金融と通貨システム

2025年のサステナブルファイナンス~グローバル市場の再定義~

サステナブルファイナンスにより、食料システム、自然、産業、インフラ分野への資本流入が増加しています。

サステナブルファイナンスにより、食料システム、自然、産業、インフラ分野への資本流入が増加しています。 Image: Unsplash/Chris Czermak

Derek Baraldi
Head of Sustainable Finance, World Economic Forum
Priyanka Ramchurn
Specialist, Sustainable Finance, World Economic Forum
本稿は、以下会合の一部です。持続可能な開発インパクト会合2025
  • サステナブルファイナンスは成熟期を迎え、食料システム、自然、産業、インフラ分野への資本流入が加速する中で、主流となる市場へと発展しています。
  • 自然環境と産業の変革が、環境再生型農業から化石燃料フリー鋼まで、投資可能な機会を創出しています。投資可能なパイプラインは各セクターで拡大中です。
  • 持続可能な開発目標(SDGs)、インフラ、ネイチャーポジティブ経済への転換にかかる数兆ドル規模の資金は未充足であり、主要投資家は持続可能性を中核戦略に組み込んでいくと考えられます。

2025年、持続可能性は地政学や選挙といった、ニュースを席巻する話題の影に隠れていました。ただし、持続可能な社会に向けてグローバルな課題の解決に資金を提供する金融の仕組み、サステナブルファイナンスの勢いは衰えていません。

サステナブル債の発行額は2024年に1兆ドルを突破し、5年連続で過去最高を更新しました。また、自然保護分野への民間資金は2020年比で11倍以上に拡大。リスクがより鮮明化する中でのこの資本流入の継続は、単なる善意以上の意味を持ちます。

異常気象、食料不安、自然喪失が経済とポートフォリオを大きく変化させており、レジリエンスは選択ではなく財務上の必須要件となっているのです。

自然金融はもはや新興分野ではありません。早期に行動する者は、市場を定義するルール形成に貢献すると同時に、リターンを獲得できるでしょう。

本年は、成果に向けた再調整の年となります。資本は食料システム、自然、産業、インフラへと流入し、投資と企業金融に持続可能性をより深く組み込んでいます。

利用可能な解決策、強まる需要のシグナル、測定可能性が高まる機会を前に、現在の課題は実行力にあります。銀行、投資、政策のリーダーたちには、迅速に解決策を拡大するための限られた機会が訪れています。この道筋を堅持する者こそが、ポートフォリオを保護し、明日の市場における先行者利益を獲得するでしょう。

実体経済との連携

食料システムの変革に向けた資金供給

投資家は、実体経済へと資本を集中させており、中でも食料システムが最優先課題として浮上しています。

食料はグローバル経済の基盤であり、国内総生産の10%、雇用の40%を占めています。一方で、干ばつ、洪水、サプライチェーンの混乱がインフレを加速し、市場を不安定化させるなど、食料システムは極めて脆弱です。

その変革は、不可欠なものであると同時に大きな機会でもあります。環境再生型農業、レジリエンスの高い畜産手法、森林破壊のないサプライチェーンは、新たな市場を開拓し、収益源を多様化し、ポートフォリオの強化につながるからです。

モメンタムはすでに現れています。気候政策イニシアチブによると、食農システム向け気候ファイナンスは2019年以降に300%以上増加し、年間950億ドルに到達。一方、官民の資金を組み合わせて調達するブレンデッド・ファイナンスの仕組みにより、新興市場全体に年間数十億ドルの資金が呼び込まれています。

資本が活用されつつあることを示す事例も増加しています。

イタリアでは、インテサ・サンパオロ銀行が230億ユーロのプログラムにより、国内172の食農サプライチェーンに低金利融資を拡大。東南アジア諸国連合(ASEAN)域内では、「グロウビヨンド(GrowBeyond)」がブレンデッド・ファイナンス商品により小規模農家を支援し、アフリカでは「アクセリ・アフリカ(Aceli Africa)」が150万人の農家と労働者に3,500件、3億ドルを融資しています。

こうした進展はあってもまだ、食農システムには今後5年間、1年当たり1.1兆ドルが必要とされており、現在、充足しているのはわずか5%未満。このギャップを埋めることは極めて重要であり、その道筋も分かっています。

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ネイチャーポジティブ経済への転換に向けた資金調達

世界の大手資産運用会社は、生物多様性、水、土壌といった「自然資本」が長期的なパフォーマンスの基盤であると認識するようになりました。

世界経済フォーラムの試算によると、ネイチャーポジティブ経済への転換により、2030年までに年間10兆ドルのビジネス価値と約4億人の雇用創出が見込まれます。

その実現には、年間最大2.7兆ドルが必要です。資本の流入は加速しており、自然保護のための民間資金は、2020年の94億ドルから2024年までに1,000億ドル以上に拡大する見込みです。

自然がグローバル経済の基盤であることを踏まえて、投資家のポートフォリオ評価には自然要素が統合され始めており、長年の「データギャップ」が解消されつつあります。同時に、食農、化学から鉱業、水資源に至るまで、新たな資金調達モデル、政策枠組み、リスク分担メカニズムに支えられ、投資可能な機会のパイプラインが各セクターで拡大しています。

規制面でも進展が見られます。欧州連合(EU)の「企業サステナビリティ報告指令」、欧州銀行監督機構の「環境・社会・ガバナンス(ESG)ガイダンス」、「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFDD)」は、自然関連リスク報告に対する期待値を引き上げています。

自然金融はもはや新興分野ではありません。早期に行動する者は、市場を定義するルール形成に貢献すると同時に、リターンを獲得できるでしょう。

産業脱炭素化に向けた資金調達

ネットゼロを達成するには、重工業と運輸分野への取り組みが不可欠です。鉄鋼、セメント、アルミニウム、航空、海運、化学産業は、グローバルな二酸化炭素排出量の3分の1以上を排出。これらのセクターは脱炭素化が最も困難な分野に属し、依然として化石原料とエネルギー集約型プロセスに依存しています。

低炭素材料に必要な1.6兆ドルに対し、動員された資金はわずか2,500億ドルに留まっており、進展は遅れています。グリーン水素、持続可能な航空燃料、グリーンアンモニアなどのクリーン技術は存在しますが、特に新興国では、初期費用の高さ、需要の分散、供給網の脆弱さにより、規模拡大が制約されているためです。

脱炭素化を進める重要性は明らかです。遅れれば、資産の陳腐化、サプライチェーンの混乱、成長機会の喪失を招くリスクがあるのです。

金融リーダーたちにとって、これは市場の保全であると同時に、市場を形成することでもあります。

そのモメンタムは高まりつつあります。スウェーデンの製鉄企業であるハイブリット(HYBRIT)は自動車メーカーのボルボに化石燃料フリー鋼を供給。海運業のマースクはメタノール燃料船を運航し、セメント会社のセメックスはラテンアメリカ全域で低炭素セメントを展開しています。

各国政府も市場形成に動いています。例えば、欧州連合の炭素国境調整メカニズムは貿易ルールを再構築し、日本の「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律(GX推進法)」は補助金を誘導。インド、ブラジル、オーストラリアは、グリーン水素を用いて直接還元法で製鉄を行う「グリーンアイアン」と水素ハブに注力しています。

金融分野も追随しており、複合資本型投資手法、航空燃料価格の下限設定、海運、産業クラスター向けリスク軽減モデルが進行中です。これらの動きは、需要のシグナル、政策支援、革新的な金融が融合し、パイロット事業から本格的な産業変革へと移行しつつあることを示しています。

インフラ向け資金調達

転換における次のボトルネックは、再生可能エネルギーの容量ではなく、エネルギーをユーザーまで供給し、安定化させるインフラです。エネルギー転換を支える基盤である、近代的な送電網、長時間蓄電システム、レジリエンスの高い港湾、デジタルプラットフォームには、2030年までに年間6,000億ドルの資金が必要とされますが、現状、充足していません。

すでに欧州では送電網の混雑により再生可能エネルギーの導入が遅れており、グローバル・サウスでは電力不足が成長と普及の制約となっています。投資家にとって、これらの資産は安定したインフレ対策リターンと構造的な影響力を兼ね備えたものであり、インフラはポートフォリオの安定化要因かつ成長機会となります。

送電網を高度化することにより、エネルギーの損失を削減し、未活用のクリーンエネルギーを有効活用することができます。また、蓄電システムは変動を平準化し、デジタルプラットフォームは利用効率を最適化することで、ポートフォリオを混乱から守ります。つまり、インフラこそがレジリエンスとリターンの交差点なのです。

開発のための資金調達

2030年までに国連の持続可能な開発目標(SDGs)を達成するには、公的予算をはるかに超える年間4兆ドルの追加資金が必要です。スペインのセビリアで開催された10年に1度の「開発資金国際会議」において、各国首脳は多国間開発銀行の融資能力を3倍に拡大し、公的資本に加えて民間資本を動員するブレンデッド・ファイナンスの活用を強化する方針を再確認しました。

投資家にとってこれは、開発銀行や金融機関が初期リスクを吸収する形で、新興国や開発途上国における投資機会が拡大することを意味します。開発金融は、単なる援助から、気候変動対策や持続可能性目標に沿った、拡張性と投資可能性を備えた成長の基盤へと移行しつつあるのです。

金融機関へのメッセージ

金融の次なる時代は、目をひく見出しではなく、規律によって定義されるでしょう。食料、自然、産業、インフラの各分野で投資可能な機会が生まれつつあり、資本はすでに流入を始めています。試金石となるのは、どの機関が信念を持ってその道を進み続けるかです。

金融リーダーたちにとって、これは市場の保全であると同様に、市場を形成することでもあります。持続可能性を中核的実践として組み込み、政治的な変動期にも揺るがず、野心を実行に移すためのスキル、データ、パートナーシップを構築する機関こそが、長期的な優位性を獲得することができるのです。

未来は公約ではなく、持続性によって築かれるものです。忍耐と目的を持って行動するリーダーたちは、強靭なリターンを実現し、包括的かつ安定したネイチャーポジティブな金融システムの形成に貢献するでしょう。

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