難民は経済の担い手〜難民への投資が成果を生む理由〜

多くの難民はデジタルスキルを有しているか、迅速に習得可能です。 Image: UN Women/Christopher Herwig
- 難民への支援と保護を提供することは、法的および倫理的な義務であると同時に、グローバル・パブリック・グッズでもあります。
- 一方、難民の増加、国内での緊張、収益確保の必要性といった課題がある中、国や企業はなぜ難民を雇用することに「善意」以上の価値を期待できるのでしょうか。
- 難民が社会的・経済的に包摂されれば、地域社会や労働力、GDPなどに対して多くの恩恵をもたらすことができます。
難民は恩恵か、それとも負担か。この鋭い問いは、2016年にケニア・トゥルカナ郡のカクマ難民キャンプで実施された共同調査で提起されました。
以降、新たな危機や長期化する紛争により、過去13年間にわたり世界の難民数は毎年増加し続けており、この問いはますます切実なものとなっています。
難民の雇用促進は、決して容易ではありません。多くの場合、難民が有するスキルや学位が正式に認められていないからです。主に経済的な機会を求めて移動する経済移民とは異なり、難民は戦争、暴力、迫害から逃れてくる人々です。彼らの多くがたどり着くのは、経済発展が限られ、雇用機会が乏しい中低所得国の地域です。
難民への支援と保護の提供は、法的および倫理的義務であると同時に、グローバル・パブリック・グッズでもあります。一方、各国政府にとっては、この国際的責務と自国の優先課題とのバランスを取ることが難題です。
世論もまた、雇用や公共サービスを自国民のために確保することを重視する傾向にあり、経済的・社会的な不安が高まる局面では、難民を政策やプログラムに組み込むことが政治的に難しくなります。企業においても、難民雇用の利点を認識しつつ、収益や株主への責任を踏まえた判断が求められます。
では、国家や企業はなぜ、難民を雇用することで単なる「善意」」に止まらない価値を期待できるのでしょうか。
1. 消費者が支持
難民支援に取り組む企業連合「Tent Partnership for Refugees(テントパートナーシップ・フォー・レフュジーズ)」の最近の調査によると、難民を支援する企業への支持が各国で高まっています。たとえば、アメリカでは、回答者の40%が「難民を雇用する企業の商品を購入したい」と回答。ヨーロッパ(7カ国平均)では51%、メキシコでは74%に上りました。
2. 企業にとっての必要性
マレーシアでは、マレーシア経営者連盟をはじめとする経済団体や企業が連携し、UNHCRに登録された難民や庇護希望者に合法的な就労を認めるよう政府に要請しました。これにより、GDPが年間少なくとも30億マレーシアリンギット(約6億7,600万ドル)拡大し、年間5,000万リンギット(約1,130万ドル)の税収増が見込まれると試算されています。
3. 受け入れ地域への恩恵
前述した世界銀行・UNHCRによる2016年の調査では、ケニア・トゥルカナ地域におけるカクマ難民キャンプの経済効果を分析。難民の存在により域内総生産(GRP)は恒常的に3.4%増加し、雇用も2.9%上昇しました。すべての人に均等な恩恵がもたらされたわけではなく、課題も存在した一方、同報告書では「難民の存在により、地域住民(トゥルカナ人)の消費、自認する所得、資産保有が増加した」と結論づけており、受け入れ地域にとって明確なプラス効果が確認されています。
4. 難民の就労が成果に
難民の55%以上が、就労の権利が制限された国で暮らしています。一方、コロンビアでは、2018年に約50万人の書類のないベネズエラ人に就労許可を含む法的地位を付与。その結果、彼らの所得は31%、消費も60%増加し、コロンビア国民の正式雇用への影響はほとんどありませんでした。
5. 難民による経済成長
2024年の世界銀行とUNHCRの共同報告によると、避難を余儀なくされたベネズエラ人は、2017年から2030年にかけて、ラテンアメリカおよびカリブ海地域の主要な受け入れ国のGDP成長率を、平均で年0.10〜0.25ポイント押し上げると見込まれています。
6. 投資効果が倍増
経済学者フィリップ・ルグラン氏による2016年の報告書「Refugees Work: A Humanitarian Investment that Yields Economic Dividends(難民は働く:経済的利益をもたらす人道的投資)」では、難民が受け入れ国にもたらす経済的利益が強調されています。同報告書では、IMFの試算を引用し、EU加盟国による難民・護希望者への追加支出が2016年に、EUのGDPを0.09%、2017年には0.13%押し上げたと分析。2015〜2020年の難民受け入れ費用と、それに伴うGDP増加を比較した結果、同氏は、「難民支援に1ユーロを投資すると、5年以内に約2ユーロの経済的リターンが得られる」と結論づけています。
7. デジタル領域での可能性
ルグラン氏の別の調査では、難民が低スキル・低賃金の仕事から、富を創出する新規ビジネス(地元住民を雇用する場合もある)、高度な専門職に至るまで、あらゆる経済活動レベルにおいて働いていると指摘。多くの難民はデジタルスキルを有しているか、迅速に習得可能であり、遠隔学習、オンライン語学教育、プログラミング講座などに参加しています。オンライン上で生計手段にアクセスできるという特性は、雇用の未来そのものに変革をもたらす可能性を秘めています。
では、難民の潜在力をどのように引き出すことができるのでしょうか。何がその障壁となり、どうすればそれを乗り越えられるのでしょうか。
難民の可能性を解き放つためには、法的・制度的に経済的包摂を実現するための環境整備が必要です。各国政府がその基盤を整えた後には、インフラ格差への対応が次の重要課題となります。とりわけ、最も貧しい国々では、通信、交通、電力、ITといったインフラが不足しているだけでなく、教育へのアクセスが限られているため、熟練労働者や教育を受けた人材が不足しています。こうした背景のもとUNHCRは、各国政府、企業、NGO、難民当事者、慈善団体、金融機関などが連携するアライアンスの形成を呼びかけています。その目的は、経済的包摂、教育、デジタル接続、気候変動へのレジリエンス、資金調達などの優先課題において、協力して解決策を生み出すことにあります。
難民はスキル、資格、意志、そして起業家精神を持っています。避難による「いま」の課題だけでなく、難民が持つ能力をビジネスや市場に生かす「これから」に目を向けることができれば、難民が「恩恵か、負担か」という問いへの答えは、明白です。