仕事と働き方の未来

AIにより広がる職場のジェンダーギャップと、その対策とは

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AI分野で女性の活躍が限定されており、既存のジェンダーギャップが再現・拡大されつつあります。 Image: Unsplash/Tim Mossholder

Silja Baller
Head of Mission, Diversity, Equity and Inclusion, World Economic Forum
  • 女性はAI活用型の職種において十分に参画できておらず、AIによる変化の影響を最も受けやすい職種に多く従事しているため、既存のジェンダーギャップがさらに拡大しています。
  • 生成AIは、慎重に活用することで、採用におけるバイアスを軽減し、公平性の促進に役立てることができます。

生成AIは労働市場を根本から変革している。それによってもたらされる影響の一つで、あまり注目されていないのが、職場に長年存在してきたジェンダーギャップをさらに深刻化させている点だ。

二重の不利益

世界経済フォーラム(WEF)と、米マイクロソフト社傘下でビジネス向けSNSサービスを提供するリンクトインの報告書によると、女性はAIによる変革の過程で二重の構造的課題に直面している。現在、生成AIによって強化されている職種に就く女性は相対的に少なく、変革の(マイナスの)影響を受ける職種に就く女性は相対的に多い。

リンクトインのデータでは、米国では男性のうち24.1%が生成AIによって強化される職業に従事するのに対し、女性は20.5%。一方、AIによって混乱がもたらされる職業に従事する女性は33.7%であるのに対し、男性は25.5%だった。

リンクトインの関連調査によると、データのある74か国のうち95%で、AIによって強化される役割を担う割合は男性のほうが高くなる傾向が確認されている。米国で生成AIが混乱をもたらすとみられる職業の例には、医療事務補助(女性91%)、事務職(女性88%)などがあり、AIによって強化される分野には、電気電子系エンジニア(男性94%)や機械系エンジニア(男性89%)などがある。

STEMにおけるギャップ

これらのデータは、STEM(科学、技術、工学、数学)教育と雇用におけるAI関連の不平等と一致している。これまでも、多くの女性がSTEM分野で学位を取得したにもかかわらず、就職という最初のステップで、その分野から離れてしまうケースが少なくなかった。

例えば、21年のSTEM学部卒業生に占める女性の割合は38.5%だったが、翌22年にSTEM関連の職に就いた女性は31.6%に過ぎない。この低下傾向は、就職時のみでなく、職務の階層を上がる中でも引き続きみられる。

24年時点で、STEM系初級職の29%、管理職の24.4%を女性が占めるが、経営幹部レベルではわずか12.2%にとどまる。また、AI関連の学術的役割やリーダーシップの役割においても女性は少ないままだ。

性別にかかわらず、適切なスキルを持つ人が職場で成功し、昇進する公平な機会を確保するために、経営者は採用プロセス、業績評価方法、昇進プロセスを見直し、再考する必要がある。

生成AI自体は、より公平な競争環境を築くための取り組みを妨げることも、促進する可能性もある。例えば、過去の雇用パターンに基づいて将来のパフォーマンスを予測する方法は、伝統的に女性が少ない職種において女性の潜在能力を見逃す傾向がある。

しかし、生成AIを活用して現在のスキルから将来の成功を予測することは、採用プロセスにおけるバイアス(偏見)を軽減し、より公平な競争環境を築くために最新のテクノロジーを効果的に活用する強力な手段となる。

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前向きな兆候

AIスキルに関しては、AIリテラシーとAIエンジニアリングの両方の分野で、女性が着実に追い付きつつあるという明るい兆しが見えている。

18年、リンクトインでAIエンジニアリングのスキルを登録したユーザーのうち、女性は23.5%だった。25年初頭には、この割合は29.4%に上昇した。

こうした格差は、過去5年の間にデータのある75か国のうち74か国で縮小している。同時に、同社の調査によると、女性はプロフェッショナルプロフィールでAIスキルを過小申告する傾向がある。

発明者間の格差

イノベーション(革新)を促進するための人材活用で、他よりも良い成果を上げている国もある。特許出願に記載される「発明者」の性別に関するデータを見ると、東アジアの経済圏はより広範な人材プールを活用していることが分かる。例えば、中国(19年で26.8%)と韓国(同28.3%)では発明者の25%以上が女性で、欧州連合(EU)や米国よりも約10ポイント高い水準だった。

世界中で、生成AIのブームは社会の多様性が十分に反映されていない形で進展しており、将来の雇用やリーダーシップの分野において、女性の存在感は依然として低いままだ。

今こそが、その流れを正す貴重なチャンスでもある。スキルへの投資を強化し、採用や昇進の公平性をAIで高め、そしてテクノロジーをより幅広い人々によって、またそうした人々のために設計することで、経済的な機会を広げ、公正さを促進する、より競争力のある未来を築くことができる。

こうした取り組みがなければ、生成AIは真の進歩をもたらすどころか、かえって不平等を強化する結果となるだろう。

シリヤ・バラー(Silja Baller) 英オックスフォード大で経済学博士号を取得。国際機関や民間企業で経験を積み、デジタル経済や国際貿易などに詳しい。2022年3月から、WEFのDEI(多様性、公平性、包括性)部門長。WEFの年次総会は「ダボス会議」として知られ、世界の政財界の要人が集う。

関連トピック:
仕事と働き方の未来 公正、多様性、包摂性
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