気候変動対策

南アジアの水不足、地下水を取り戻す3つの方法

干上がったパキスタンのシランダ湖は、南アジアが直面する深刻な水不足問題を如実に物語っています。

干上がったパキスタンのシランダ湖は、南アジアが直面する深刻な水不足問題を如実に物語っています。 Image: Sikander Bizenjo

Sikander Bizenjo
Manager, External Engagements, Engro
本稿は、以下センター (部門)の一部です。 自然と気候
  • 水不足や干ばつは、地域に壊滅的な影響を及ぼします。植生が失われ、生計の手段がなくなり、 人々は移住を余儀なくされるためです。
  • 特に、気候変動の影響に対して世界で8番目に脆弱なパキスタンのような国は、大きなリスクにさらされています。
  • 一方で、南アジア諸国の天然地下水資源を増加させることのできる、低コストで拡張可能な解決策が存在します。

毎日何マイルも歩いて飲料水を汲みに行かなければならない、パキスタン南西部にあるバルチスタン州の農村地域の家族たち。彼らは、気候危機の深刻さを身をもって体験しています。2025年5月、州内で活動する草の根組織「バルチスタン・ユース・アクション委員会(BYAC)」の有志47人が、同州のクエッタで2日間にわたるサミットを開催。この地域が直面する、最も差し迫った気候関連課題を特定するためです。水不足と干ばつが、最優先課題として取り上げられました。

パキスタンでは、家庭で使用される水の70%が、地下水に依存しています。皮肉なことに、今や日常的に発生する洪水と、雨季の豪雨にもかかわらず、地下水は依然として不足しています。

ドイツのNGOであるジャーマンウォッチが発表した「世界気候リスク指標」において、パキスタンは、気候変動の影響に対して世界で8番目に脆弱な国に挙げられます。さらに、バルチスタン州のような農村地域は、この危機の最前線にあることが多いのです。世界中で見られる傾向として、社会的弱者のコミュニティが気候変動の影響を最も強く受ける立場に置かれています。ある20歳のBYACメンバーは、この現状を次のように表現しました。「水があればこそ、命があるのです」。

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水不足はあらゆる面に壊滅的な影響を及ぼし、干ばつや水不足が人々の移住、植生の喪失、生計手段の喪失という大きな課題をもたらしています。一方、低コストかつ拡張可能な解決策は存在します。パキスタンのような南アジア諸国において、自然の地下水資源を増加させるために役立つ3つの具体的解決策は、以下のとおりです。

1. 浸透桝の設置

浸透桝(ます)とは、小さな掘削穴を石や砂利で満たしたもので、スポンジのように機能し、雨水を自然にろ過して地中への浸透を助けます。アフリカのサハラ砂漠南縁部に広がるサヘル地域で「ザイ・ピット」として知られる浸透桝は、伝統的な雨水貯留、土壌改良技術です。乾季に農家が幅20~40cm、深さ10~20cmの小さな貯水池を、1ヘクタールあたり約12,000~25,000個掘ることにより水の保持能力を向上。これらが雨水を捕捉し、自然の地下水を補充するため、乾燥条件下でも作物をより効率的かつ持続的に栽培できるようになるのです。

ザイ・ピット
ザイ・ピット Image: Brandon Lingbeek

2. 涵養井戸による地下水涵養の促進

地下水涵養とは、降雨や地表水が地中に浸透し、帯水層を補充することで長期的な水資源の確保を可能にする自然のプロセスです。これを促進することにより、地下水位を上昇させると同時に、豪雨時には排水システムとして機能し、都市部の洪水被害を軽減する効果があります。パキスタン政府は、試験的に50基の「涵養井戸」を設置。わずか1年足らずで1,000万ガロン以上の水を保全することに成功。この低コストな手法は、都市部と農村部の両方で効果を発揮します。また、住宅団地や政府機関、企業のオフィスなどでも簡単に設置でき、雨天時に水が補充されて地下水位全体の向上に貢献します。

パキスタンに設置された人工地下水涵養井戸
パキスタンに設置された人工地下水涵養井戸 Image: Zofeen T. Ebrahim

3. 在来種の植樹

在来種の樹木を植えることによって、土壌の透水性を向上させ、雨水の浸透を促進します。これにより、自然の地下水位が改善され、地表水の流出量も減少します。インドのアラバリ丘陵地帯では、乾燥地帯に自生する同国固有種の低~高木、ドーク(Anogeissus Pendula)などの植林活動により、地下水位が大幅に改善され、季節によって現れる小川も復活しました。このような在来樹木の植樹は、地下水涵養の促進、生物多様性の向上、気候変動に対するレジリエンスの強化という三重の効果をもたらす優れた解決策です。

こうした取り組みには、低コストであること、地域社会主導であること、迅速に展開可能であること、という3つの共通した特徴があります。南アジア諸国の政府、NGO、企業パートナーは現在、このようなモデルを拡大展開し、人々が住み慣れた故郷を離れざるを得なくならないよう、気候変動の影響を未然に防ぐ必要があるのです。

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