「注意力を取り戻す」には~週に一度のデジタル・デトックスが必要な理由を専門家が解説~

ジョナサン・ハイト氏の著書『The Anxious Generation(不安の世代)』は、学校にスマートフォンを持ち込まないことを主張しています。 Image: Camilo Jimenez/Unsplash
「より良い人生を送り、より良い人間になる方法について、昔の人はいいことを言っています。『人を裁くな、さもなければ裁かれることになる』、『怒りを抑え、許すことを優先せよ』など、すべて偉大な真理です。しかし、オンライン生活、ソーシャルメディア生活、電話中心の生活は、私たちにその正反対をすべきだと伝えてきます」。
これは、ニューヨーク大学スターン・スクール・オブ・ビジネス教授(倫理的リーダーシップ論)であり、『The Anxious Generation: How the Great Rewiring of Childhood Is Causing an Epidemic of Mental Illness(不安の世代:子ども時代の再配線が精神疾患の流行を引き起こしている理由)』の著者であるジョナサン・ハイト氏の言葉です。
世界経済フォーラムのポッドキャスト「ラジオ・ダボス」で、同氏は自身の著書を「2014年から2015年にかけて私の大学のクラスや、皆さんの大学のクラスに入学してきた学生たちが、ミレニアル世代とどうしてこれほどまでに異なっているのかを説明しようとしたもの」だと述べています。
同氏は著書で、学校にスマートフォンを持ち込まないよう主張しています。この考え方は、この本が出版されてから1年が経った今、世界中でモメンタムを増しています。
しかし、同氏によると、このテクノロジーへの依存に苦しんでいるのは思春期の若者だけではありません。
「ほとんどの人が注意散漫になっています。注意力を欠いていては、人生で成功することも、多くのことを成し遂げることもできません」と、同氏。
解決策はどのようなものでしょうか。「日々の習慣を変えることです。通知をオフにしましょう。注意力を取り戻しましょう」。
その方法の一つとして、同氏は「デジタル安息日」を設けることを提案しています。つまり、デジタルテクノロジーを一切使用しない、あるいは使用を完全に最小限に抑える日を、週1日設けるのです。
「コミュニティや、少なくとも一緒にそうする友人が数人いれば、実行しやすくなります」と、同氏は付け加えました。「連絡を確認するためにあわてて席を外したりせず、たくさん話をしながら食事をすることに慣れていくでしょう」。
「ラジオ・ダボス」での同氏のインタビューのハイライトをいくつかご紹介します。
テレビとの比較「量が毒になる」
新しいテクノロジーは、若い世代への影響を懸念する年配世代から反対にあうことが多いものですが、同氏にとってスマートフォンは前例のない変化をもたらしています。
もし、学校に通っていた時に、テレビやビデオデッキ、ギターなど、好きなものを持ち込んでいいと言われたらどうでしょうか。持ち込んで、授業中にそれを使って遊ぶ。とても考えられないことです。何も学べないでしょう。2012年以降には、まさにそれが起こっているのです。
”「テレビは(スマートフォンとは)まったく異なります」と、同氏は述べています。「量が毒になるのです。1日に10時間テレビを見ていた子どもたちがいたら、間違いなくおかしくなっていたでしょう。しかし、誰もがおそらく1日1~3時間テレビを見て、その後は外に出ていました。1日に10時間テレビを見ることはできないからです。でも、携帯電話がスマートフォンに変われば、1日10時間テレビを見ることも可能になります。そして、米国のティーンエイジャーの半数は、ほぼ常にオンライン状態にあると回答しているのです。
もし学校で、テレビ、ビデオデッキ、ギター、塗り絵、小麦粘土など、好きなものを持ち込んでいいと言われたらどうでしょう。持ち込んで、授業中にそれを使って遊ぶ。とても考えられないことです。何も学べないでしょう。2012年以降には、まさにそれが起こっているのです」。
学業成績への影響「2012年が転換点」
最初のスマートフォンの発売から5年後の2012年以降、学業成績は急落しています。OECD生徒の学習到達度調査(PISA)のスコアが、主要科目すべてにおいて成績の低下を示しているのです。これは、スマートフォンの販売が本格的に加速し始めた頃に当たります。
誰もが口を揃えて言うのは、学校がスマートフォン禁止の措置を取ると廊下で再び笑い声が聞こえるようになったということです。というのも、この10年間は、ほとんどの子どもたちが下を向いてばかりいたからです。
”「(PISAの成績は)1970年代から2012年まで上昇を続けていましたが、その後、低下し始めました」と、同氏。それを受けて、一部の学校、そして最初にこれを実行したフランスでは、携帯電話を禁止することを発表しました。
「これは世界中で起こっていることですが、彼らが口を揃えて言うのは、学校がスマートフォン禁止の措置を取ると廊下で再び笑い声が聞こえるようになったということです。また、食堂も賑やかになったと言います。というのも、この10年間は、ほとんどの子どもたちが下を向いてばかりいたからです。これが子どもたちが孤独を感じる大きな理由なのです」。
メンタルヘルスへの影響「ごく短期の国際的崩壊」
この孤独感の急増は、スマートフォンが登場して以来、精神衛生が「ごく短期の国際的崩壊」を遂げていると同氏が表現していることと関連しています。「何かがおかしくなりました」と同氏。「米国だけでなく、オーストラリア、ニュージーランド、スカンジナビア、その他多くの国々でもです」。
子どもたちが刺激を受け過ぎないようにしなければなりません。子どもたちが半日刺激を受ければ、残りの半日は耐え難いほど退屈になるからです。ドーパミン回路は『おい、刺激はどこにあるんだ?』とさらなる刺激を求めます。
”同氏の見解では、最善の対応策は明白です。「ティーンエイジャーの精神衛生上、最も効果的な対策は、オーストラリアの例に倣って、ソーシャルメディアの利用年齢を16歳に引き上げることです。
ブラジルは学校での携帯電話の使用を禁止する方針です。また、インドネシアはオーストラリアの例に倣って、ソーシャルメディアの利用年齢を引き上げる予定です。具体的な年齢はまだ言及されていませんが、私は16歳になることを期待しています」。
同氏によると、アルゴリズムを微調整してオンライン上のティーンエイジャーを保護しようとするよりも、年齢制限を引き上げる方がはるかに効果的です。
「子どもたちが刺激を受け過ぎないようにしなければなりません。子どもたちが半日刺激を受ければ、残りの半日は耐え難いほど退屈になるからです。ドーパミン回路は『おい、刺激はどこにあるんだ?』とさらなる刺激を求めます。ですから、子どもたちがインターネットや画面に費やす時間を、基本的に70%、若いうちは90%減らす必要があるのです」。
言葉選びは慎重に
子どもたちがスマートフォンをあまり使わないように促す上で、痛みを伴わないようにするには言葉が重要であると、同氏は述べています。
「私が気付いたのは、ヨーロッパでは人々は『禁止』という言葉が大好きだということです。誰もがこれを『スマートフォンの禁止』としてとらえます。一方、米国では、絶対に必要でない限り禁止という言葉は好まれません。そのため、私たちは『スマートフォンのない学校』と呼んでいます」。この言葉は前向きで、好ましいものでもあります。「ですから、スマートフォンのない学校こそが、私たちが求める学校なのです」。
もうひとつ、認識しておくべき重要なことは、スマートフォンは従来の携帯電話とはまったく異なるということです。
「スマートフォンは、電話ではありません。マルチエンターテイメントのポータルなのです」と同氏は述べています。「もしすべての子どもたちが持つのが単なる携帯電話だったら、一日中それを使っていることはないはずです。『3時にどこそこで会おうよ』といった会話をして、そして実際に会いに行くのです。それは素晴らしいことでしょう」。
これは古き良き時代への回帰ではありますが、同氏は明確なメッセージがあると言います。「頭の中で鳴り響く不協和音を静めましょう。静かに座っていることで、心と精神と世界との間に内なる調和が生まれるのです」。
個人の内なる調和も大切ですが、スマートフォンやソーシャルメディアが私たちに及ぼす潜在的な悪影響を軽減するには、さらに大きな何かが必要です
「これは集団行動の課題です」と同氏。「私たちに必要なものは、誰もが従うことのできる明確な規範です。一人でやろうとすると非常に難しいですが、皆で協力すればそれほど難しいことではありません。私たちは素晴らしい進歩を遂げています」。
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Sofiat Makanjuola-Akinola and Paula Bellostas Muguerza
2025年3月13日