ヘルスとヘルスケア

リーダーがメンタルヘルスを気にかけるべき理由

Leaders must demonstrate strength through vulnerability, and wisdom by fostering safe and open workplaces

人間の弱い部分を受け止める強さを示し、安心できるオープンな職場環境の構築に知恵を発揮する、それがリーダーのあるべき姿。 Image: Mohamed Hassan/Pixabay

Sharmishta Sivaramakrishnan
Community Specialist, Young Global Leaders - Asia, World Economic Forum Geneva
Peter Vanham
Previously, Deputy Head of Media at World Economic Forum. Executive Editor, Fortune

「メンタルヘルス」は、話す相手によって様々な意味を持つ言葉です。身体面の健康と同様に、精神面の好ましい状態を示す語であるにもかかわらず、多くの人がメンタルヘルスを精神的な不調と混同しています。精神的な不調とは、例えば、親と疎遠になった息子が母親との会話を想像する時に頭をもたげてくる不安や、分断された世界に直面して新たな人生の選択を迫られている大学生が感じる気分の落ち込み、そして、若者の自己認識を変貌させてしまう双極性障害のような精神疾患など、様々な状態を指します。

一方、世界保健機関によると、メンタルヘルスとは、「ひとり一人が己の潜在能力を発揮し、生活上の通常のストレスに対処し、充実して生産的に働き、所属するコミュニティに貢献できる、満たされた状態」を意味します。

問題は、いわゆる生活上の「通常の」ストレスが、かなりのレベルに達しつつあること。新たなテクノロジーの発展により、今日のリーダーたちは、自己啓発や職場での人材開発における、豊富な機会を得た一方で、スマートフォンなどのツールへの依存度が増加し、孤独感や不安、抑うつにもつながる可能性があります。政治的な分断、気候変動、制度への不信感などにより、一層めまぐるしさを増していく世界において、これからの次世代は皆、大きな難局に立たされることになります。

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このような時代に必要とされるのは、人間の弱い部分を受け止める強さを示し、チームが心理的に安心できて、創造性を発揮でき、希望者は自分のメンタルヘルスについてオープンでいられる、そんな環境の構築に知恵を絞る、新たなタイプのリーダーシップです。

では、リーダーたちはどうやってそのような強さを示し、知恵を磨いているのでしょう?私たちは世界経済フォーラムのヤング・グローバル・リーダーズ(以下YGL)の4名の皆さんに尋ねてみました。いただいた回答からは、今日の難局を前にした、健全なリーダーシップにおける、極めて重要な3つの要素が浮かび上がってきます。

テレノール・ヘルスの最高事業成長責任者で、2019年のYGLクラスの一員でもあるマシュー・ギルフォード氏は、スタートアップ企業が直面する典型的な難題に加えて、メンタルヘルスに関する話題にまつわるスティグマ(差別や偏見)とも闘ってきました。リーダーひとり一人が己に寛容になることの重要性について、彼はこのように語っています。

生活のためであれ、教育や医療といった分野の向上のためであれ、人類の発展に関わる大きな難題に取り組んでいるリーダーたちが、ストレスや低い自己評価などの問題に苦しめられているのは、いささか皮肉なものです。目標に対して全力を尽くせておらず効果を上げる機会を逃してしまっているように感じたり、週70時間労働ですら十分ではないように感じたり、取り組んでいる問題の恐るべき規模に比べて、何も達成できていないかのような気分に容易に襲われてしまうこともあるでしょう。人間中心型のリーダーシップとは、そのような時に、感情的な意味で自身に寛容であろうとすること。チームに対してはなおのことです。人材開発の最も困難な部分は、時に自宅から始まるのです。

マシュー・ギルフォード

アンジュラ・マイア・シン・バイス博士も、2019年のYGLクラスの一員で、国際的な心理学者かつ、トラウマの専門家。人権に関する方針の策定を推進する活動に携わっています。時に利益第一主義が横行する冷淡な世界で、他者への共感を失わないでいるために、人間中心型リーダーシップを発揮するリーダーの重要性を語ってくれました。

リーダーシップは、何かの犠牲の上に成り立つようではいけないのです。例えば、お互いへの思いやりを犠牲にして、数字上の利益を考えるようなことはできません。

— アンジュラ・マイア・シン・バイス

では、YGLの皆さんが示唆する、人間中心型リーダーシップにおける、重要な3つの要素とは何なのでしょうか?

1. 文化:メンタルヘルスに関わる問題への差別や偏見を根絶し、個々人の状況への理解を推進する文化を醸成するのが、リーダーの役目

ビリー・マワシャ氏は、2017年のYGLクラスの一員で、アフリカ中でその名を知られたビジネスリーダーです。

セルフマネジメント、意識の向上、仲間や同僚のサポート、そして他者への気遣いに、とりわけ重きを置くのが私のアプローチです。重要なのは、メンタルヘルスに関わる問題がごく普通のものとして認識され、差別や偏見から解放されるような環境を構築すること。そのためには、リーダーとしての弱い部分も共有することが大切です。私自身が抱えている弱い部分や、それにどう対処しているかを、率直に同僚と分かち合うようにしています。今日のリーダーは、メンタルヘルスに関わる差別や偏見の根絶、利用しやすい支援サービスの提供を、より重視すべきだと思います。その実現には、率直で誠意ある取組と、メンタルヘルス分野へのリソース提供が必要です。

— ビリー・マワシャ

メンタルヘルスが誤解されたり、差別や偏見にさらされたりしている環境では、議論を正常化する上で、リーダーは特に重要な役割を果たすことになります。この点に関して、私たちはバングラデシュで、ソーシャルメディアやSMSなどの健康関連のコミュニケーション・チャネルを通して、独自のささやかなやり方で貢献しようとしています。

— マシュー・ギルフォード

2. 誠実さ:人々は偽りのないリーダーについていく

私たちは、人の発言内容ではなく、むしろ行動と人間性に注力しているということが、研究で実証されています。相手がありのままで己を偽らない人間かどうか見極める能力を、ひとり一人が生まれながらに持っているのです。自分にまつわる全てを見つめ直し、己がどんな人間か知って初めて、私たちは己の独自の能力を携え、世の中に出て行くことができるのです。

— アンジュラ・マイア・シン・バイス

ネハ・カーパル氏は、2015年のYGLクラスの一員で、メンタルヘルスに関わるより良いシステムをもたらすべく取り組んでいる、インドの起業家です。

人間中心型リーダーシップを発揮する有能なリーダーたるためには、地球、コミュニティ、ビジネスと組織、同僚、友人や家族、そして究極的には己自身へも、気配りを示さねばなりません。仕事と生活における、共感の姿勢の重要性を理解し、実践しなければなりません。他者の専門技術や知識を認める精神的な強さや成熟、そこから傾聴して学ぶ自身の能力を示す必要もあります。そして、こういったことが、単に人々の注目を集めるためだけの小細工ではない、社会的責任の下に行われていることをはっきりさせる必要があります。

— ネハ・カーパル

3. 内省とセルフケア:己を知り、セルフケアを怠らないのが、有能なリーダーの秘訣

疾病予防のために健康診断を受けるのと同じように、リーダーは、瞑想やヨガ、セラピー、気功、できればこれらを組み合わせて、積極的に自己探求の形を模索すべきです。[現代における問題の多くは]根本的には、一人で静寂の中、座して自己探求と内省を行うことができない人々が多いことに起因しているように思えます。

— アンジュラ・マイア・シン・バイス

メンタルヘルスは、全ての人間に関わりのある問題であり、そこに投資するのは、身体面の健康への投資と同じくらい重要です。しかしながら、多くのリーダーたちはこのことを見過ごしてしまっています。そして、自分のメンタルヘルスにしかるべき注意を払わないでいると、他者のメンタルヘルスの重要性も見えにくくなりがち。自分自身が健全な精神状態を培えるよう、常に気を配ることが、ひとり一人のニーズや状況を尊重し寄り添える、人間中心型の組織の醸成に、ひいては大きな役割を果たすことになるのです。

— ネハ・カーパル

もちろん、これらの3要素は、互いに重なり合っています。このことを、カーパル氏は下記のように完璧に言い表しています。

リーダーは、メンタルヘルスを気にかける重要性を意識し、オープンである必要があります。そして、企業フォーラムやコミュニティで公に支持している他の事柄と同様に、メンタルヘルスについても組織の優先事項として扱うべきです。それにより、真のインクルージョンや、全ての人々の人権の平等、組織ならびに構成員の持続可能な発展、といった世界的動向に、大きく貢献することができるのです。

— ネハ・カーパル

社会的起業から心理学、コーポレート・ファイナンスから医療テクノロジーに至るまで各分野で、ご回答いただいた皆さんは、人間中心型リーダーシップとは何かを、それぞれの組織で率先して追求し続けています。メンタルヘルスの重要性を認識し、自身がどういう人間かをありのままに体現し、己のリーダーシップの流儀を熟考することで、まさに己の潜在能力を発揮し、生活上の通常のストレスに対処し、充実して生産的に働き、それぞれの組織やコミュニティに貢献し続けているのです。

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