女性の心と体を守る産後ケアにより、ウェルビーイングを向上

妊娠中から出産後にかけて、女性には支援が必要です。 Image: Unsplash
- 日本では、2020年以降、妊産婦の死因の第一位が自殺となっています。
- 日本政府は「こども家庭センター」を設立し、妊産婦、その家族、そして子どもたちへの支援を強化しています。
- こうした取り組みは、グローバルな女性の健康促進を目指す、世界経済フォーラムのイニシアチブ「Global Alliance for Women's Health(女性の健康のためのグローバル・アライアンス)」 の目標とも一致しています。
日本では2020年以降、妊娠中から産後の女性を意味する「妊産婦」における死因の第1位が自殺である状況が続いています。日本産婦人科医会といのち支える自殺対策推進センターが作成した資料によると、妊産婦の自殺者の半分以上は産後の女性であり、2022年から2023年にかけて全体の66%を占めています。その背後にある主な原因として挙げられているのが、家庭問題と、産後うつを含む健康問題です。
産後のホルモンバランスの変化などから10%〜15%の女性が産後うつを経験しています。産後3ヶ月以内に発症することが多く、不安や焦燥感、不眠などの症状を抱えながら育児を行わなければなりません。「産後うつ病で問題なのは、この時期は孤立してしまいがちで、調子が悪くなっていることに誰も気づけないということ」であると、ある医師は語っています。
日本では、出産前後に女性が実家に滞在し、家族のサポートを受ける「里帰り出産」をすることが少なくなくない一方、その滞在期間は限られています。野村総合研究所による2024年の調査では、里帰り出産を行った女性は47.1%に上ったものの、その45%が産後1ヶ月以内に自宅へと戻っていました。さらに、核家族化が進む現代においては、周りに頼れる人がいないことも少なくありません。こうしたことから、日本では、出産前後の女性を支援する体制の構築が急務となっています。
産後ケアの拡大
こども家庭庁では、「全ての妊産婦、子育て世帯、こどもへ一体的に相談支援を行う機能を有する機関」である、こども家庭センターの設置を急いでいます。全国のすべての市区町村への設置を目指しており、2024年5月時点では、約半数(50.3%)において設置済み。同センターは、妊娠届から妊産婦支援、産後の子育てやこどもに関する相談を受け付け、必要に応じて適切な支援につなげる窓口の役割を果たしています。
さらに、政府は「子育て家庭の産後の心身の負担軽減を図る観点から、拡充が重要だ。取り組みを通じて全国展開を進めていく」とし、出産後の女性を心と体の両面からサポートする「産後ケア」の拡充にも着手。サポート内容は多岐に渡り、地域の医療機関などの協力を得て助産師などが中心となり、0歳児のいる母親への身体的および心理的ケア、適切な授乳のためのケア、育児についての具体的な指導および相談などを実施しています。さらに、家族などの身近な支援者との関係調整、地域で育児をする上で必要な社会的資源の紹介など、人や地域とのつながりにおけるサポートも実施。関連予算を2023年度の約57億2,000万円から2024年度には約60億5,000万円へと増額し、各市区町村への補助額の上限撤廃や支援が必要な母親を受け入れる施設への支援強化を推進しています
福利厚生の一環として産後ケアを提供する企業も出てきています。資生堂では、2023年11月より、生後3か月未満の子どもを持つ全社員を対象に、産後ケア「KANGAROOM+」を開始。産後ケア専門の資格を持つスタッフが、社員の自宅を訪問し、家事育児をサポートしています。
つながりを作ることで孤立を防止
NPO法人「徳島の子育てに伴走する会マチノワ」は、自身も産後うつを患い、医療や地域の人々とのつながりを通じて回復した、白桃さと美さんが立ち上げた支援団体です。自らの経験を元に、同じ境遇にある人たちが気楽につながることができる場所を提供するため、2021年にオンラインコミュニティを設立。2023年からは、県の施設の一室を利用し、出産前後や育児に関する悩みの共有や相談を気兼ねなく行うことができ、妊産婦の孤立の防止や感情的・精神的な支えとなっています。
また、「きずなメール・プロジェクト」は、メールによる情報発信サービスです。購読者自身や子供のケアについての情報やアドバイスに加え、購読者をいたわるメッセージが届き、妊産婦の孤独感を軽減。届くメールの内容は、医師や管理栄養士が監修し、妊娠期から子供が3歳になるまで、購読者の妊娠週数や子供の年齢に合わせてあります。さらに、地域の情報を盛り込むことにより、必要なサポートにスムーズにつなげることも可能。調査では、購読者の90%が着信後すぐに読んでおり、関心度の高さを示唆しています。
早期予測により、適切なケアの準備を整える
妊娠期に行う簡易テストにより、産後うつを予測する研究も進められています。富山大学の松村健太講師らのグループは、「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」のデータと機械学習を用いて、最大3つの質問の回答から産後うつのリスクを判定できるシステムを構築。70%以上の精度で産後うつのリスクを持つ(または持たない)妊婦を判定することに成功し、学術誌に発表しました。妊娠期からこうしたリスクを把握することにより、産後に必要な支援体制を整え、適切なケアを提供することが可能となります。
適切な産後ケアにより、女性のウェルビーイングを向上
出産後の女性を適切にサポートすることは、心身ともに負担の大きい出産や産後を健康に、安心して過ごすことができる環境を整えることにつながります。こうした取り組みは、女性の健康の推進する世界経済フォーラムのイニシアチブ「Global Alliance for Women's Health(女性の健康のためのグローバル・アライアンス)」の趣旨とも一致。政府や民間団体による支援をはじめ、社会全体で妊産婦をサポートし、ケアする環境を作ることは、女性の心と体の健康、さらには、ウェルビーイングの向上に貢献します。