欧州は経済を根本的に再編し、国防強化に舵を切れるのか
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欧州は、国防のための資金を確保しなければならないという、新たなプレッシャーを感じています。 Image: Saj Shafique on Unsplash
- 世界外交が不透明な方向に向かう中、欧州の指導者の多くは、国防支出を迅速に拡大する必要があると考えています。
- 一方、主に社会福祉という形で安全保証を提供するよう設計された欧州の経済が、「存亡の時」に対応できるよう変革することは可能なのでしょうか。
- 防衛への偏重は「平和の配当」に影響を与える可能性がある一方、欧州はこの困難な局面において統合を強化することにより、活路を見いだすことができます。
安全保障は長い間、欧州の優先事項でした。ただし、軍事的な意味での安全保障ではありません。
2025年2月17日、パリで急遽会合を開き、自衛について話し合った欧州の指導者たちは、経済生産の平均1.9%を軍事費に充て、退職者への給付、医療、住宅といった社会保障に25%以上を費やしている国々を代表しています。
この会議が急遽開催されたことは、こうした予算における不均一さが予想されていたより早く消滅する可能性があることを示唆。欧州の東端における壊滅的な戦争が不透明な終結に向かう中、何世代にもわたって欧州の人々に定着してきた米国による防衛保証が、突然、脆弱になったように見えます。
ウクライナ戦争の終結に向けたロシアとの協議は、今後何世代にもわたり欧州の人々に影響を及ぼす可能性があり、長らく課題として先送りされてきた安全保障費の増額を急務へと変えるかもしれません。
しかし、支出を決定することと、資金を確保することは別の問題です。
欧州の経済システムは、根本的に、軍事費に多額の予算を充てるように設計されていません。代わりに、社会的安定をもたらす社会保障を提供するように進化してきました。フランスやイタリアでは、年間GDPの約3分の1が社会保障制度に充てられています。一方、米国や韓国のような国々は、社会保障への支出がGDPの約5分の1、もしくはそれ以下にとどまる傾向があり、その分、防衛への支出が比較的多くなっています。
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第二次世界大戦の開戦当時、欧州の予算は現在と大きく異なっていました。
フランスは1940年までに500万人の兵士を動員し、当時最高水準の戦車を保有。現在の価値で100億ドル以上を費やし、国境沿いに数百のバリケードや基地を建設しました。それにもかかわらず、ドイツ軍はフランスへの侵攻と占領を成功させたのです。
一方、ドイツ政府は密かに大規模な軍事力への投資を進め、最終的にフランスよりもさらに遠い地域へと派兵しています。同時に、一つの戦争を発端に、さらなる戦争が避けられないという認識が広がる中、他国でも軍事支出が加速しました。イギリスは1940年までに軍事費をGDPの10%近くにまで引き上げ、戦時中にはその割合が37%に達しています。また、チェコスロバキアも、高額であるにもかかわらず、最終的に効果のなかった防衛施設を国境沿いに建設しました。
こうした軍備拡張と戦争の瓦礫が取り除かれた後、ある合意が形成されました。欧州諸国は安全保障の取り組みを共同で進め、米国が地域全体の防衛を主に担うことになったのです。
この枠組みにより、ヨーロッパ各国は19世紀から続く比較的寛大な福祉国家を発展させる余地を得ました。1989年のベルリンの壁崩壊とそれに続くソビエト連邦の崩壊は、軍事費の削減を可能にし、社会政策への財源をさらに確保することにつながりました。
しかし、現在、バランスの再調整が間近に迫っているようです。
NATO事務総長でありオランダの元首相であるマルク・ルッテ氏は最近、「我々は、防衛を他のあらゆる事項よりも優先しなければならないだろう」と述べています。
脅かされる「平和の配当」
欧州は、多様な国々で構成されており、それぞれ異なる政策や優先事項を持っています。一部の国々はすでに他国よりも多くの軍事費を支出する一方、ある国の有権者は、他の国々の有権者より軍事費の増加に否定的であるかもしれません。
現在ヨーロッパに駐留する10万人以上の米軍の受け入れに関しても、その評価は地域によって異なります。
それでも、米国の安全保障保証に依存できることの恩恵は計り知れません。昨年発表された報告書によると、欧州諸国は冷戦終結以来、約1.8兆ユーロ相当の「平和の配当」を享受してきました。
同報告書によれば、非軍事分野の支出のうちわずか1%を軍事費に振り向けるだけで、NATO加盟国は自ら定めた「GDPの少なくとも2%を国防費に充てる」という目標を達成することができます。一方、同報告書の発表以降、欧米の関係は大きく変化。最近ポーランドを訪れた米国副大統領は、「米国の関与が永遠に続くと仮定することはできない」と発言し、軍事費をGDPの3%以上に引き上げるべきだという議論を加速させています。
現在の欧州経済は、大規模な新規投資に適した時期ではないように見えるかもしれません。「低迷」という言葉が過剰に使われるほど、経済の状況は厳しいからです。米国の第一次トランプ政権時代に欧州の防衛支出について警鐘が鳴らされた時や、ロシアのウクライナ侵攻以前よりも、状況は悪化しています。
ロシアによる侵攻がウクライナにとどまらない可能性があるという懸念が高まり、ヨーロッパの外相たちが「存亡の時」と表現する状況を作り出しています。
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とはいえ、欧州は困難な状況には慣れています。欧州が、不安定なこの新たな世界情勢における立ち位置を見出すために、過去の経験を大きく遡る必要はないはずです。
冷戦期、ヨーロッパは二つの核保有国の間に挟まれ、地域は分断され、恐怖感が蔓延しました。このような状況下において、冷戦終結後に各国が防衛費を大幅に削減できたことは、大きな成果といえるでしょう。映画『トップガン』の人気を利用した海軍による大量採用の数年後には、米国ですら軍事支出を抑え始めていました。
ロシアは、経済的混乱と不安定な時期を経て、現在のような「冷戦時代の敵対関係への郷愁に突き動かされている」とも見られる国家へと変貌。一方、米国が欧州の防衛から目を背けるようになった主な要因は、経済的な不安を抱える有権者によって選ばれた政権の誕生です。
一方、欧州における軍事支出の増加が、同様の社会政策の軽視につながるとは限りません。
欧州では軍事装備を輸入に大きく依存していますが、2030年までに必要装備の半分をEU製品で賄うことを目指す動きが進んでいます。最近発表された分析によれば、国産兵器の購入を増やすことでGDP全体を押し上げ、軍備拡張に伴うコストを「抑制」することが可能になります。
また、軍事費を増やすために必要な資金を借りるため、ユーロ債を一括発行するという案も浮上しています。
しかし、この困難な局面において、欧州が経済と軍事の両面で統合を強化することができれば、勝算は十分にあります。
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Naoko Tochibayashi and Mizuho Ota
2025年2月18日