教育危機に対処し、世界の繁栄を促進するための3ステップ

教育やスキルへの投資は不可欠ですが、経済的な課題により資金は限られています。 Image: Unsplash
- 学校に通えない子どもたちは世界中で何百万人にも上ります。
- 学習やスキル取得のためには、年間約970億ドルの資金が必要だと見積もられています。
- こちらの3つのアプローチが、若者を繁栄への道へと導くのに役立ちます。
現在の若い世代の多くは、幼い頃から十分な教育を受けられていません。就学率は10年以上停滞しており、2億5,000万人の子どもたちが学校に通えていないのが現状です。10歳までに十分に字を読むことができない子供の割合は、低中所得国(LMICs)では55%、最も貧しい国々では90%に達しています。基礎教育の修了すら困難であり、21世紀の労働市場で求められるスキルを身につけることはさらに難しい状況です。その結果、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の目標4「質の高い教育をみんなに」においてすべてのターゲットが達成の危機にさらされています。この中には、若者に安定した雇用や良い仕事に就くためのスキルを提供するという目標も含まれています。
教育やスキルへの投資が不可欠である一方、経済の低迷、金利の上昇、気候危機、人道的危機などにより、資金は限られています。このままのペースでは、最も教育水準の低い国々がOECD諸国の最低学習基準に達するまでに100年以上かかると見込まれています。
一方、デジタル革命やAIの進展により、多くの仕事が時代遅れになりつつあります。知識集約型の経済や新興産業では新たなスキルが求められますが、特に中長期的な発展が必要な地域では、これらに容易にアクセスすることはできません。
この学習やスキルの格差を解消するためには、低所得国および低中所得国79カ国に対し、年間970億ドルが必要だと推定されています。この投資は、中所得国の成長が停滞する「中所得国の罠」を防ぎ、世界で最も若い世代を経済的に生産的な存在として維持するために不可欠です。
この課題は非常に困難に思えますが、実現可能です。実際に、戦略的な教育およびスキルへの投資を通じ、学習環境と経済パフォーマンスを劇的に改善した国々が存在するのです。
1953年の朝鮮戦争終結時、韓国は低所得国(LIC)、つまり世界で最も貧しい国の一つでした。しかし、1995年までに韓国は高所得国(HIC)へと成長し、OECD加盟国となり、世界有数の産業企業を持つ国へと発展しました。1960年に158ドルだった一人当たりGDPは、2023年には33,121ドルにまで増加しました。シンガポールも同様に、1970年の一人当たりGDPが925ドル、1995年に24,914ドル、2023年には84,734ドルと、さらに短い時間枠で低所得国(LIC)から高所得国(HIC)へと飛躍的に成長しています。こうした成功の背景には、強力な教育投資やスキル訓練があり、近年ではデジタル変革に向けた労働力の準備が進められています。

この課題の規模と限られた資源を考慮すると、次の3つの分野に注力する必要があります。
1. 革新的な資金調達
970億ドルの資金不足は、革新的な資源動員手段により解決することができます。例えば、開発金融の画期的な革新としてG20により認められた、教育のための国際金融ファシリティ(IFFEd)は、ソーシャル・インパクト・ボンドやディベロップメント・インパクト・ボンドなどの革新的な手法と並んで活用されています。IFFEdは、各国政府、多国間開発銀行、慈善団体と協力し、助成金と保証を組み合わせることで低コストの資金調達を拡大します。IFFEdを通じて1億4,000万ドルを投資することにより、10億ドルの譲許的融資が生み出されます。この7倍のレバレッジ効果により、970億ドルの資金不足を補うには、わずか140億ドルの投資で済むことになります。そう考えると、一気に実現可能な目標に思えるでしょう。

2. 学習成果と収入の最大化
- 幼児教育などの高い投資効果が見込める分野を特定し、優先的に投資する。多くの取り組みや政策が基礎学習の向上に向けた流れを生み出しています。様々な研究によると、特に初期段階での読み書きや計算能力の習得は子どもの長期的な成長に大きく寄与。ジェームズ・ヘックマンの先駆的な研究では、幼児教育プログラムに1ドル投資することで、教育の質の向上や健康改善、社会コストの削減などにより、最大13ドルのリターンが得られるとされています。
- エビデンスに基づいたプログラム設計を推進する。施策の効果を継続的に評価し、地域ごとのニーズに応じて政策やプロジェクトを適応させることが不可欠です。また、最新の技術や研究成果を活用し、より効果的な教育プログラムを設計・開発することも重要です。適切に実施すれば、教師不足といった長年の課題を解決できるだけでなく、生徒一人ひとりに合わせた個別・適応型学習を導入し、リアルタイムでのフィードバックやスキル強化が可能になります。
- 低コストの介入策を活用し、行動変容を促す。例えば、学校の出席率向上や学習意欲の向上を目的とした「ナッジ」手法が有効です。実際に、ケニアでは親にSMSでリマインダーを送ることで、生徒の出席率と学習への取り組みが向上したという成功例があります。
- 援助国と被援助国の二国間関係を活用する。政府は、パートナー国や他の支援機関に対して、効果的な教育政策や介入策への投資を提案すべきです。例えば、Global Education Evidence Advisory Panel(グローバル・エデュケーション・エビデンス。アドバイザリー・パネル)による「Great buy(グレート・バイ)」では、教師を支援するため、授業計画、学習教材、継続的な教師支援を含む体系的な指導法パッケージの導入を推奨しています。
3. 持続可能な教育とスキルのエコシステム構築
- 教育において何が効果的であるかについて、主要なステークホルダー間でより良く調整を行う。例えば、若い子供たちに読み書きと計算を教えることに関して合意が得られている場合、それを最も必要としている国々で適用するべきです。
- カリキュラムの共有、教師の研修、資源の配分を行うための中央集権的かつ複数のステークホルダーが関与するプラットフォームを作成し、努力とコストの重複を減らす。例えば、アフリカン・バーチャル大学が複数の国々が教育資源を共有することを可能にしているるなど、すでに機能しているモデルもあります。
- 効果が証明された介入の影響を増幅するために、複製モデルを採用し、パートナーシップを通じて成功したパイロットプログラムを拡大する。インドで開発された「Teaching at the Right Level(ティーチング・アット・ザ・ライト・レベル:TaRL)」は、政府やNGOとのパートナーシップによりアフリカ全域で拡大しています。
- スケーラブルかつ影響力のあるイノベーションを開発するために、資源をプールする。例えば、OECDの2030 年に向けた学習枠組みは、共同研究に基づく政策立案の指針となっています。大学と業界の間の連携を強化し、カリキュラムを開発し、研究を行い、労働市場に合ったインターンシップを提供する。ドイツの「Dual Vocational Training System(デュアル職業訓練システム)」は、教室での学びと現場でのトレーニングを統合し、卒業生が労働力に対応できるようにしています。
青少年教育の強化
大規模に人材開発は、どの組織にとっても難しい課題であり、果敢な協力、絶え間ない革新、そして変革に対する揺るぎないコミットメントを必要とする共同の使命です。これには、既存のモデルから脱却し、従来の常識に挑戦し、迅速かつ柔軟にデータ駆動型の戦略を受け入れることが求められています。今こそ、行動を起こす時です。
画期的な金融革新、最先端の研究、そして21世紀の技術の可能性を手にした私たちには、今日の若者たち、そしてこれからの世代に対して、ただ成功するだけでなく、リーダーとなり、富を創出し、より良い未来を築く力を与える前例のない機会があります。進むべき道は明確です。私たちは、より大きなビジョンを持ち、より速く動き、確固たる信念を持って行動しなければなりません。