世代を超えたリーダーシップが、ビジネス、イノベーション、レジリエンスを再定義する理由とは

世代を超えたリーダーシップは、ガバナンスの新たな柱として台頭しています。 Image: World Economic Forum / Greg Beadle
- 意思決定の場で若手リーダーを含む最適な年齢多様性を実現することで、企業価値を最大1.8%向上させることが可能です。
- こうした利点にもかかわらず、多世代が参加する企業の取締役会はまだ十分に存在しておらず、63歳である取締役の平均年齢はさらに上昇しています。
- 世界経済フォーラム年次総会2025では「 GAEA Intergenerational Leadership award(GAEA異世代間のリーダーシップ賞)」が新たに設けられました。これは、異なる世代が協力してリーダーシップを発揮することの重要性がますます認識され、組織運営の中心的な要素として注目されていることを示しています。
テクノロジーの進展、レジリエンスを脅かすリスク、社会的期待の変化が加速する中、企業は将来に備えた戦略の構築に取り組んでいます。
こうした状況の中、次世代の若者をガバナンスに取り込むことは、戦略的でありながらも十分に活用されていない手段のひとつです。デジタルへの高い適応力、起業家精神、さらには社会的インパクトへの強い関心を備えた若者たちは、新たなトレンドの把握、イノベーションの促進、そして未来志向の視点を取締役会にもたらす上で独自の強みを発揮します。
さらに、若者の起業意欲は高まりを見せています。最新の調査によると、若年層の10人中6人が30歳までに起業を目指し、米国では18〜35歳の人々が他の年代よりも高い起業率を示しています。彼らは環境への悪影響を最小限に抑え、社会的インパクトを最大化することに強くコミットしているのです。
こうした若者主導の営利及び非営利の起業が増加する中、企業にとってはイノベーションのパイプラインを刷新し、ディスラプションリスクを回避する貴重な機会となっています。
一方、企業による若者との関わりやエンゲージメントを強化する取り組みは、実質的な統合やパートナーシップには至っておらず、企業のガバナンスはこの100年でほぼ進化していないとも言えるでしょう。
未だに取締役の選定において「経験年数」が最重要視されています。取締役の平均年齢は63歳であり、S&P500企業ではその平均年齢が上昇を続けています。これは、将来的な企業パフォーマンスや成長、レジリエンスを妨げる要因となるおそれがあります。
世代を超えたリーダーシップの可能性
Forbes誌は、「すべての世代が互いに提供できる価値を持っている」という考えに基づき、世代を超えたリーダーシップを「組織の成功の鍵」と位置づけています。この概念は多くの研究によって裏付けられています。
1. 財務および業務パフォーマンスの向上
研究によると、年齢の多様性を持つ取締役会と財務上の成果には関連があります。ニューハンプシャー大学の研究では、X世代の取締役を含む企業の取締役会は、総資産利益率や株価純資産倍率において、同業他社よりも優れた成果を示すことが明らかになりました。
同様に、PwCがオランダの11,000社を対象に行った調査では、いわゆる「ゴルディロックス(ちょうどよい年齢構成)」に近い年齢の多様性を持つ企業の取締役会は、実質的に高い健全性の比率を実現しており、同じ利益においてもよりリスクの低いバランスシートを維持できていることが示されました。
この調査では、調査対象企業がこの最適な年齢構成に到達した場合、企業価値の1.8%に当たる総額518億ユーロに相当する価値が新たに創出され得ると試算しています。
2. イノベーションとAIの時代
若年層のデジタルスキルと、ベテラン層の戦略的な判断力を融合することで、イノベーションと成長を加速することができる可能性があります。ミレニアル世代やZ世代は、生まれながらのデジタルネイティブかつ新技術の初期導入者である一方、ベビーブーマー世代やX世代は業界の深い知見を有しています。
MITスローン経営大学院、アーンスト・アンド・ヤング、デロイト、Google Workspaceなどの調査では、若年層が新技術の導入、運用において主導的な役割を果たしており、生産性を最大で40%向上させることが示されています。
マッキンゼーの報告によると、人工知能(AI)の分野では、18〜44歳の50〜62%が生成AIツールに「高度に精通している」と自己評価しているのに対し、65歳以上ではわずか22%にとどまっています。また、若年層は同僚への技術的サポートやメンタリングにも積極的であり、組織全体のデジタルリテラシー向上にも寄与しています。
AIが今後4.4兆ドルの生産性を生み出すと予測される中、若年世代を意思決定の場に取り込むことは、企業がデジタル時代に適応し、持続的に成長するうえで不可欠です。
3. レジリエンスと企業の社会的責任(CSR)
世代を超えたリーダーシップは、企業の社会的責任(CSR)の成果向上とも一貫して関連しています。50本以上の実証研究を対象としたメタ分析では、多世代構成の取締役会が企業のサステナビリティ・パフォーマンスを改善する傾向にあることが明らかになっています。若い取締役は、社会的・環境的リスクにより敏感であることが多く、取締役会がこうしたリスクに対してより的確に対応できるよう支援します。
この研究によると、高齢化した取締役会は意図せずCSRへの対応を阻害することがあり、65歳以上の取締役を若い世代のメンバーに交代させることで、CSRパフォーマンスが15%向上する可能性があると示されています。これは主に、若年層がビジネスにおける環境リスクに対してより迅速に対応する傾向があるためです。
国連ユース・オフィス、ザンクトガレン・シンポジウム、ローマクラブによる研究もまた、異世代間のリーダーシップが組織のレジリエンスを強化し、「トリプルボトムライン(人・地球・利益)」におけるイノベーションを促進することを裏付けています。
世代を超えたリーダーシップは、学術的な概念から、行政委員会や取締役会における具体的な実践へと移行しつつあります。
”従来型のユース・エンゲージメントを超えて
企業はこれまで、若年世代との関わりを主に以下の目的で設計してきました。
- 将来の人材パイプラインの構築
- 新たな消費者トレンドの把握
- ハッカソンやコンペティションを通じたアイデアの獲得
こうしたプログラムは、スキルやイノベーションを育む点で確かな価値を提供してきました。一方、より深い統合やパートナーシップ、継続的な対話は、企業にさらに大きなメリットをもたらす可能性があります。
たとえば、世界中の120万人以上のリーチを持つ100人超の若手エコプレナー(環境起業家)からなる「#GenerationRestoration Youth Hub(#再生世代によるユース・ハブ)」は、次のようなパラダイムシフトを訴えています。リーダーシップはもはや個人のものではなく、世代、地域、業種を超えて共有されるべきものです。
世代を超えたリーダーシップへの道筋
50人を超える最高経営責任者(CEO)および最高サステナビリティ責任者(CSO)が、世界経済フォーラムの#GenerationRestoration Youth Hubに参加する若手リーダーたちと共に、企業がどのように意思決定の場に若い世代を組み込めるかを議論しました。そこから、企業が取るべきいくつかの道筋が見えてきています。
対話と協議
定期的な協議を通じ、企業はAI倫理、サステナビリティ、そして変化する社会的な期待といった重要な世代間インサイトに柔軟かつ迅速に対応できる協働体制を構築することができます。
世界経済フォーラムの#GenerationRestoration Youth Hubが促進するような、世代を超えた対話のための中立的なスペースは、企業が自らの前提を見直し、共創的な解決策を導き出し、連携の機会を見いだす場として機能します。
先進的な企業の一例として、Ingkaグループは、正式な協議の仕組みを通じて共有価値の創出を実現しています。Ingkaは、若年層ステークホルダーとの対話を進める中で世代を超えた対話のためのプレイブックを共に作成しました。このプレイブックには、世代間ギャップを埋め、共同アクションを促進するための実践的な戦略がまとめられています。
外部諮問委員会
外部の若年層諮問委員会は、企業が次世代の洞察を意思決定に組み込み、若いステークホルダーからの信頼を高め、社会的インパクト戦略を加速させる役割を果たします。
2021年以降、Inkgaグループの「Young Leaders Forum(ヤングリーダーズフォーラム)」は、若手起業家によるグローバルな若年層諮問委員会として、環境への取り組みを支援し、イノベーションの推進、説明責任の強化、そして企業のサステナビリティ活動における具体的な行動を促進したことで高く評価されています。
このアプローチは世界的に広がりを見せており、経済協力開発機構(OECD)、国連、国際自然保護連合(IUCN)などにおいて若年層の諮問機関が政策や戦略の形成に関わっています。
同様に、世界経済フォーラムの「1t.org 」プラットフォームは、森林保護と再生のミッションを推進するために、世代間ガバナンスを各評議会に組み込み、若い声が意思決定に反映される仕組みを確立しています。
正式な取締役ポジション
最も大胆でありながら、最も変革的な一歩は、若いリーダーを正式な取締役会のメンバーとして迎えることです。まだ珍しいものの、Meta、X、eBay、Warner Bros. Discovery、Expediaなどの先進的なテック企業では、若い取締役が急速な市場変化の舵取りを支援する例が増えています。
また、LVMH、フレーザーズグループ、フォードなどの創業者主導及びファミリー企業も、世代間ガバナンスを取り入れ、レガシーの継承と長期的な戦略的連続性の確保を図っています。
理論から実践へ
世代を超えたリーダーシップは、学術的な概念から、評議会や取締役会における具体的な行動へと移行しつつあります。協議、諮問役、取締役会の代表としての参加を通じ、若い世代を正式に巻き込むことは、従来のリーダーシップモデルからの転換を意味し、未来志向の組織にとっての専門性とメリットの幅を広げます。
その効果は明白です。異世代間のリーダーシップは財務パフォーマンスを向上させ、イノベーションを促進し、組織のレジリエンスを強化します。導入が進むにつれ、世代を超えたリーダーシップとガバナンスの重要性はますます高まっていくでしょう。