建物改修に投資を呼び込む、場所を基軸としたモデルとは
場所を基軸とした改修プロジェクトは民間資金を引き付けることができます。 Image: Unsplash/Paul Hanaoka
- 気候変動を緩和するためには、既存住宅の改修が不可欠です。しかし、構造的および財政的な要因により、個々の住宅所有者に改修を求めることは現実的な解決策ではありません。
- 質を犠牲にすることなく改修を大規模に加速させるためには、「資金がある場所」と「資金が必要な場所」のギャップを埋めるモデルが緊急に必要です。
- 「国境なき銀行団(BwB: Bankers without Boundaries)」は、地域社会の意識を高めると同時に資金調達可能なプロジェクトを生み出す、場所を基軸とした革新的アプローチを開発しています。
建物は、私たちの生活の多くの側面において中心的な役割を果たしています。基本的な住居の提供から、市民社会が発展できる空間の創出まで、様々な役割を担っているのです。一方、重要な構造物である建物は、炭素排出量の約40%を占めており、気候変動の主な要因にもなっています。
予想では、2030年までに世界の都市部の建造面積が、さらに120万平方キロメートル増加。同時に、2050年には現在ある建物の約80%がそのまま使用されているであろうと考えられます。したがって、既存建造物のエネルギー転換への取り組みが緊急の優先事項となっているのです。
改修を行うことにより、既存の建物に新しい素材、製品、テクノロジーを導入して、建物の使用に必要なエネルギーを削減することができます。一方、その進捗は遅々としており、現在、グローバルな改修率は、年間で建築ストックのわずか1%にとどまっているのが現状です。
財務的障壁の克服
住宅建築に関して、BwBの調査では、改修活動の加速を制限する社会的および財政的な要因の複雑なネットワークが存在することが明らかになっています。その要因の多くは、個々の住宅所有者が行動を起こすことに依存し過ぎているために生じています。
住宅1軒あたりの改修費用は2万ドルから10万ドルと高額であるため、ほとんどの世帯にとって改修は単純に経済的負担が大きく、手が届かないのです。
しかし、資金調達の見込みは十分にあります。例えば、富裕層向け資産運用会社の運用資産は、2016年の85兆ドルから2025年には145兆ドルに増加すると予想されており、インフラ資産も同期間に5倍以上拡大すると予測されています。
これらの民間投資資金の一部を住宅改修に回すことができれば、気候変動への耐性を高める活動を加速させる上で画期的な転換点となるでしょう。
投資可能な改修プロジェクトの構築
課題は、「資金がある場所」(機関投資家)と「資金が必要な場所」(改修プロジェクト)のギャップを埋めることです。住宅部門の所有構造は細かく分散しているため、重点が個々の世帯に置かれている限り、投資可能な規模は大幅に制限されます。
BwBは、現在のミスマッチを克服するために、場所を基軸とした中央主導のアプローチを取る革新的なソリューションを開発してきました。
このアプローチの主な特徴は以下のとおりです。
- 近接する住宅を1つのプロジェクトにまとめる。
- 地域とつながりを持つ中央のプロジェクト開発組織またはコンソーシアムが管理を行う。住宅と並行して他の資産への介入を伴うことが多い。
気候ニュートラルな近隣地域の推進
場所を基軸とした改修市場は、開発の初期段階にあります。様々な資金調達モデルや提供モデルが試験的に実施されていますが、まだ大規模に展開されているわけではありません。このモデルが機能し、投資対象となり得ることを示す実績が必要です。
BwBは、この分野の拡大に積極的に取り組んでいます。
- 場所を基軸とし、利益をもたらすプロジェクトを開発できるよう、公共機関を支援。
- 公共機関職員の金融ノウハウ向上に努めている。
BwBは、地域リーダーが従うべき包括的な基本フレームワークを開発しました。レジリエンス、公平性、中立性、環境、幸福の英語の頭文字をとった「RENEW」と、地区を意味する「ディストリクト(District)」を組み合わせた、「RENEWディストリクト」です。
投資可能なプロジェクトの開発
その一例として、BwBは英国の複数の地方自治体と提携し、「ネットゼロ・ネイバーフッド」モデルを導入。より広範な地域に焦点を当てた介入(例えば、グリーンインフラや移動手段の選択肢を整備するなど)と並行して、住宅のエネルギー効率の改善に取り組んでいます。
地方自治体は、特定の地域を対象に詳細な実現可能性調査を実施し、地域社会の関与を図り、小規模な住宅グループを対象に改修介入の試験運用を行うことにより、このモデルの試験運用を行っています。
これらのパイロットプロジェクトは、実現性の上で実績を確立し、民間金融機関との対話を促進することを目的としています。
地域能力の構築
また、場所を基軸としたモデルを成功させるには、地域社会から信頼され、中心となるプロジェクト開発機関が必要です。地方議会や市議会は、この役割を担うのに適していますが、投資可能なプロジェクトの開発を促進するための十分な財務ノウハウや能力が欠けている可能性があります。
BwBは、欧州連合(EU)の「100の気候中立かつスマートな都市ミッション(100 Climate-Neutral and Smart Cities Mission、以下「都市ミッション」)」を支援するコンソーシアムの一員として、100以上の都市と協力しながら、この課題に取り組んできました。
こうした取り組みの中心となるのは、「都市金融専門家」の派遣です。都市金融専門家は、現地の深い知識を持つ金融のプロフェッショナルであり、プロジェクトへの技術支援、資本動員のサポート、関連する都市職員の能力向上を支援します。
気候変動対策への資本投入
「資金がある場所」に関して、これまで改修は不動産投資の中心的な焦点ではありませんでした。しかし、この状況には変化の兆しが見られます。例えば、エネルギー効率の悪い、古い建物をサステナブルなスペースに変える手段として、不動産転換ファンドが登場し、重要なことに、住居用不動産をアップグレードするための投資先を探しているのです。
一方、この分野の転換資金は、不動産投資業界の枠を超えていく必要があります。金融機関とその他企業による、より幅広い参加がなければなりません。
この課題に取り組むため、BwBは2024年6月に「気候都市キャピタルハブ(Climate City Capital Hub、以下「キャピタルハブ」)」を立ち上げました。この中立的な資本センターは、都市ミッションに参加する都市が特定した投資ギャップを埋めるために必要な6,500億ユーロの資金を確保することを目的としています。
キャピタルハブは投資家に、様々な分野や地理的特性にわたる、財務的に実行可能な気候関連投資機会の堅牢で信頼性が高く、拡大するパイプラインへのアクセスを提供します。
ブレンデッド・キャピタル
場所を基軸とした改修アプローチはまだ発展途上にあるため、一般的に、民間資金の流れを増加させるには資金調達と融資を複数の公的/民間資金源から組み合わせて規模を拡大するブレンデッド・ファイナンスのソリューションが必要となります。
BwBは、投資コストの少なくとも半分は、非回収型資金(例えば、慈善活動の参加や他企業からの寄付が追加された公的助成金など)から調達する必要があると見積もっています。
民間資金は、規模、テクノロジーの準備状況、収益プロファイルに応じて様々な金融機関から調達することができます。キャピタルハブは、開発銀行、年金基金、保険基金、インフラファンド、インパクト投資家など、幅広い金融事業者と連携しています。
重要なのは、確実に融資が受けられるよう、プロジェクトの性質を金融事業者の要件に一致させることです。
場所を基軸としたモデルは、改修に関する活動のペースを加速させる可能性を秘めた、新たなイネーブラーです。建物の改修を、場所を基軸とした視点で捉えることで、環境のレジリエンスを高めることを目標にすると同時に、機能性を促進し、さらなる経済的価値を享受しながら、コミュニティ意識を強化する機会が生まれるでしょう。