製造業の人材不足解消に向けた、インディアナ州のスケーラブルモデルとは

インディアナ州にあるアイビー・テック・コミュニティ・カレッジの労働力供給モデルは、生徒が高校を卒業する前にアドバンスド・マニュファクチャリングのスキルを習得できるよう支援しています。
Image: Getty Images
Kiva Allgood
Managing Director, San Francisco Office, Centre for Advanced Manufacturing and Supply Chain and Centre for Urban Transformation, World Economic Forum- 今後5年の間に約8,000万の新しい雇用が創出され、米国の製造業では2033年までに380万人の新しい人材が必要になると予測されています。
- 変革の進む製造業では大きなスキルギャップに直面しており、現在いる労働者の54%以上が2030年までに追加のトレーニングを受ける必要があります。
- インディアナ州のアイビー・テック・コミュニティ・カレッジの労働力供給モデルは、生徒が未来の職場で必要となるスキルを習得することを支援し、スキル不足に対処しています。
世界経済フォーラムの「未来の仕事レポート2025」によると、今後5年の間に、世界では約7,800万の新たな雇用が創出されます。アメリカの製造業セクターだけでも、2033年までに最大380万人の新規雇用が必要となる可能性がある一方、同セクターが業界の魅力を高め、スキルギャップに対処しない限り、その約半数の人材が確保できないリスクがあります。
産業界では人材の確保が大きな制約となっており、スキルギャップと人材の確保が産業変革の最大の障壁として特定されています。同フォーラムの「未来の仕事レポート2025」によると、今後3〜5年で製造業およびサプライチェーンセクターにおける中核スキルの約40%が変化。その結果、2030年までに現職の労働者の54%以上が追加のトレーニングを受ける必要があると見込まれています。
製造業で今後重要性が増す中核スキルは、AIやビッグデータ、ネットワークおよびサイバーセキュリティ、テクノロジーリテラシーなどのテクノロジー関連スキル。さらに、問題解決力、創造的思考、レジリエンス、柔軟性、俊敏性といった人間中心のスキルを組み合わせたスキルです。
これらの労働力トレンドに加え、同セクターの変革におけるもう一つの重要な要因は、人口動態の変化です。その背景には、労働年齢人口の減少や、現在も現場で働くベビーブーマー世代の引退が差し迫っていることなどが挙げられます。代替人材の確保や、現職従業員のスキルアップまたはリスキリングの差し迫った必要性は、製造業の多くの雇用主に「受動的な」人材の消費者から労働力エコシステムで人材を共に育成する「共創者」への転換を促しています。
製造業のスキルギャップにおけるインディアナ州の取り組み
製造業セクターのリーダーたちは、若者を同セクターの仕事に惹きつけるために、才能の供給パイプラインを強化し、トレーニングモデルを近代化し、職場のインセンティブを向上させる革新的なアプローチを模索しています。若者を将来の製造業セクターに備えさせるための最前線に立っているのが、アメリカ・インディアナ州のアイビー・テック・コミュニティ・カレッジ(アイビー・テック)です。
アイビー・テックでは、州内およびオンラインの19のキャンパスで20万人以上の学生が学んでいます。同校は、インディアナ州最大の高等教育機関であり、単一認定された州全域にわたるコミュニティ・カレッジ・システムとして全米最大となっています。アイビー・テックの学生のうち9万8,000人以上が、「デュアルク・レジット」および「デュアル・エンロールメント・プログラム」を通じ、高校在学中に大学の単位や資格を取得しています。2023~2024年度には、インディアナ州における7,200人以上の高校生がアイビー・テックを通して卒業前に9,200以上の大学資格を取得しました。このうちの3分の2近くはキャリアと技術教育(CTE)分野の資格です。
インディアナ州内の450を超える高校およびキャリアセンターとの連携により、アイビー・テックは学生とその家族に100のコースを無償で提供。その中には業界で認知されている資格の取得が組み込まれたコースも含まれます。このような職業に即した資格があることで、アイビー・テックが雇用主の重視する知識、スキル、能力を教えることを確実にします。このうち20コースはアドバンスド・マニュファクチャリングセクターに集中しており、修了者はアメリカ溶接協会(AWS)、全国金属加工技術協会(NIMS)、Smart Automation Certification Alliance (スマート・オートメーション認証連合)(SACA)などの業界団体に認められた資格を取得することができます。
インディアナ州では、アドバンスド・マニュファクチャリングが州のGDPの約30%を占め、アメリカで最も製造業に依存している州です。そのため、同州では高校生が将来のこのセクターで仕事をするための、適切な準備を行うことを重視。学生が取得する資格や業界認証は、自動化、産業用IoT、データ分析など、製造業者が必要とするスキルに適合しています。
自動化に向けた業界の傾向や、技術者に必要とされるスキルの進化を見越し、アイビー・テックは「Industry 4.0」に特化した州全体の諮問委員会を設立。2021年には米国初となる「 Smart Manufacturing and Digital Integration(スマートマニュファクチャリング・デジタル統合)(SMDI)」プログラムを開始しました。最先端の自動化、ロボティクス、データ分析を統合したこのプログラムは、学生をアドバンスド・マニュファクチャリングでのキャリアに備えさせることを目的としています。州全体で展開されているスタッカブル(積み上げ式)学位カリキュラムは、産業界からの需要に応じてアイビー・テックの半数以上のキャンパスで提供されています。このカリキュラムは、サイバーフィジカルシステム、産業用IoT、人工知能、データに基づく意思決定といった分野で学生にスキルを身につけさせることに重点を置いています。
SMDIプログラムを通じ、学生は応用科学準学士号(AAS)および、シーメンス、ファナック、製造業スキル・スタンダード協議会(MSSC)などの業界認定資格が組み込まれた技術資格を取得します。
アイビー・テックの資格は、インディアナ州の雇用主との協働によって逆算設計されており、入門レベルの職に必要な知識、スキル、能力を学生が確実に身につけて卒業できるようになっています。また、アイビー・テックの学位プログラムには、各キャンパスの「キャリアリンク」部門、教員、雇用主の採用担当者が設計した、質の高い実地学習機会が含まれており、学生は教室や実験室で学んだ概念やスキルを実践的に理解することができます。このプログラムは全キャンパスで提供され、地域産業のニーズに合わせて調整されています。
この実績あるアプローチの一例が、ステランティスとサムスンSDIの合弁会社であるスタープラスエナジーとの提携です。同社は、インディアナ州ココモに2か所の電気自動車(EV)用バッテリー製造工場を建設するために約63億ドルを投資。この顕著な投資により、工場内でおよそ3,000人の雇用が創出され、部品供給企業にもさらなる雇用機会が生まれる見込みです。スタープラスの人材ニーズに応え、地域の労働力を整えるため、アイビー・テックのココモキャンパスは、「Integrated Training and Education Pathways (統合型教育訓練パスウェイ)(ITEP)」イニシアチブに同社を参加させました。このプログラムを通じ、学生たちは以下を得ることができます。
- 見習いやインターンシップを通じた実社会での実務経験
- 高校のカリキュラムに組み込まれた職業別スキル研修
- 全国的に認知された職業資格
- 産業界や雇用主と接点を持つ機会
地元の高校3年生は、ITEPを通じ、スタープラスエナジーで業界の経験を積む機会を得ました。ここで現場の職業訓練やキャリア指導サービスを受けると同時に、アイビー・テックの実地学習制度を通じて大学の単位を取得。このプログラムにより、アイビー・テックとスタープラスエナジーの間に人材パイプラインが構築され、生徒が高校卒業後にスキルを要するエントリーレベルのフルタイム雇用や見習い制度へとスムーズに移行できるようになりました。
ITEPのようなプログラムは、今後インディアナ州のアドバンスド・マニュファクチャリングセクターにおける人材ニーズを満たすために、ますます重要な役割を果たすと見込まれています。アイビー・テックとTEConomy Partnersが共同で実施した最新の研究によると、今後10年の間にインディアナ州の主要産業で予測される求人の69%が高校卒業以上の教育を必要としています。
この調査は、「未来の仕事」レポートのデータおよびインディアナ州の具体的な求人情報を活用して実施。退職による人員の補充や、重要な役割を担う人材の育成のため、今後10年の間に毎年「Hoosiers(フージャー)」の通称で知られるインディアナ州民8万2,000人のリスキリングまたはアップスキルする必要があると示しています。必要なトレーニングには、非学位資格、ライセンス、マイクロクレデンシャル、外部資格などさまざまな形式が含まれます。また、現在インディアナ州の雇用主のうち、スキルベースの採用を行っているのは5%未満と見積もられていますが、非学位資格の需要は従来の学位の4倍の速さで成長すると予想されています。
アイビー・テックは、州全体においてスケール展開することが可能です。インディアナ州経済の進化に対応し、あるキャンパスで成功したプログラムを他のキャンパスへと展開することができるのです。同校は、ココモで実施されたSMDIプログラムとK-12(幼稚園から高校卒業)、実地学習の取り組みをサウス・ベンド・キャンパスで再現する計画を立てています。これは、インディアナ州ニュー・カーライルに建設が予定されているGMとサムスンの新工場の人材ニーズを受けての対応です。
非学位資格に関する実行可能なデータが必要な理由
求職者のスキルセットと充足困難な役割との整合性をさらに確保し、スキルベースの採用を加速させるためには、非学位資格の成果に関する実行可能なデータが不可欠です。
CredLensは、第三者資格のための全米データトラストであり、労働力に関する意思決定をデータ主導で行う透明性の高いアプローチを提供しています。CredLensは、雇用率、給与の成果、および資格の積み重ねを含む教育の成果を分析することにより、政策立案者や教育提供者に経済を牽引している資格を明らかにする洞察を提供します。
こうした洞察により、学生は業界のニーズに合った教育の選択を行い、強い経済的リターンをもたらす資格への投資を行うことができます。雇用者にとっては、資格を持つ労働者の採用に対する信頼が高まり、最終的に労働力の供給ラインと経済的なレジリエンスが強化されます。
アドバンスド・マニュファクチャリングの未来は、業界、教育、政策立案者による連携した取り組みにかかっています。アイビー・テックのスケーラブルな労働力供給モデル、雇用者と整合したカリキュラム、および資格の透明性の重視は、スキルギャップを埋めることを目指す州や機関にとって再現可能な設計図を提供します。
この勢いを維持するためには、州の連携が労働力のスキル開発における取り組みと資格付与の機会に沿ったものでなければなりません。データを活用し、業界と教育のパートナーシップを促進し、スキルベースの採用を受け入れることにより、共に未来のアドバンスド・マニュファクチャリングに備えた労働力を構築することができるのです。
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