自然と生物多様性

都市の持続可能性とモビリティの目標達成に、役立つデジタルツール

アーバン・モビリティ・スコアカードは、都市でのサステナブルな移動を促進するツールです。

アーバン・モビリティ・スコアカードは、都市でのサステナブルな移動を促進するツールです。 Image: ZACHARY STAINES on Unsplash

Jeff Merritt
Head of Centre for Urban Transformation; Member of the Executive Committee, World Economic Forum
  • アーバン・モビリティ・スコアカードは、民間モビリティ事業者が直面する現実の課題と、都市が掲げる政策アジェンダとの隔たりを埋めることを目的としたツールです。
  • ブエノスアイレス、クリダバト、シンガポールの3都市の協力で実施したこのモビリティツールの導入試験によって、都市モビリティに向けた行動推進に必要な革新的な解決策が明らかになりました。
  • 世界経済フォーラムのイニシアチブであるグローバル・ニュー・モビリティ・コアリションは、現在、このモビリティツールの導入を希望する都市を募集しています。
  • モビリティツールの詳細はこちら。

運輸部門の温室効果ガス排出量の4分の3を占めるのは陸上輸送で、その45.1%が自動車・バスによるものです。世界の人口がますます都市に集中する中、大都市圏では、排出ガスを削減し、大気環境を改善するマルチモーダル交通システムの開発が急務となっています。

その解決策として、電気自動車(EV)が欠かせませんが、都市では自家用車中心の交通体系からの脱却を図ることも必要です。自動車に起因するスプロール化は、公共交通機関を弱体化させ、徒歩や自転車での移動を困難にし、格差を拡大し、インフラコストを増加させます。都市空間が道路や駐車場として利用され、必要な住宅や緑地などが失われつつあり、渋滞や交通事故死の増加、地価の上昇といった下流効果も懸念されます。

さらに、低炭素交通機関の整備が進めば、モビリティの向上という直接的なメリットだけでなく、生活の質にも大きな影響を与えることは間違いありません。この成功例は数多くありますが、例えばコロンビアのメデジンでは、ケーブルカーを導入することで、孤立した地域から都心の仕事にアクセスできるようになりました。アクシオスは、ケーブルカーの導入を原動力として「1990年代には世界で最も危険な都市だったメデジンは、2013年には世界で最も革新的な都市へと経済的・社会的変貌を遂げた」と伝えています。

しかし、都市が変われば、交通システムも変わらなければなりません。排出量の削減、公共交通機関や共有交通機関の充実、格差への取り組みなど、新たに生まれた課題には新たな解決策と行動が必要です。では、都市がよりサステナブルで包摂的なモビリティに向けて取り組む中で、その進捗状況を把握するにはどうしたらいいのでしょうか。

都市の新しいリソース:アーバン・モビリティ・スコアカード

世界経済フォーラムのイニシアチブであるグローバル・ニュー・モビリティ・コアリション(GNMC)は、サステナブルなモビリティを目指す都市の取り組みを支援するためのツールとして、アーバン・モビリティ・スコアカードを3つのテスト都市と連携して開発しました。このモビリティツールは、サステナブルなモビリティの実現に向けた進捗を評価するためのベンチマーク(基準)として、企業とパブリックセクターとの密接な協働により開発されたものです。このツールを使えば、都市のモビリティの主要課題を網羅した評価が行われ、その都市が持っている強みと弱みの把握、優れた実践の認識、行動が必要な領域の特定が可能になります。さらに、様々なケーススタディやリソースの他、新しい政策や規制への対応を設定するオプションが提供されており、サステナブルで包摂的なモビリティへの移行に向けて目指すべき水準が常に更新され、都市に行動を促すように設計されています。

このプロジェクトは、シェアードモビリティ、電動化、アクティブモビリティ、ペイメント事業者など様々なセクターのステークホルダーや、複数のモビリティNGOが連携する契機となりました。一連の対話を通じて、こうした多様な専門家のステークホルダーが、都市でのサステナブルなモビリティの導入における経験や課題を共有するとともに、導入を進める上で必要な解決策についてそれぞれの見解を述べました。こうした対話は、この目的のために作られた特別なワーキンググループや、対面ミーティング、インタビューを通じて、民間モビリティ企業が直面する現実の課題と都市が設定する政策アジェンダとの隔たりを埋めることを目指したもので、スコアカードの評価内容の開発に大きな役割を果たしました。

アーバン・モビリティ・スコアカードは、3つの基準で都市のモビリティを評価します。
アーバン・モビリティ・スコアカードは、3つの基準で都市のモビリティを評価します。

1. ガバナンス

制度的調整(計画、資金調達、リソース配分)、規制(環境、都市の車両アクセス、データ管理)、イノベーション(シェアードモビリティ、パイロットプロジェクトとプロセス、電動化)を通じて、より軽快で適応性が高く、将来を見据えた都市モビリティ・エコシステムを構築する方法を探るための基準です。

2. レジリエンス(柔軟性)

都市がどのようにスペースを異なる用途(路上駐車場など)に割り当てているのか、またそのような計画にモビリティがどのように関わっているのかを調査するための基準です。この基準の評価項目には、スペースの割り当てに関わるもの(自転車、マイクロモビリティ、歩行者、公共交通機関・共有交通機関)と、カーブサイド・マネジメントに関わるもの(駐車場、配送・物流管理)とが含まれます。

3. コネクティビティ(接続性)

都市のモビリティシステムがいかに便利で利用しやすいかを評価するための基準です。この基準の評価項目としては、モビリティの統合(マルチモーダル統合、モビリティの決済・発券、インフォーマル交通)、安全で公平なアクセス(利用しやすさ、モビリティサービスへのアクセス、道路利用者の安全)が含まれます。

アーバン・モビリティ・スコアカードの試験導入

アルゼンチンのブエノスアイレス、コスタリカのクリダバト、シンガポールの3都市の協力によって、アーバン・モビリティ・スコアカードの改良とテストを行い、企業のステークホルダーと密接に関わることが可能になりました。各都市は、サステナブルなモビリティの実現にあたってそれぞれの見解や課題を共有し、スコアカードの評価項目について詳細なフィードバックを提供したほか、官民対話に参加し、ツールを実際に使用してそれぞれのモビリティ・エコシステムの評価を行いました。

スコアカードの試験導入にあたり、各都市はモビリティに関する様々な質問に対して回答しました。その回答からは、よりサステナブルで包摂的なモビリティの実現に向け各都市が採っている方法と、サステナブルなモビリティの主要課題に正面から取り組むために各都市が特に注力している領域とが明らかになりました。

例えば、公共交通機関が充実しているシンガポールでは、2030年までに6万を超えるEV充電ポイントを設置し、公共バスの50%をEV化することを目標にして、電動化の推進を図っています。

一方、交通におけるジェンダーなどの課題への対策をすでに進めているブエノスアイレスは、さらに公共交通と自転車の利用推進を強化し、市内の主要なエリアでは歩行者専用道路化と低速ゾーンの拡大を優先的に実施することで、マイカー利用の増加を抑制しようとしています。

アーバン・モビリティ・スコアカードによるブエノスアイレスの評価結果。
アーバン・モビリティ・スコアカードによるブエノスアイレスの評価結果。 Image: World Economic Forum

コスタリカのサンホセにあるクリダバトは、今後4年間で歩行者専用道路を倍増させるとともに、ウォーキングや自転車利用の推進計画に生物多様性の要素を取り入れることで、自然に根差した解決策においてリーダーシップをさらに発揮しようとしています。

アーバン・モビリティ・スコアカードによるクリダバットの評価結果。
アーバン・モビリティ・スコアカードによるクリダバットの評価結果。 Image: World Economic Forum

モビリティツールの開発で得た学び

スコアカードの開発には、企業、パブリックセクター、NGOとの対話が欠かせませんでした。しかし、これらの対話から、よりサステナブルなモビリティへ迅速な移行を実現するためには、都市や企業がさらに広範な構造的課題のいくつかに対処する必要があることが明らかになったのです。モビリティがサステナブルで公平かつ革新的な都市への移行を実現するためには、いくつかの面で行動が必要です。都市モビリティの変革を実現するためには、以下のような基本的な課題が残されています。

投資と資金調達のギャップを克服する

サステナブルなモビリティへの移行を達成するためには、投資の資金ギャップの解消に一層注力する必要があります。例えば、EVの充電、フリート車両のアップグレードなど、新しいインフラには多額の資金が必要です。公共・民間の投資が同時に必要であることに加え、特に企業の参加を促すには新たな投資機会・モデルを検討する必要があります。また、現在、都市では資金調達や投資の道筋が不透明であることが多く、多くの都市では財政的な意思決定能力に限界があるのが現状です。その他の課題としては、モビリティのインフラや新サービスに投資すべきなのは誰なのか(パブリックセクター、企業、地方自治体、国など)といった、責任の所在が不明確であることも含まれます。

電動化の実現に向けた連携と行動の強化

交通の電動化は、パブリックセクター、企業どちらのステークホルダーにとっても共通の目標ですが、短期間で進歩を遂げるには、もっと大規模な行動が必要です。交通の電動化は、都市行政、民間事業者、充電事業者、電力会社などの対応が必要であり、決して簡単なことではありません。パブリックセクターと企業間(例えば、フリートオペレーターや充電事業者の参加)だけでなく、市政府内(政府部署・機関など)、異なるレベルの政府間(市政府と国政府など)においても調整・協力が必要です。

モビリティの中心に包摂性を据える

全ての人のための交通システムを構築するには、アクセシビリティと公平性をモビリティ計画の中心に据える必要があります。アクセシビリティは往々にして計画プロセスの中で補足的に扱われがちで、サステナブルなモビリティへの移行において置き去りにされる人が大勢います。都市環境のユニバーサルデザインを通じてより幅広い層(低所得者、女性、高齢者、幼児を持つ親、異なるアクセスニーズを持つ人など)のニーズを考慮し、便利で利用しやすい公共交通システムを構築すれば、より効率的で配慮の行き届いたモビリティが実現し、誰もがサステナブルなモビリティを選択できるようになります。

サステナブルな都市モビリティへの重要な道筋。
サステナブルな都市モビリティへの重要な道筋。 Image: World Economic Forum

行動を起こす時

今後、サステナブルな都市モビリティのあらゆる側面で行動を推進するためには、セクターや業界を超えた連携と調整が必要であることは明らかです。グローバル・ニュー・モビリティ・コアリション(GNMC)は、企業、パブリックセクター、NPOのモビリティ・ステークホルダーのコミュニティとして、都市、企業、市民社会との協働を続けていきます。GNMCは、都市モビリティに関する行動を推進するために、都市と企業をつなぐことで、アーバン・モビリティ・スコアカードの開発をさらに進めていきます。

これからのGNMCと都市の連携は新興国に焦点を当て、都市のサステナブルなモビリティへの移行を評価するためのベンチマークを提供し、行動を促すことを支援します。こうした提携都市は、デジタル化されたモビリティツールにアクセスし、都市モビリティの7つの領域でのパフォーマンスを自己評価し、ベンチマークに即して進捗状況を把握し、目標達成のための行動を設定することができます。

また、提携都市は、サステナブルなモビリティの課題解決策を見出すために開催される対話を通じて、主要な企業ステークホルダー(モビリティ事業者、インフラ事業者、サービス事業者など)や市民社会グループとつながることができます。

スコアカード開発時のワーキンググループセッション、対話、イベントからの学びを基に、GNMCは都市モビリティ移行の資金調達に関する新しいワークストリームに取り組んでいます。これは、特に電動化とシェアードモビリティ(公共交通、マイクロモビリティ、共有車両)促進のため都市におけるサステナブルなモビリティへの投資ギャップを克服することに焦点を当てた活動で、GNMCの呼びかけでモビリティ事業者、金融機関、都市行政、NGOが集まり、公共・民間投資を促進するために必要な措置について共通認識を形成することに取り組んでいます。

GNMCのアーバン・モビリティ・スコアカードの開発は、ネットゼロシティの推進、ネイチャーポジティブな都市環境の醸成に向けた世界経済フォーラムの取り組みの一環として行われているものです。GNMCの参加やアーバン・モビリティ・スコアカードの使用に関心がありもっと詳細を知りたいという都市や組織は、こちらにお問い合わせください

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