年次総会2025の総括「インテリジェント時代における連携」

年次総会2025には50人以上の国家元首や政府首脳が出席し、その多くが特別演説を行いました。
- スイスのダボスで開催された、2025年の世界経済フォーラム年次総会が閉幕を迎えました。
- リーダーたちが「インテリジェント時代における連携」というテーマの下、1週間にわたって議論と対話を交わしました。
- 本会合の5つのサブテーマに沿って、この1週間の主な成果と引用を総括します。
目まぐるしい動きのあった年次総会は、1日目のニュースが5日目にはすでに昔の出来事のように感じられ、まるで5日間が一つの旅のようでした。中東で停戦の兆しが見え始めた直後であり、初日が米国の大統領就任式と重なったこともあって、政治と地政学のカレンダーが一致した2025年の年次総会は、他のどこにもない機会でした。意見の相違は大きかったものの、対話は刺激的かつ建設的なものとなりました。
米国経済に関する見解は明白に楽観的なものでした。欧州についてはあまり楽観的ではありませんが、その評価は一枚岩ではありません。リーダーたちは、欧州に見られる明るい兆し、特にその価値の強さにより自信を持つよう促しています。また、新興市場については、レジリエンスを見出す動きもありました。
会合全体を通じて新興テクノロジーが重要な柱となり、「インテリジェント時代における連携」というテーマと共鳴しています。AIについては、昨年と比較して対話がはるかに洗練され、アプリケーション、投資、開発に焦点が当てられました。また、製造、脱炭素化、気候変動対策、健康など、実際の進歩を示す具体的な例が挙がりました。
公平性に関する意見は分かれましたが、多くの参加者がジェンダー・パリティ(ジェンダー公正)への継続的な取り組みについて語っています。これは文化プログラムでも重要なテーマでした。あるリーダーは「他者が後退するなら、私たちはその分さらに前に進む」と述べました。
年次総会に先立ち発表された『グローバルリスク報告書2025』では、2025年の差し迫った最大のリスクは紛争であるという憂慮すべきメッセージが発信されました。これを受けて紛争がキーワードになることが予想されましたが、議論が進むにつれ、焦点は外交および(困難な)平和達成への取り組みへと移行しました。
年次総会2025は、全体を通して未来への洞察を提供するものとなりました。その中から、今後1年間の主な注目点を把握する上で参考となるいくつかの重要なポイントを以下にまとめます。
地政学的課題には建設的な楽観主義が必要
年次総会2025には50人以上の国家元首や政府首脳が出席し、その多くが特別演説を行いました。
ロシアによるウクライナへの侵攻から約3年が経過した今、ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は、欧州の防衛強化に向けた支援を呼びかけ、欧州の安全保障に関して欧州大陸は「一部の首都からの善意に頼ることはできない」と警告しました。
中東での紛争も主要な議題となり、イスラエルのイツハク・ヘルツォグ大統領はガザ地区の停戦について楽観的な見方を提示。同大統領は、停戦は「さらなる人質解放への扉を開く鍵」であると述べました。
ドナルド・トランプ氏のホワイトハウス復帰が世界に与える影響は、多くの議論の焦点となりました。特に、関税、規制緩和、エネルギーに関する同氏の政策についてです。
年次総会は、米国大統領就任式と同じ日に始まりました。4日目には、トランプ新大統領が4人のグローバルCEOとライブ中継で対談。その中で同氏は、4年ぶり2期目の任期における課題について概説しました。
同氏は演説で「トランプ政権下では、雇用を創出し、工場を建設し、企業を成長させるのに、古き良きアメリカ合衆国ほどふさわしい場所はないでしょう」と述べています。
演説の全文はこちら。
会合の様々な機会を通して、リーダーたちはトランプ氏の政権復帰が貿易、テクノロジー、地政学的な状況にどのような影響を与えるかについて、それぞれの見解を述べました。
世界貿易機関(WTO)の事務局長であるンゴジ・オコンジョ・イウェアラ氏は、政策が施行され実施されるにつれ、「慎重な楽観主義」が生まれるだろうと助言。「冷静さを保ち、実際に何が起こるのかを見守りましょう」と述べました。
トランプ政権に対するリーダーたちの見解はこちら。
気候、自然、エネルギーに軌道修正の可能性を探る
今月初め、科学者たちは2024年が記録上最も気温の高い年であったことを確認しました。
グローバルな気候変動の影響は目に余るほど顕著であり、ロサンゼルスでは大都市圏を焼き尽くす山火事が40年ぶりに発生。消火活動にあたる消防士たちの写真がニュースの見出しにあふれました。
世界経済フォーラムのレポートによると、異常気象の発生件数は過去50年間で5倍に増加しており、気候変動に起因する災害による被害額は2000年以降、3兆6,000億ドルを超えています。
ポツダム気候影響研究所のヨハン・ロックストローム所長は、「What’s Going on with the Weather?(気象の現状)」と題したセッションで「人間が関与していない異常気象は存在しません」と述べました。
同セッションの詳細はこちら。
アル・ゴア元米国副大統領は、人間が地球に与える影響を数値化。「世界では毎日1億7,500万トンの温室効果ガスが大気中に放出されています」。
「State of Climate and Nature session(気候変動と自然資本の現状)」セッションの聴衆に対して、その累積量は現在、地球上で毎日75万発の第一世代原子爆弾が爆発した際に放出される熱量に匹敵する余分な熱を閉じ込めていると語りました。
同氏および他の専門家による、気候を正常な軌道に戻す方法に関する見解はこちら。
トランプ氏は就任初日に、エネルギー生産に関する規制を緩和する大統領令に署名しました。
年次会合において、ライブ中継による演説でトランプ氏は、「AIを発展させるために、米国で現在使用しているエネルギーの2倍が必要だ。なぜなら、AIは非常に競争力があるからだ」と述べ、さらに「クリーンな石炭」もバックアップ電力源として使用できる可能性があると付け加えました。
同氏の演説に先立ち、国際エネルギー機関(IEA)のファティ・ビロル事務局長は、「All Hands On Deck for the Energy Transition(エネルギー転換に総力を結集)」セッションで、エネルギー安全保障とエネルギー転換のどちらが最も重要なのか、どちらを優先すべきかと問いかけました。「これは厄介な質問です。なぜなら、私たちは両方とも実現できるからです。
十分に検討して設計されたエネルギー転換政策があれば、最高のエネルギー安全保障を実現できます。価格を引き下げ、人々に繁栄をもたらし、雇用を創出することができるでしょう。
今日の人類にとって、この2つの重要な目標を対立させることは誤りだと私は考えています。私たちは両方を実現できます。そうすることが不可欠なのです」。
同氏の視点について、詳しくはこちら。
経済成長、金融においては信頼が鍵
会合の全体を通じて関税が主な議題の一つとなったのは自然な流れでした。世界と米ドルの「愛憎関係」も、セッション「State of Play: US Dollar(米ドルの現状)」で取り上げられ、世界をリードする通貨としての米ドルの現状と将来への期待を探りました。
ハーバード大学の経済学者ケネス・ロゴフ氏は、米国の財政軌道について疑問を投げかけました。
同氏は「米国の両党が、国債は無料でふるまわれるランチだと考えているようです」と述べています。
世界準備通貨として米ドルが不可欠な理由とそうではなくなる可能性についてはこちら。
グローバルな公的債務の急増が、年次総会に参加した経済学者たちを悩ませました。
「これは通常の状態ではありません。絶対的な転換が必要です」と、国際通貨基金(IMF)のギータ・ゴピナート筆頭副専務理事は述べました。「皆さんが考えているよりも状況は悪化しています」。
世界は約100兆ドルの公的債務を積み上げてきましたが、金利が上昇すれば、その返済ははるかに高額になります。
公的債務の急増が専門家たちを憂慮させる理由については、こちら。
トランプ大統領は就任数日前に、暗号通貨「$TRUMP」を立ち上げました。
これが金融システムの仕組みや規制に大きな転換点が訪れる兆しとなるのかどうか、「Crypto at a Crossroads session(岐路に立つ暗号通貨)」セッションで議論されました。
暗号通貨プラットフォームであるコインベースの最高経営責任者(CEO)、ブライアン・アームストロング氏は「世界最大のGDPを誇る国のリーダーが、初代の暗号通貨大統領になりたいと公言し、業界をアメリカ国内で構築することを望み、イノベーションを可能にする明確なルールに向けて米国政府のすべての機関を動かすつもりであると明言したことは、前例のないことです」と述べました。
会合の最後を飾る「The Global Economic Outlook(グローバルな経済見通し)」セッションでは、パネリストが成功を導くにはより自信を持つべきであると主張。一方で、負債やインフレに対する油断は禁物であるとの警告がなされました。
2025年のグローバル経済の見通しに関する5日目のまとめは、こちら。
雇用、健康、包摂性を促進する「ガール・パワー」の可能性
2025年の年次総会では、イギリスの女性アイドルグループ「スパイス・ガールズ」の元メンバー、メラニー・ブラウン氏が参加していたこともあり、特に「ガール・パワー」の存在が際立っていました。
各セッションでは、専門家たちが、女性の地位向上と成長促進のためには、健康、政治、経済の分野におけるジェンダーギャップを解消する必要があると繰り返し訴えました。
「女性の健康に1ドル投資するごとに、3ドルのリターンがある」と、ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団ジェンダー平等部門の責任者を務めるアニタ・ザイディ氏は「Investing in Women's Health(女性の健康への投資)」セッションで述べました。
国連児童基金(ユニセフ)キャサリン・ラッセル事務局長は、その恩恵は広範囲に及ぶとして「女性が健康で社会に参加できれば、社会は繁栄するでしょう」と述べました。
女性の健康を無視することの影響についてはこちら。
「もし女性が男性と同じように経済活動に積極的に参加していたら、世界のGDPは20%高かったでしょう」と、世界銀行のアナ・ビアルディ世界銀行専務理事(業務統括)は「Adding Trillions with Gender Parity(ジェンダー公正による数兆ドルの追加)」のセッションで述べました。
リーダーたちがジェンダー・パリティ(ジェンダー公正)を後退させてはならないと主張する理由は、こちら。
AI、テクノロジー、産業は時間との競争
「インテリジェント時代における産業」が年次総会のサブテーマの一つであったことから、エージェントAIの潜在能力という言葉が頻繁に登場しました。セッションでは、電気自動車、サイバーセキュリティ、スマート工場、そして各国政府や国家安全保障に対するAIの影響にも注目。欧州委員会のウァズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、「AIからクリーンテック、量子から宇宙、北極から南シナ海まで、競争は始まっている」と指摘しました。
「Getting EV Supply Chains Right(EVサプライチェーンの適正化)」のセッションでは、パネリストが、増加する需要に対応するためにメーカーや政策立案者が採用している戦略について議論。
米国と欧州での電気自動車の販売成長は鈍化しているものの、2027年には3,000万台以上の新しいEVが販売されると予想されています。メーカー各社は、地政学的な緊張が高まる中、生産規模を拡大するために、重要な部品や材料の信頼性が高く持続可能なサプライチェーンの確保を急いでいます。
「電気自動車に関しては、一国の取り組みにとどまりません。グローバルな取り組みになるでしょう」と、世界最大の電気自動車用バッテリーメーカー、寧徳時代新能源科技(CATL)の共同会長である潘建氏は述べ、電気自動車革命のグローバルな性質を強調しました。
業界リーダーたちによるEVサプライチェーンの未来に関する詳細は、こちら。
各国政府がデジタルトランスフォーメーションを推進する際には、官僚主義、レガシーシステム、新しいテクノロジーへの不安、そして安全やセキュリティなど、多くの課題に直面します。
インテリジェント時代におけるAIの活用に向けて必要な、政府の「再配線」に関する2つのセッションの詳細は、こちら。
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