AIやテクノロジーの良い面を共有する方法
AIは、医療から運輸まで社会のあらゆる分野に役立ちます。 Image: Photo by Accuray on Unsplash
Hiroshi Matsuda
Senior Vice-President and Chief Regional Officer, Mitsubishi Heavy Industries EMEA, Ltd. (MHI-EMEA)- 技術の進歩は、否定的な視点で語られることが多く、懸念には真実もあるものの、ディストピアの恐怖に大衆の議論が支配されるようなことがあってはなりません。
- 技術革新の大部分は、人間の生活と福祉を向上させる有益なものであることを再認識することが不可欠です。
- バランスの取れた視点、戦略的計画、優れたコミュニケーションにより、リーダーや企業は複雑な技術的変化を乗り切り、人類の継続的な進歩を確保することができます。
複雑さを極める21世紀、テクノロジーがビジネスや社会における変化と混乱の主な要因となっていることは疑う余地がありません。世界経済フォーラム(WEF)は、技術が持つ変革の力を折に触れて強調しています。
しかし、技術の進歩は、否定的な視点で語られる機会が多くなっています。人工知能(AI)が人間の意思決定をコントロールする、ロボットが人間の仕事を奪う、データセンターが大量の電力を消費するなど、これらの懸念はある程度真実であるとも言えますが、ディストピアの恐怖に、公の議論が支配されることを許してはなりません。
私たちは、テクノロジーの大部分は有益であり、人間の生活と福祉を向上させるものであることを、改めて認識することが非常に重要です。電球や洗濯機から自動車、印刷機、インターネットに至るまで、技術革新によって、何十億人もの人々が貧困から抜け出し、より長く健康的に、精神的に豊かに生きられるようになってきました。
変化を恐れない
もちろん、変化はしばしば破壊的な影響をもたらします。しかし歴史が教えるところでは、通常、懐疑論者が予想するよりもはるかにスムーズに受け入れられ、時代遅れの仕事に代わる新たな雇用を創出するとともに、経済成長をもたらし、財産や余暇を拡大させてきました。
ラッダイド運動(産業革命期に起こった、イギリスの熟練手工業者たちによる機械打ち壊し運動)に参加した者たちの恐怖をよそに、産業革命は多くの雇用を生み出しました。20世紀のコンピューターの出現も同様です。ニューヨーク・タイムズ紙は、さかのぼること1980年に「ロボットがあなたの仕事を狙っている」と警告する記事を掲載しました。しかし、今日の米国の失業率は約4%で、ほぼ史上最低水準に抑えられています。
たしかに、技術が変化するスピードは速くなっているように思えます。AIは、インターネットや携帯電話よりも速く実用化が進んでおり、電気や鉄道よりもはるかに速く普及しています。しかし、この認識は誤解を招くことがあります。ほとんどの「突然の」変化は、実際は長い時間をかけて生じるものです。
変化に備えた計画は可能
ほとんどの技術進歩は漸進的であり、変化は多面的な影響を及ぼします。例えば、ソフトウェアの開発には、それを支えるハードウェアの高度化が必要であり、再生可能エネルギーの普及には、バックアップ電源や送電網の強化が必要です。
技術によって生じた問題の解決策が、さらなる技術を生むこともあります。その代表例が、データセンターのエネルギー消費に対処するために開発された電力および冷却ソリューションです。 先進的な冷却技術とクリーンエネルギー源を統合することで、環境への負荷を削減することができます。このような反復的なプロセスによって、新しい技術開発がもたらす課題に対処することができるのです。
リーダーたちは、長期・短期両面の視点からこれらの変化を分析し、戦略的に計画することによって、複雑な問題に対処する必要があります。
また、短期的な課題と長期的な課題のバランスをとることは、企業にとっても国全体にとっても、持続可能な進歩のために不可欠です。例えば、当面の課題だけでなく、長期的な課題の解決のために、継続的に研究開発費を投じることにより、将来の成長と発展を確保することができます。このバランスには、現在のトレンドと将来の可能性の両方を深く理解した戦略的アプローチが必要となります。
さらに、適切なエコシステムを構築することで、企業は複雑な技術の適用をより効果的に進めることもできるでしょう。「ムーンショット」の概念は、重要な例の一つです。アルテミス宇宙探査プログラムから、環境の持続可能性の向上やがんの治療を目標とした取り組みまで、野心的な目標は技術の進歩を促し、業界を超えた連携を後押しします。
このような取り組みは、政府や企業が資源を結集し、倫理基準を設定し、パートナーシップを形成し、強固なサプライチェーンを構築することで可能となります。これらのアプローチは、世界がカーボンニュートラルを達成するためにも不可欠です。
三菱重工グループでは、MISSION NET ZERO目標の実現に向けて、高砂水素パークや三原カーボンニュートラルトランジションハブでの取り組みを紹介するなど、技術力やアイデアを目に見える形で発信することを重視しています。こうした施策を通じて、行政や他の企業との信頼関係を構築し、社会課題解決に向けた連携を強化できると考えているのです。
変化についてより多くを語る
一方で、本当の問題は、技術の変化が一般の人々には見えにくいということかもしれません。3Dプリント、QRコード、中間ソフトウェアなどに見られるように、多くの進歩は、最初は、B2Bの分野で発生し、世間に知られることなく業務効率を向上させます。残念なことに、人々にはそのような技術的進歩の背後にある複雑なプロセスが見えないことが多いため、その結果に怯えることがあります。進化が革命のように映るのです。
この断絶に対処するには、ビジネスリーダーが、意識的にコミュニケーションをとることが大切になります。技術開発の過程について、透明性を持って共有することで、プロセスをわかりやすくし、一般の人々の懸念を軽減することができると考えます。
三菱重工グループでは、技術の変化について、その潜在的なリスクや一般の人々による理解についても細やかに目を向けることで、リスクを適切にコントロールしながら、技術革新のメリットを享受することを可能にしています。
テクノロジーだけで、課題を完全に解決できるとは限りませんが、少なくとも解決策の一部にはなると考えます。人類が持続可能な方法で進歩し続ける未来を望むのであれば、過度に楽観的でも終末論的でもないバランスのとれた姿勢で、新たな技術の採用にオープンであり続けることが必要です。
エナジートランジション、先進的な製造技術、デジタルソリューションなどにおいて、当社は、より良い未来を創造するために献身的に取り組んでいます。イノベーションとコラボレーションを促進することにより、地球規模の課題に対処し、安心・安全・快適で持続可能な世界の構築に貢献することを目指しています。
オープンでかつポジティブであり続ける
これまでに述べたように、テクノロジーの変化は、しばしば破壊的な可能性に焦点を当てて語られますが、ほとんどの進歩は漸進的で有益であることを再認識することが非常に重要です。バランスのとれた視点を持ち、戦略的に計画し、効果的にコミュニケーションをとることで、リーダーや企業は複雑な変化に対処し、人類の継続的な進歩に貢献することができます。
テクノロジーは、慎重にアプローチすれば、生活を向上させ、経済成長を促進し、環境の持続可能性を高める力を持っています。その可能性に対してオープンな姿勢を持ち、より明るい未来を作るために協力していきましょう。
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