経済成長

スペイン・ビスカヤ県とビルバオ市の改革〜回復ではなく未来への変革〜

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ビルバオ市とビスカヤ県は、低迷を好機に変えました。 Image: Unsplash/Jorge Fernández Salas

Ainara Basurko
Deputy for Economic Promotion, Regional Government of Biscay
Gonzalo Olabarria
Councillor for the Coordination of the Mayor's Office and Culture Area, City of Bilbao
  • 1970年代から80年代にかけて、グローバルな競争の高まりや新技術の導入により、ビジネスの拠点が移動し、先進国における多くの工業都市および港湾都市は、衰退の一途をたどりました。
  • こうした都市の中には、経済の多様化を図り、工業用地や水辺を浄化することにより、大規模な改革を実現した地域もあります。
  • スペイン・バスク地方のビスカヤ県とビルバオ市は、不況をチャンスに変え、アイデア、価値観、ネットワーク、イノベーションを通じ、卓越した現代的都市のモデルとして再出発しました。

スペインのバスク地方に位置するビスカヤ県ビルバオ市における経済の歴史は、産業と貿易に根ざしています。

ビルバオは14世紀に商業拠点として設立され、イングランド、フランドル、フランスとの海上交易を確立。当初から、鉄の鉱脈、水と木材の供給、そして新興交易路への海上アクセスといった競争力のある立地条件に恵まれていました。

ビルバオとビスカヤは、歴史を通して経済の変化に適応し、再生と変革を遂げる能力を示してきました。これにより、レジリエンスの高い集団的精神が培われてきたのです。

19世紀半ばには、ビスカヤにおける経済の二大基盤であった、商業と金属産業の衰退が始まりました。その対策として、近代化による新たな経済モデルが確立され、鉄鋼業が主導的な役割を担うようになります。こうした発展には、欧州から輸入された新技術の導入、新たな生産プロセスや企業組織における形態の導入、大規模な資本の動員が必要でした。

これが転機となり、都市と都市経済における最初の大変革が始まり、造船業、関連設備産業、銀行業などの産業や事業が発展。地域経済は成長を遂げ、鉄資源が枯渇した後も拡大を続け、ビルバオはビスカヤにおける重要な産業・金融センター、そして経済的中心地へと発展しました。

どん底に直面

経済成長に伴い、土地利用に重要な変化がもたらされました。産業は下流地域へと移動し、人口は著しく増加。スペイン統計局によると、ビルバオの人口は1950年の41万1,000人から1981年には95万5,000人へと倍増しています。人口の増加は、1975年まで製造業の集積地周辺に集中していました。

一方、20世紀最後の四半世紀に入ると、不安定な変革の時期が訪れ、それまでの電気機械産業、石油化学産業の拡大、手頃な価格でのエネルギー確保に基づく経済モデルが大きく揺らぎました。

その引き金となったのが、1973年から1974年にかけて起きた石油価格の急騰です。この影響により、アメリカ、ドイツ、日本、フランス、イギリスなどの国々では製造業の成長率が急激に低下し、アジアや中南米の新興経済国との競争が激化しました。

これにより、新たな世界秩序と経済システムが形成されたのです。

1980年代には、ビルバオとビスカヤにおいて工場や造船所の閉鎖が相次ぎ、失業率が高まりました。大ビルバオ圏の一部地域では、失業率が25%から35%に到達。同時に、人口減少、環境悪化、社会的排除といった問題も深刻化しました。こうした状況の中、ビルバオとビスカヤは再び変革を遂げなければなりませんでした。

そこで、1992年に官民および社会的指導者たちは、人々を中心に据えた新たな戦略的計画の策定という大胆な決断を下しました。ビルバオ都市圏において、100万人の人口を擁する30の自治体とともに、経済の再構築と都市の形態の変革を目指したのです。

ビルバオは、文化を経済成長の原動力として活用し、地域経済の多様化を進め、協調的な都市再生に取り組み、持続可能性を重視することにより、包括的な変革を目指す都市の模範的な存在となりました。

不死鳥のごとく蘇る

ビルバオの再生プロセスは、かつての港や工業地帯、老朽化した交通施設の再開発といった象徴的なプロジェクトなど、インフラの整備から始まりました。

その後、新たな起爆剤が加わります。交通の利便性向上と文化を基盤とし、象徴的なプロジェクトとなった、1995年のビルバオ・メトロ開通と、1997年のグッゲンハイム美術館開館です。

これらのプロジェクトの驚異的な成功により、文化スポーツビジネス交通の各分野で新たなインフラが整備され、新たな都市空間が生まれ、住宅地区の開発も進みました。

そして、この変革の中心にあったのは、ビルバオの背骨とも言えるネルビオン川の再生です。工業用地の汚染除去や浄水ネットワークの改善が進められ、水質が大幅に向上したことにより、魚類や藻類など60種以上の生物が回復しています。

市民参加や都市の刷新、ガバナンスの向上も不可欠な要素でした。これらの取り組みを推進したのは、1991年に設立された先進的な非営利組織「ビルバオ・メトロポリ30」です。こうした変革により、ビルバオは都市計画の専門家や住民から魅力的な都市と見なされるようになりました。

そして、ビルバオは現在も新たな経済的・社会的課題に取り組んでいます。例えば、美術館の拡張、中央駅の建設、企業・教育・研究のための用地再生、社会住宅の供給拡大といった施策です。

さらに、レジャーやビジネスの拠点としての河口域再活性化、新たな緑地の創出、持続可能な交通手段の促進、人口変動に対応するための学生誘致策などが、地域の重要な課題として掲げられています。

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都市の未来を切り拓く

文化を基盤としたビルバオの再生は広く知られるようになりましたが、ビスカヤの変革についてはそれほど認識されていません。ビスカヤは高度な製造業とサービス業、モビリティ、エネルギー分野において強みを持つ、競争力の高い産業地域へと成長しました。質の高い雇用が確保され、地域全体のバランスと社会的結束が維持されています。

ビスカヤは、デジタル・技術・環境エネルギー分野での転換を推進するとともに、STEM(科学・技術・工学・数学)分野の人材育成と誘致に取り組み、革新的な地域としての地位を強化し、投資先としての魅力を高めるとともに、官民連携や機関間の連携を特徴とする地域への発展を遂げています。

ビルバオは、文化を経済成長の推進力に地域経済を多様化し、協調的な都市再生を進め、持続可能性を追求することにより、包括的な変革を目指す都市のモデルとなりました。

この変革の次の段階として、国際的なプラットフォーム「The Bay Urban Visioning Awards(ザ・ベイ・アーバン・ビジョン・アワード)」が構想されています。ビルバオ・メトロポリ30とその協力機関が主導するこのプロジェクトは、世界の都市や都市圏、地域に向けて革新的な都市変革の実践を紹介し、インスピレーションを与えることを目指しています。

以上が、ビルバオ、ビスカヤ、そしてバスク地方から、未来に適応できる都市を共に創造するという共通の目標に向けた、ささやかな貢献です。

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