は、地経学的な変動や急速な技術の変化に対処するため、採用や組織再編の決定を遅らせています。同時に、長期的な組織のレジリエンスには、職務設計、人材育成、労働力戦略の再考が不可欠であるという認識が高まっています。

短期的な慎重姿勢と長期的な変革

グローバルな労働市場における継続的な混乱を受け、世界経済フォーラムはシリーズ初となる報告書『チーフ・ピープル・オフィサー・アウトルック2025(Chief People Officers Outlook 2025)』を発表。人事部門のトップリーダーや組織の対応策を分析すると同時に、現在の人材戦略の状況をまとめました。

調査結果からは、短期的な慎重姿勢と長期的な変革の必要性という二面性が明らかになりました。

近年のデータが、この慎重な姿勢を裏付けています。労働市場は凍結の兆しを見せており、採用率と離職率低水準。同報告書によると、多くの組織が、変化する環境の評価、地経学的な不確実性の対応、技術の急速な進歩への対応を進める中で、採用や再編の決定を延期しています。

チーフ・ピープル・オフィサー(CPO)たちに今後1年間における労働市場の見通しについて尋ねたところ、明確な合意は見られず、現在の不確実性が浮き彫りとなりました。

『チーフ・ピープル・オフィサー・アウトルック2025(Chief People Officers Outlook 2025)』(2025年9月)
『チーフ・ピープル・オフィサー・アウトルック2025(Chief People Officers Outlook 2025)』(2025年9月) Image: World Economic Forum

ただし、現状は慎重姿勢が支配的な中でも、継続的な混乱を乗り切り、長期的な組織のレジリエンスと成功を確保するために、長期的な変革に向けた投資の必要性が強調されました。

現在は慎重な姿勢が基調ですが、長期的なチャンスは変革にこそあります。

あるチーフ・ピープル・オフィサーの意見

構造的変化を促す課題

この不確実性の背景には、組織の優先事項に影響を与える構造的課題が存在します。チーフ・ピープル・オフィサーたちは特に、AIの導入、人材不足、変化する労働力の期待という3つの要因を挙げました。

AIの導入

同フォーラムの『仕事の未来レポート2025』によると、テクノロジーは依然として最も変革的なトレンドの一つです。全体的な楽観論がある一方で、2025年5月から6月にかけて実施されたチーフ・ピープル・オフィサーへの調査では、人材リーダーたちが従業員にとっての複数の短期的リスクを指摘。上位3つのリスクは、以下のとおりです。

  • 従業員が新しいテクノロジーに追いつくために、適応やスキルアップを十分に迅速に行うことができない可能性。
  • AIへの過度の依存によるキャリア停滞やスキル衰退への懸念。
  • 倫理上、データプライバシー上の懸念。

最も懸念されているのは、従業員が新しいテクノロジーに追いつくために、適応やスキルアップを十分に迅速に行うことができない可能性があることです。これに続いて、AIへの過度の依存によるキャリア停滞やスキル衰退への懸念が挙げられ、倫理上、データプライバシー上の懸念が続きます。

また、同報告書において、チーフ・ピープル・オフィサーたちは、格差の拡大を回避し、良好な成果をもたらすために、意図的かつ人間中心のAI戦略の重要性を強調しています。

『チーフ・ピープル・オフィサー・アウトルック2025(Chief People Officers Outlook 2025)』(2025年9月)
『チーフ・ピープル・オフィサー・アウトルック2025(Chief People Officers Outlook 2025)』(2025年9月) Image: World Economic Forum

人材不足

世界的な規模で見ると、人材の供給状況や分布は依然として不均一であり、人口動態の変化やスキルギャップが人材不足をさらに深刻化。各国政府は国家戦略を通じて熟練人材の誘致と育成を競い合う一方、グローバル企業はより柔軟な労働力モデルを採用しています。

同報告書において、チーフ・ピープル・オフィサーたちは、分散型チーム、リモート/ハイブリッド勤務、国境を越えた協業を活用する先見性のあるグローバル戦略の重要性を強調し、競争力を維持する必要性を訴えています。

現在の環境において、労働力のレジリエンスは、地域レベルだけでなくグローバルな人材戦略によって支えられる必要があります。

あるチーフ・ピープル・オフィサーの意見

変化する労働者の「期待」

本報告書において、人事リーダーたちは、2025年半ばにおける人材戦略の形成に、労働力の期待の変化がどのように影響を与えているかを指摘。特に若い世代の労働者は、新たな価値観を持って労働市場に参入しており、柔軟性と社会的意義をより重視する傾向が強まっています。

あるチーフ・ピープル・オフィサーは次のように述べています。「現代の人材は自信に満ち、十分な情報を持ち、自らの選択に一切の妥協をしません。彼らは自分が求めるものを明確に理解しており、自分に合わないものからは即座に離れていきます」。

期待が変化する一方で、多くの地域や業界で求人倍率が低いという矛盾した状況が生じており、これは高い主体性と選択肢の拡大と同時に、雇用の不安定性が増大しているというパラドックスを生み出しています。

リーダーたちは、より深い社会的、心理的変化も報告しています。メンタルヘルスへの懸念の高まりや、組織内での価値観の分極化が進んでおり、職場のダイナミズムが再構築されつつあるからです。テクノロジーは、こうした傾向を加速させると同時に、従業員と組織のつながり方、コミュニケーション方法、帰属意識のあり方を再定義する役割を担っています。

戦略的課題としての変革

こうした課題に対応するため、チーフ・ピープル・オフィサーは、組織構造、職務設計、企業風土の根本的な見直しを優先課題としています。本調査では、今後1年間を対象とした以下の3つの優先事項が明確になりました。

  • 組織構造と職務設計の見直しを実施すること。
  • 企業風土に焦点を合わせ、企業の存在意義と社会的影響を明確に伝えること。
  • AIとプロセス自動化の労働力への導入を支援すること。

現在の組織構造や人材活用モデルは、今後の経済環境や労働市場のニーズにもはや十分に応えられなくなっています。現在の課題は、変革の必要性をさらに加速させています。この移行プロセスは複雑ではありますが、よりレジリエンスが高く、包摂的かつ柔軟な働き方を構築する機会でもあるのです。

同報告書は、現在が慎重さを特徴とする一方で、未来には大胆な変革が求められることを示しています。正確なデータ、整合性のある戦略、責任あるリーダーシップ、継続的なイノベーションが不可欠となるでしょう。これは単なる適応の時ではなく、再設計の時です。チーフ・ピープル・オフィサーは今後の変革を形作り、推進し、リードする上で極めて重要な役割を担う立場として、存在感が高まっています。

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