物流の未来を構築する、自動・効率化システムとは
日本は物流分野における深刻な労働力不足に直面しています。 Image: Unsplash/Siborey Sean
- 日本の物流需要は過去20年間で倍増している一方、労働力不足が深刻化しています。
- こうした問題に取り組むため、日本政府は自動貨物ハイウェイの建設計画を発表しました。
- こうした取り組みは、物流効率の向上だけでなく、環境負荷の低減も目指しています。
世界的な電子商取引(EC)の台頭により、物流の需要が高まっています。日本では、過去20年の間に、1件あたりの貨物量が半減する一方、物流件数がほぼ倍増し、小規模の貨物がより頻繁に配送されていることが、国土交通省の報告により明らかになっています。また、EC市場による宅配便の数は5年間で23.1%増加。2022年には約50億個に達しました。
こうした状況の中、日本では物流分野における人手不足が深刻化しており、増え続ける需要への対応を困難にしています。2024年4月からは、ドライバー業務における勤務時間規制が始まり、適切な勤務環境の保護と安全性向上につながる一方、ドライバーが輸送に従事する時間が減少することにより物流が停滞する「2024年問題」として、対策が急がれてきました。1995年をピークに、98万人いたトラック運転手の数は、2030年には約52万人となり、物流格差は34%に拡大すると予測されています。一方、人手不足を補うため、企業では、未だ、経営者や役員らが荷物の積み下ろし作業や運転を手伝うケースが相次いでいるのが現状です。
人手不足に加えて課題となっているのが、輸送効率の改善です。トラックが積載できる最大量に対する実際の積載量を示す「積載率」は、現在、平均38%に留まっており、荷物の積み込みにかかる時間なども含め、輸送作業全体における効率化が急務とされています。
政府による目標数値の設定
物流分野における逼迫(ひっぱく)の解消に取り組むため、日本政府が講じている対策の一つは、業務効率化における具体的な数値目標の設定です。国土交通省、経済産業省、農林水産省の3省は、2028年を目処とする目標数値として、1日当たりの荷待ちと荷役にかかる時間を現在の3時間から2時間にした上で、1回の受け渡し時間を1時間以内に抑えるとしています。また、積載率を全体の半分のトラックで50%にするため、現在の38%から44%に引き上げるとしています。また、目標達成に向けて、必要な投資などに補助金を提供し、全国の事業者に対して定期的に進捗状況を確認する方針を発表しました。
生産性向上に向けた自動物流道路の導入
さらに、今後ドライバーが減ることを想定し、現在計画されているのが、「自動物流道路」の構築です。自動物流道路とは、既存の高速道路にある中央分離帯および路肩部分を利用し、大型無人搬送車(AGV)に荷物を積んで輸送するための物流用の専用レーンを指し、政府はこれに向けた検討会を設置しています。類似する構想として、スイスにおける、主要都市間に物流用のトンネルを通し、自動カートによる輸送システムの構築が挙げられます。
2024年7月、政府は、自動物流道路の社会実験を2027年度までに行う決定を発表。同時に公開された中間報告書によると、最適な走行速度や安定輸送のための技術開発に加え、道路への影響や荷物の積み下ろしの自動対応などに関して検証し、2034年を目処に、渋滞が起こりやすい大都市近郊の高速道路において実証輸送を行うとしています。
省人化・無人化に加え、24時間稼働、先を見越した輸送計画をベースとした効率化により現在抱えている課題を解消し、将来的には日本の二大都市である東京・大阪間での運用を目指しており、輸送手段の一つとして確立したい考えです。現在トラックで輸送されている食品や衣服などのうち、最大26%ほどを自動物流道路に切り替えることが可能になると試算されており、物流の新たな切り札として大きく期待されています。
さらに、企業による取り組みも進んでいます。パナソニックグループの物流面を担うパナソニック オペレーショナルエクセレンス、自動運転トラック開発および輸送サービスを提供する株式会社T2、三井倉庫ロジスティクスの3社は、自動運転トラックを活用した新たな輸送オペレーションの構築に向けて連携。3社は、それぞれが強みとしている、物流のノウハウやオペレーションの最適化、自動運転技術を駆使し、2025年1月から、ドライバー監視下での自動運転トラックによる輸送の実証実験を行い、将来的には、無人の自動運転トラックの導入を目指しています。
安定的な物流システムの構築へ
世界経済フォーラムの「グローバル・ニューモビリティ・コアリション(Global New Mobility Coalition)」によると、2030年までに、ラストワンマイルが78%増加し、物流のさらなる逼迫が懸念されています。物流全体の自動化・効率化は、需要を安定的に満たすために不可欠です。
日本での取り組みは、「サプライチェーン、ロジスティクス、運輸業界コミュニティ(Supply Chain, Logistics and Transport Industry Community)」を通じて、より安全でクリーン、かつ包摂的なサプライチェーンへの移行を目指す同フォーラムの取り組みを含む、グローバルな動きと一致しています。物流における日本でのイノベーションは、世界により効率的かつ持続可能なシステムを構築するためのモデルとなり得るのです。