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デジタル技術で認知症問題に挑む、日本の取り組みとは

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テクノロジーは、認知症患者とその介護者が認知症をうまく管理するのに役立ちます。 Image: Joey Huang/Unsplash

Naoko Tochibayashi
Communications Lead, Japan, World Economic Forum
Mizuho Ota
Writer, Forum Agenda, Forum Agenda
  • 世界では5,500万人以上が認知症を患っており、平均寿命が延びるにつれてこの数字は増加すると予想されています。
  • 日本の人口の10%近くが、今後数十年のうちに認知機能の低下とともに暮らすようになる可能性が指摘されています。
  • 日本政府は、認知症患者とその介護者を支援する製品を開発するため、テクノロジー分野と連携しています。

世界中で認知症が増加しています。世界保健機構(WHO)の2023年の報告書によると、現在、世界には5,500万人以上の認知症患者いることに加え、毎年、1,000万人近くが新たに発症しています。

日本においては、2030年までに523万人が認知症になることが厚生省の推計により示されており、高齢化により増加傾向が続くとされています。さらに、認知症の予備群とされる軽度認知障害患者数は2030年までに593万人に上ると推計され、認知症患者数と合わせると1,100万人を超え、日本の人口の10%近くに迫る勢いです。

認知症は2019年に全世界で1兆3,000億米ドルの経済損失をもたらし、その約半分は家族や親しい友人などによるケアに起因しているとWHOは警告しています。同時に、日本において大きな課題の一つとなっているのが、今後一人暮らしの高齢者が増えると予測される中、家族の支援が限られた認知症患者を支えていく方法です。

科学的なアプローチによる認知症患者向け製品の開発

認知症患者が増加する中、日本では、2024年1月1日に、「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」が施行されました。同法は、認知症患者およびその関係者が尊厳を持って生活できる環境づくり、およびそのための支援に関する、国と地方公共団体の責務を明らかにしています。

こうした動きと並行して、経済産業省では、認知症に関する民間ソリューションの拡大を歓迎するとともに、認知症に対する正しい理解に基づいた製品開発を支援することを目的として、「オレンジイノベーション・プロジェクト」を立ち上げました。同プロジェクトでは、認知症当事者が実際に必要とする製品およびサービスを拡充するため、製品を使用するユーザー自身が開発に参加し、企業と共創する「当事者参画型開発」の普及に取り組んでいます。

その一例が、タブレット端末・通信機器メーカーのLIMNOによる、ヘルプタブレットプロジェクトです。同社のプロジェクトメンバーは、拠点とする鳥取市に在住する認知症患者との意見交換会を重ね、彼らが日常生活の課題に対処できるタブレット端末をデザイン。試作品を実際に使ってもらうことにより、機能、デザイン、用途などに関するユーザー自身の意見を取り入れることができ、探し物サポートや服薬状況のモニタリング、お絵描き機能などが搭載されたタブレットが完成しつつあります。

さらに、こうした意見交換会などによる認知症患者との交流を通じて得られる発見と学びは、製品の開発だけでなく、認知症との共生への道につながると、同社の木村祐一社長は述べています。

認知症ケアにおけるデジタルの活用

高齢化と人手不足が深刻化する中、デジタル技術を活用した認知症のケアも増えていきています。デジタルを活用した認知症ケアの例の一つが、患者の見守りシステムです。2023年に報告された認知症患者の行方不明者数は1万9039人に上り、患者の徘徊防止および位置・安全確認が大きな課題となっています。

兵庫県加古川市では、企業と連携して、BLEタグと「見守りカメラ」を活用し、家族がアプリを通じてユーザーの位置情報が確認できるシステムを導入しました。利用希望者が高齢の認知症患者である場合、加古川市が料金を負担するため、基本無料で利用することができます。

また、ウェブソリューションなどを提供するEnazeal株式会社は、同社の顔認証技術により、介護施設内において、徘徊による無断外出および離院を防ぐシステム「LYKAON」を開発。こうしたシステムを活用することにより、患者の徘徊に対する警戒や捜索に伴う、介護者および家族などへの負担を大幅に軽減することができます。

デジタルの活用による認知向上

認知症発症後のケアとともに、発症前から定期的に脳の機能をチェックすることにより、認知症に対するリスクに対する意識を高めることも重要です。近年では、デジタル技術を活用し、こうした観点からの啓発活動も進められています。

兵庫県三田市では、2022年から、体と同様に脳の健康も意識してもらうことを目的として、タブレットやスマートフォン上においてゲーム感覚で脳の健康度をチェックできる「タッチde脳の健康チェック」を導入。医薬品企業であるエーザイが開発した「のうKNOW」アプリを使っており、結果に応じて相談窓口や認知症予防事業などにつながる仕組みです。また、静岡市はスタートアップ企業のFOVE社と提携し、同社のバーチャルリアリティ(VR)を用いた「認知機能セルフチェッカー」を認知症予防プログラムに取り入れています。

ケアによる負担軽減と快適な暮らしが実現できる社会へ

認知症患者のニーズに基づいた製品やサービスの開発に加え、デジタル技術を活用したソリューションは、高齢化および人手不足が深刻化する日本において、ケアの負担を軽減し、患者と介護者の両方が尊厳を持って生活できる環境づくりに貢献しています。官民が連携し、こうした支援をさらに推し進めることにより、患者と介護者が共に参加し続けられる、インクルーシブな社会を築くことができるのです。

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