包摂性、持続可能性、レジリエンスの高い未来の都市形成
都市化により、アジア太平洋地域の都市では2050年までに人口が12億人増えると予想されています。 Image: Wesley Pribadi/Unsplash
Christophe Bahuet
Deputy Regional Director for Asia and the Pacific, United Nations Development Programme (UNDP)- レジリエンスが高く、公平かつサステナブルな未来都市の構築には、新しいタイプの都市リーダーシップと都市マネジメントが必要です。
- 都市化により、アジア太平洋地域の都市では2050年までに12億人の人口が増加し、疲弊したインフラやサービスにさらなる圧力がかかると予想されます。
- 優れた都市ガバナンス、協力、そして変革を受け入れるリーダーたちが、安全かつ緑の豊かな未来の都市を築くことができます。
2030年のアジア太平洋地域の都市を想像してみてください。そこでは、あらゆるものがサステナブルであり、皆に開かれた公共サービスがあり、賑やかな都市生活の中に緑地があふれています。アジア太平洋地域のいくつかの都市では、自治体がこのようなビジョンの実現に向けて動き出していますが、その進捗は遅々としています。
しかし、重要なのはタイミングです。明日の都市は、今日の決定によって形作られるからです。レジリエンスが高く、公平かつサステナブルな都市環境の構築には、従来の都市マネジメントをはるかに超えた変革的アプローチを支持する、新しいタイプの都市リーダーシップが必要です。
今日、世界の二酸化炭素排出量の70%以上を都市の建物と交通が占めています。2050年までに、急速な都市化によってアジア太平洋地域の都市で12億人の人口が増加し、すでに疲弊しているインフラやサービスに莫大な圧力がかかり、気候変動の影響も重なることが考えられます。
急速な変革がなければ、アジア太平洋地域の多くの都市で不平等が拡大し、気候変動による災害に対してさらに脆弱になるでしょう。
過去20年間に気候関連事象の影響を最も受けた10カ国のうち6カ国がアジア太平洋地域にあり、成長著しい都市の脆弱性をさらに高めています。多くの都市が、増え続ける人口のために、清潔な水、アフォーダブル住宅、信頼できるエネルギーといった基本的なサービスを提供するのに苦労している中で、このような事態が発生しています。
イノベーションが緩和する都市化の影響
こうした課題に対処するため、急速な都市化と気候変動の影響を緩和する革新的な解決策を採用する都市が増えています。
国連開発計画(UNDP)は、パキスタンのカラチ市と協力し、グリーンで持続可能なインフラ・プロジェクトを開発。同市のレジリエンスを向上させるとともに、同市の住民に加えて気候関連事象の影響を受けた国内避難民の生活条件を改善しています。
これらのプロジェクトは、地域社会のレベルではインパクトのあるものですが、数百万人の住民、特に非正規居住地に住む最も脆弱な住民のニーズを満たすために、今後さらに規模を拡大していく必要があります。
この重要な時期に違いを生み出すのは、先見性と協調性を備えたリーダーシップです。公平、サステナブルかつ繁栄を生み出す未来の長期的ビジョンにコミットしながら、今日の複雑な都市課題に効果的に立ち向かうために、社会のあらゆるセクターにわたってパートナーシップを築き、行動を促す必要があるのです。
都市のリーダーたちが地方自治体、コミュニティ、企業、市民社会が協働して解決策を見出す、包摂的かつ前向きな戦略を支持することによって、環境悪化、都市の貧困、社会的排除、不平等といった、相互に関連する複雑な課題に取り組むことができます。
このような戦略があればこそ、必要なレベルの資金を活用し、住民の要求を満たす変化を実施し、将来の世代の権利を守ることができるでしょう。
オープンデータ、オープンな契約、オープンな対話といったオープン・ガバメント・アプローチを採用し、市民の信頼を築きながら、 緑豊かでレジリエンスの高い都市への変革に市民と企業が参画しているバンコク市は、アジアの好例です。
バンコクでは、公共機関、民間のステークホルダー、地域コミュニティが一体となった取り組みを通じて、「グリーン・バンコク2030」のような革新的なグリーン・インフラ・プロジェクトを展開。包括的な公共空間の創出、インクルージョンを念頭に置いた成長の促進、持続可能性の向上を図っています。
レジリエンスと繁栄への道筋をたどるには、未来都市の再構築に役立つデジタル技術やAIベースのツールの力も活用しなければなりません。
長期的な都市計画を支えるデジタルイノベーション
積極的なリーダーシップによって推進されるデジタルイノベーションにより、将来のショックやトレンドを予測し、将来のシナリオをモデル化することができます。そして、現在の住民だけでなく、将来の世代、特に女性や子ども、障がい者などの社会的弱者に恩恵をもたらすことができる、長期的な都市計画に反映させることができるのです。
2,400万人が暮らすバングラデシュの首都ダッカは、データが都市ガバナンスの開発課題をより良くサポートできることを示す一例です。予測分析を活用することで、同市は気候関連のリスクに対する早期警報システムを開発し、最も脆弱な住民を災害から守っています。
日本では、神奈川県横浜市が「横浜スマートシティプロジェクト(YSCP)」を通じて市民の参画を促し、温室効果ガス排出量を削減するためのデジタルツールを統合。サステナブルかつ包摂性の高い都市開発を実現しています。
シンガポールでは、モノのインターネット(IoT)、データ分析、自律型交通システムなどを統合した「スマートネーション」構想が、国のモビリティを高め、渋滞を緩和し、公共サービスの提供状況を改善して、アジア太平洋地域の都市イノベーションのベンチマークとなっています。
アジアの都市は今後も拡大を続け、その速度も増すでしょう。したがって、この都市成長という課題もまた大規模かつ複雑化していきます。それでも、すべての人にとって環境にやさしく安全な未来の都市を築くことは、手の届くところにあります。テクノロジーと資金がそれを可能にするでしょう。優れた都市統治、協働、変革を受け入れる先見性と大胆さを備えたリーダーたちこそが、これを実現することができるのです。